ただのオタクはおさわり厳禁

 夜は交代で見張ることにした。


 ヘンリー、ラファエル、リンメイと、俺、亜里沙、駐屯組という分け方になったが……、なんかいいように押し付けられている気がするぞ。


 前半は何もなかったみたいで起こされて見張りをする。


「あの朝川タニシっていうのは、元々数が減りつつある個体で――」


 陰陽師がうるさい。


「しゃべくってたら見張りにならんだろ。黙ってろよ!」


 小声で怒鳴って黙らせる。

 こんなのとずっと一緒なのは同情するよ、と戦士くんを見たら、何気に耳栓つけてやがる。


「耳栓してると聴覚に頼れないから大した見張りにならんだろ!」


 頭を軽くひっぱたいておいた。しぶしぶ耳栓を外す戦士くん。

 まったく、どいつもこいつも……。


 亜里沙は、ちょっと不機嫌そうに見張りをしてくれている。


「亜里沙? えっと、大丈夫か?」


 体の具合が悪いとかじゃないよな?


「うん、なんでもない」


 それならいいんだけど。


 そんなこんなで朝になった。

 簡単に朝食を済ませて、早速変異体捜索に向かおうと準備をしていたら。


 遠くからヴオォォンとものすごい音が聞こえてきた。

 見ると、でかい蜂がひし形の隊形で二団、飛んでいるのが見える。むこうも俺らに気づいて向かってくる。


 めちゃ速いが、……あの飛び方、直進しかできないっぽいな。方向転換するのに一旦停止してくるりと体の向きを変えている。


 俺らの立ち位置だと蜂から近い順に、ラファエル、ヘンリー、俺と亜里沙とリンメイ、って感じだ。連中がやってくる方向が悪かったな。


 一団がものすごい勢いでラファエルに衝撃波を飛ばしながら飛び去って行く。

 攻撃の時も止まれないんだな。むしろ動いているから衝撃波で攻撃できるって感じだ。


「うわ、この衝撃波すごく速いし痛いよっ」


 ラファエルが防御魔法を張りながら悲鳴をあげる。

 彼のそばを通り過ぎる蜂にヘンリーが攻撃をする。おっ、いい振り、と思ったがあれでも当たらないのかっ。


 俺のそばを通り過ぎる一団に攻撃だ。一団の中の一匹にクリーンヒットして落ちる。


 と、バランスが保てないのか、途端に統率を失ってまごまごし始めた。的確に落としていく。


「よし、一団のどれか一匹でも落とせば楽勝だ」


 それができれば、な。


 どっちの攻撃も当たらないから、蜂のヤツ、ぶんぶんと俺らのそばを行ったり来たりの往復を繰り返している。


 この素早さは馬鹿にできないんだが、なんかその様子に変な笑いがこみ上げてくる。


「もう帰ってくるなアル」


 リンメイのぼやきに今回ばかりは賛同するよ。


 ラファエルが攻撃魔法の集中時間を伸ばして命中度をあげ、やっと蜂が落ちた。

 肉体的ダメージは全然受けてないのに、なんだこの疲労感は。


「これがQTハニーか、すばらしい……」


 はっと気が付くと陰陽師が蜂の死骸に近寄って手を伸ばしている。


「おい。ウィルスに感染するぞ。素人が下手にいじくり回すな」

「素人!? 私を素人ですって!? こう見えても私は……」

「私は? 何か資格でも持ってんの?」

「……いえ」

「れっきとしたオタクアルね」

「章彦くんは生物学の権威なんだから、言うこと聞いてね」

「オタクとプロは違うアル。指示に従うネ」


 リンメイのツッコミと亜里沙のフォローで陰陽師は不承不承って感じだけど手を引っ込めてくれた。


 権威ってほどでもないけど、まぁいいや。


 昨日と同様、戦士くんに死骸を本部に運んでもらって、晩飯を調達してもらってくる。


 今日も他の変異体は見つからなかったから、念のため野営することになった。


「二日も帰れないと思わなったな。もうちょっと準備しておくんだった」


 見張りの時間に、亜里沙がつぶやいている。


「何か足りない物があるなら捜索の合間の休憩の時に買ってきていいんだぞ?」

「うん、ありがとう」


 俺には笑顔を見せてくれるが、やっぱり不機嫌そうなんだよな。


 女の子って判らないな……。

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