軍隊がストーカーか?
リンメイの学校に向かっていると、腰のスマホホルダーがかすかに震えるのを感じた。
信号待ちの時に、確認する。
『アカリが久しぶりだから一緒に帰ろうって言うから断れなかった。家の近くで拾ってほしい』
なんだよ。方向逆だろ。しかも家に戻るならおじさんが帰るのを待って送ってもらったらよかったじゃないか。
げんなりしつつ、リンメイの家へと方向転換する。
そういやリンメイ、メールとかの文章だと中華娘な言葉は使わないんだな、なんてことに気づいて、面倒くさいのかなと想像して笑う。
あと十分ほどで着くかって頃に、またホルダーの中が震えてる。
今度場所変更だったら俺は帰るぞ。
道の端にバイクを寄せて、スマホを出す。
『誰かにつけられてる』
続いて、緊急連絡用のEーフォンが着信を告げる。グループ通話用になってるな。
『くろちゃき、助けてアル』
切羽詰まったリンメイの声に、ただ事じゃない気配を感じる。
「どうした?」
『撃たれたアル。……また来たぁ!』
悲鳴のような声に重なる銃声。しかも複数。
おいおいここは日本だぞ。なんで高校生の女子相手に複数で銃撃してんだよ?
まさかエンハウンスの仲間? いや、あいつの仲間というかしもべが銃で襲ってくるとは思えない。
「あと十分もかからないくらいでそっちに着く。とにかくどこか隠れやすいところへ行け。家の近くに林があっただろう」
『家に戻っちゃダメ?』
「家の人を巻き込みたくないだろ?」
『わ、判ったアル。じぃちゃん巻き込んじゃったら死んじゃうヨ』
林の中なら銃弾は当たりにくいだろう。
『黒崎、どうしました?』
次に聞こえてきたのはヘンリーの声だ。あぁ、グループ通話にしてたから。リンメイ、ナイス。
「リンメイが襲撃されているらしい。聖が心配だ、早めに彼女との待ち合わせ場所に行ってくれないか? できればラファエルも連れて」
『判りました。ちょうど出るところでしたので、急ぎます』
念のためにグループ通話は繋いだままにしておこう、ということで話はまとまって、俺は再びバイクを心持ち速く走らせた。
リンメイの家に着く。銃声は、ないな。
林に向かう。
途中で、迷彩服を着た二人組を見つけた。明らかにこの住宅街にそぐわないだろうおまえら。
「何者も俺を見つけること能わず。『霞隠れ』」
気配を極限まで殺して、男達の背後に近づく。
一人目の背中を蹴りつけ、よろけた相手の脚をひっかけて倒し、そいつの背中に跳び乗って行動不能にしてからもう一人の頬に拳をくれてやる。
“なんだ貴様”
英語で喚く男は、明らかに西洋人だ。
“そりゃこっちの台詞だ。日本の住宅街でアーミーごっこはいただけないな”
“ごっこだと!?”
あ、怒った? ってことはこいつら本物の軍隊か。
国旗バッジは、星条旗。
“じゃあ訂正だ。アメリカの軍隊が日本の女子高校生に何の用だ?”
正体を言い当てられたことにビビったのか、男はうっと声を詰まらせる。
襲撃した時に男がとり落とした銃を拾って、相手の胸に向ける。
“こういう荒事には慣れてんだよ。言えよ。ちゃんと答えたら見逃してやる”
“お、おれたちは、この一件に関わってるジャパニーズ・イクスペラーを1人連れて来いと命令されたんだ”
“この件? 京都南部のダンジョン探索か? 誰に命令された?”
“それは、言えない”
男の足元に、威嚇射撃。
ためらいもなく正確に銃を撃った俺にさらに男は焦りの色を濃くした。
“誰が何のために軍を動かしてイクスペラーを捕らえようとしてるんだ”
“そ、それは……、大――”
観念して答えようとした男は、突然、血を吐いて倒れた。
なんだっ? 服毒自殺? いや、それなら答えようとしないで毒を含むだろう。
話そうとしたら作動するスキル、みたいなのか?
そこまでして守られてる相手が、日本人のイクスペラーを捕まえようとする理由が全く読めない。
とにかく、今はリンメイを保護しないと。
俺は林の中に入って行った。
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