強力な障壁
ヘンリーのところへ行くと、ちょうど彼が大剣を川に突っ込んでいるところだった。
「てこの原理でひっくり返そうと思ったのですが、障壁に邪魔されましたね」
言いながら、今度はつんつんとつついている。
すると水中から触手が伸びてきた。
ヘンリーは大剣を引っこ抜いてガードした。
触手が巻き付く。
ヘンリーの体にぐっと力がはいる。タニシが引き込もうとしているんだな。
数秒ほど引き合いが続いて、触手が引っ込んでいった。
「あわよくば引きずり出せればと思ったのですが」
さすが巨大化してるだけあって力が強いし重いだろう。
タニシは自分が戦いやすい水中から出てくる気はないだろうなぁ。
「では僕の『引き寄せ』で陸上に出しましょう」
ラファエルが案を出してきた。それがいいと思う。
彼の両脇を俺と亜里沙で固めて、ラファエルに『引き寄せ』を唱えてもらう。
忽然と俺らの前に巨大タニシが現れた。
早速触手を伸ばして攻撃してくる。鞭のようにしならせて打ち付けてきた。
さくっと回避して、反撃だが。
八角形の障壁に阻まれてタニシにダメージはなさそう。こりゃ俺の攻撃は通じないな。
タニシが俺に攻撃を仕掛けてきた隙をついたヘンリーが大剣を思い切り叩きつける。ざくりと刃が表皮を裂いた。
うん、ヘンリーの攻撃が通じないとなると絶望だよな。
亜里沙も切りかかるがやっぱり障壁に阻まれている。
頑丈だなATフィールド。思わず笑いが漏れるほどだ。
リンメイが魔法で動きを鈍らせてくれたけれど、障壁が消えるわけじゃないんだよなぁ。
しょーがないな、あんまり一体相手に使いたくないけれど。
右手を掲げて、集中する。
反射ダメージが入るほどMPを込めなくていいだろう。
「業火にのまれろ、『炎竜波』」
炎がタニシに巻き付いて、ウェルダン。泥臭いけれど香ばしい、なんとも言えない臭いが漂ってきた。
こいつは元がここの川の生物だから倒しても消えないな。
ウィルス持ちだし、このままにしておけないが。
本部に問い合わせてみると、常駐組のどちらかに持ってこさせて、ということだ。
「それでは私が行ってきます」
戦士系の方が進んで申し出てくれた。若干嬉しそうに見える。
それならってことで、タニシを預ける。軽トラックの荷台に乗せて布をかぶせしっかり固定して、送り出した。
「なんだかすごく嬉々としてたように見えたんだけど」
あ、俺の勘違いじゃなかったか。
「きっとあの陰陽師と離れられて嬉しいアル」
うん、ちょっとしゃべっただけでうんざりするぐらいだから、四六時中任務で一緒にいる彼はもうかなり嫌気がさしているかもしれないな。
彼を見送ってから変異体の捜索を再開するが、見つからない。
陰陽師の話だとタニシと蜂、それぞれ二回ずつ遭遇した、という話だ。同じヤツなのか違うのかまでは判らないが、少なくとも蜂の方はまだ見つかっていないから残っているはずだし、もう少し腰を据えて探すしかない。
戦士くんが本部に着いた頃を見計らって連絡を取り、戻ってくる時に俺らのキャンプ用品を持ってきてもらうように頼んでおいた。
「キャンプ用品なら私が持っていますよ」
陰陽師が言ってるが。
「あんたのはあんまり使いたくないアルよ。あんたは一人でキャンプしておいてアル」
特にリンメイに邪険にされている。
夕方まで変異体を探しても見つからない。うーん、長引きそうな感じだな。
戦士くんが戻ってきて、今日はもうあきらめようとなって、野営の準備を始める。
「カレー作るアルー」
リンメイがウキウキしながらカレーを作ってるが。そういやこいつ、惚れ薬手に入れてたよな。
自分の分は自分で作ることにした。
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