お嬢様それは違います
次の日の朝、真琴さんの手料理をごちそうになってさらに満足だ。
久しぶりだなぁこの味。アメリカにいた頃や父さんと一緒に暮らしていた頃は特になんとも思わなかった。洋食と和食、どっちも美味しいな、ぐらいだった。
けれど一人暮らしをはじめて食事を自分で用意することが増えてから、真琴さんの料理のありがたさを実感している。
さて今日はどうするかな。本部にそのまま戻るか。そうだ、リカルドさんにポーション精製の方法を教えてもらおうと思ってたんだった。
「お兄ちゃん、今日もう帰っちゃうんでしょう? 学校まで送ってってよ」
光がとんでもないことを言い出した。
「なんでそんな流れになる?」
「だってまたしばらく会えなくなるでしょう? 少しでも長く一緒にいたいからね」
にっこりと笑う光の笑顔、真琴さんに似てきたなぁ。
「でもいつも車で送迎してもらってんじゃないのか?」
「だからお兄ちゃんも一緒に来てよ」
「そうしてくれるなら、お昼も食べていったら?」
真琴さんの提案がとどめになった。
「まぁいいか。別に急いで帰らないといけないわけでもないし」
「やったね。お母さんナイスアシスト」
いや、どっちかってと真琴さんがゴールを決めたと思うぞ。
学校に着くまで、光はとにかくいろいろしゃべりまくってた。元々俺はあんまり話す方じゃないから話を聞いているだけでいいってのはある意味楽だな。
中学校のそばで真琴さんが車を停めて、光が降りる。
ドアを閉めて窓を開けて、見送った。
「光さん、おはようございます」
「おはようございます」
友人らしき女子に丁寧にあいさつされて、今までのはしゃぎっぷりはどこへいったのか、別人か? ってぐらいにおしとやかになった光に驚いた。
「それでは章彦さん、ごきげんよう」
はぃっ? 章彦さん? ごきげんよう?
「あ、あぁ、気をつけて……」
咄嗟に返せたのはそれだけだった。
走り始めた車の窓が閉まるまでに光達の声が聞こえた。
「光さん、先ほどの方は?」
「わたしの婚約者です」
「おいコラ待て」
思わずつっこんだが、俺の声が届くはずもなく。
「光ったら、あきちゃんに会えたのがよほどうれしかったのねぇ」
真琴さんがころころ笑っている。
いや、嬉しいからって婚約者にするなよ。
「あきちゃんは、カノジョとかいないの?」
「えっ? いないよ」
「そう。でもこれからよね」
これから、なのかな。
俺の結婚相手って父さんはどう思ってるんだろう。あと何年かしたら見合いとか持ってこられるんだろうか。
考えるのやめよう。それこそ、これからの話だ。
結城家に戻って、昼食までの間にパーティメンバーにメッセージを出す。
『俺は昼過ぎに本部に戻る。みんなはどうする?』
『学校行くよ』
『同じく』
『ハリウォンの大剣を「教会の剣」に送る手配をします』
『本部で待ってます』
それじゃまた昼に連絡を、ってことでメッセージのやりとり終了。
真琴さんの昼ご飯を堪能して、丁寧に礼を言って、本部に戻った。幸せな半日だったなぁ。
ラファエルはちょっと退屈しているらしいが仕方ないよな。
ヘンリーはシスターさん達と空港に行って、大剣を組織に持って行ってくれるシスターさんを見送って戻ってきてた。
無事飛行機に乗ったというシスターさんの連絡が来たところだそうだ。よかったな。
聖達に、何時に戻ってくるのか尋ねる。
『学校終わったらそっちに行くつもりだけど、今日はパパとママがデートらしいから、くろちゃき迎えに来て』
『わたしは今日、みほちゃんとお茶してから戻るから、夕方に誰か迎えにきてくれると嬉しいかな』
みほちゃん、って、前にエンハウンスに操られてた江崎さんか。元気そうならなによりだ。
結局、俺がバイクでリンメイを、ヘンリーが本部の車を借りて聖を迎えに行くことに落ち着いた。
できれば聖の方を迎えに行きたかったなぁ。リンメイやかましいし。
迎えの時間まで、俺はリカルドさんとポーションの精製についてあれこれとやりとりできた。
本部のどこで研究してるんだろうと思ってたら、いつの間にか地下に研究施設を作ってた。さらに地下に何かあるっぽいけど、なんだろう。ってかどうやって短期間でこんなの作ったんだ?
建設関係に特化した異能持ちとかがいたりして、なんてことで無理やり結論付けて、時間になったからリンメイの学校に向かった。
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