その名前はマズい
川の近くで俺らを出迎えたのは二人のイクスペラーの男だ。
一人は小太りな感じ。式神を連れているから陰陽師か。もう一人はすらりとたくましそうだ。二人とも二十代半ばくらいだろうか。
「あなた方が掃討作戦で派遣された方々ですか」
「あぁ。任務ご苦労さん」
「よろしくお願いします。我々では手におえない相手ですから」
たくましい方が頭を下げた。
「確かご苦労さん、って、目下の人に使う挨拶じゃなかったっけ?」
ラファエルがつぶやいている。変なところで日本語詳しいんだな。
彼らが仕留め損ねたヤツを俺らがわざわざ倒すんだから、いいんだよそれで。
口にしたら高慢ちきとか言われるから、黙っとく。
「で、変異体ってどんなヤツなんだ?」
「我々が仕留め損ねたのは二種類です。蜂とタニシなのですが……」
両方やたら巨大化しているらしい。
亜里沙と戦った蚊を思い出した。あんな感じだろうか。
「変異体とは戦闘を?」
「はい。でもかなわなかったので必死で逃げました。だから、詳しいデータなどは判りません」
「じゃ、判っている特長だけでも教えてくれ」
「それに関しては、私のほうから説明いたします」
突然陰陽師の方が、なぜか胸を張って説明しはじめた。
「タニシは、攻撃された個所に八角形の障壁が生じ、こちらの攻撃では全く歯が立ちませんでした。ある一定のダメージ量以下を完全に弾いてしまうという特徴を持っていると思われます」
あー、俺が苦手なタイプだ。俺の攻撃力自体はそんなに高くないからな。タニシはヘンリーに任せよう。
「蜂は、常に四匹で行動しているので、それを一団と数えることにしました。とても高速で飛び回り、その空気の振動による衝撃波で相手に攻撃を加える、という特徴をもっております」
まだこっちの方が相手しやすいか? でも衝撃波を生むくらいの速度だからな。油断できない。
「これらの生物に、名前を付けました」
んっ? 名前を付けた?
ってかなんでそんな目を輝かせてんだこの陰陽師。
「タニシは、ここ『朝川』で見られる特殊なもので元々『朝川タニシ』といいますが、これのもつ特徴と考え合わせて、「ATフィールド」と名づけました」
ちょ、そのネーミングまずくないか?
「蜂の方は、衝撃波で攻撃し、常に四匹で行動しているのでQuake Tetra Honeyで、略して『QTハニー』です」
もっとまずいの来た。
「いいから、ここは我々に任せて、君はすぐに病院へ行きなさい」
ヘンリーの辛辣ツッコミ。
「ネーミングセンスはともかく、特徴はよく判った。じゃ、とっとと探索始めようか。早く終わらせようぜ、こんな仕事」
変異体を倒さないとまずい状況なのに力が入らないのはどうしてだ?
蜂の方はきっと羽音で判るだろうから近づいたら即戦闘ということで、川の近辺を低空飛行で行き来して、タニシを探す。
川の方はラファエルとヘンリーに任せて、俺は地面にタニシが這いずった跡とかがないか探す。
……おっ、この跡はタニシか?
地面に明らかに何かを引きずったような痕跡がある。
たどってみると……。
ボートだ。
見当違いだったか。
「違うじゃんアル」
後ろからついてきていたリンメイが非難の声を漏らした。
「すまん」
ここは素直に詫びておく。
この川はところどころにこうやって、向こう岸まで渡るボートが設置されているらしい。
「周辺の林も見てみるか」
つぶやいて、木々の間を縫うように飛ぶ。
明らかに不自然な形で木が削れている。これは間違いなく蜂の衝撃波の影響だな。けれど肝心の蜂がいない。
そんなふうに探していると、川の方を捜索してるヘンリーから、タニシ発見の一報が入った。
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