力強く輝く七色の光たち

 亜里沙達もすぐに目を覚ました。


「ここって、どこ?」

「判らない。けど、儀式がうまく完成したとしたら、数億年先ってことになるのかな」


 改めて辺りを見回してみる。

 ほんとに、何もない。草原が広がってる。

 あ、でも遠くの方に街っぽいのが見えるな。


「数億年先。もう戻れないアルか」


 リンメイがしょんぼりしている。


 戻れないんだろうな。

 けど今はそれよりも、あれをどうするかだ。

 “ディレク・ケラー”と真祖を見る。


「あーっ、あいつらも来たアルかっ」

「彼らを吹き飛ばす儀式でしたから、どちらかというと我々が一緒に来てしまったというのが正しいかと」


 ヘンリーの指摘通りだな。


「今のわたし達の力じゃ真祖も邪神もやっつけられないよ。どうしよう」

「あっちに見える街に逃げてみるとか」


 亜里沙の不安そうな声にラファエルが提案をあげる。


「それも一つの手だが……」


 もしも今いる世界に“ディレク・ケラー”や真祖をどうにかする手段がなければ、本当に、人類の滅亡を先送りにしただけになってしまう。

 それを思うとすごく心苦しい。


「我々だけではどうにもならないのは確かです。街に行ってみましょう」


 ヘンリーも街に行く案を推して、俺らはうなずいた。

 けど。

 俺らが街に向かおうとすると、真祖が目覚めて体を起こした。


「ふん。未来に飛ばされたならそれでもよい。この世界にいる人間を減らし、我が頂点に立つまで」


 ヤツがさっと手を振ると、“ディレク・ケラー”も動き出す。

 青い空が、一瞬にして漆黒へと変わった。

 遠くに見えていた街も見えなくなる。


「“ディレク・ケラー”の力も闘気を吸収すればまた復活する。手始めに近くの街を壊滅させればよい」


 そんなことをさせるわけにはいかない。けれど俺らにはもう十分に戦えるMPや闘気は残ってない。

 ここまでなのか?


「そうはさせません!」


 凛とした女の声が響いた。亜里沙に似ているけど……。

 思わず隣を見る。亜里沙の驚いた顔がそこにあった。

 そのまま声がした後ろを見る。

 腰までの黒髪の少女が、剣を手に仁王立ちしている。彼女の周りに十人近くの人がいる。


 その中に、すごく見知った顔があった。

 月宮だ。

 すごく不機嫌そうな顔なのも、俺が知ってる月宮そのものだ。


「儀式は成功させたみたいね。まぁよくやったわ」


 褒めてくれてるけど、すごく面倒くさそうに言われても嬉しくもなんともない。


「あんた達はこいつらと協力して邪神を討ちなさい。魔眼の力を叩きこんで聖が『封神の虹眼』をとどめに放てばいい。それだけの力がこいつらにある」


 それだけを言うと月宮は真祖へと歩いていく。


「さぁ、わたし達もいきましょう。“ディレク・ケラー”を倒すのです」


 残りの人達――なんとなく懐かしいというか、どこかで会った気がするような人達――の代表なんだろう、さっき声を上げた少女が俺達に笑いかける。


「ごせん……、じゃなかった、聖さんと黒崎さんはMPと闘気を回復させてください」


 ポーションを一つ渡された。

 これだけでいいのか?

 ポーションと少女を見比べると笑顔でうなずかれた。


 体にかける。

 うわっ、HPもMPも闘気も一気に回復した。すごいな未来のポーション。


「先ほど月宮さんがおっしゃった通り、わたし達が魔眼の力を使って“ディレク・ケラー”を止めますので聖さんがとどめを刺してください。黒崎さんもわたし達に協力してください」


 言いながら少女達が“ディレク・ケラー”へと歩き始める。

 俺も協力?

 とにかく彼らについていく。


「魔眼のスキルを使えばいいのか?」

「はい。一緒に」


 少女がにこりと笑う。

 ……あ、この子、どことなく亜里沙に似ているんだ。

 さっきから感じていた親近感みたいなのはそのせいだな。


「亜里沙」

「うん。何がなんだかだけど“ディレク・ケラー”を倒せるなら、わたし、やるよ」


 亜里沙の決意の言葉に少女が嬉しそうに笑った。

 そのころには俺らは“ディレク・ケラー”のそばまでやってきた。

 邪神はさっきの『封神の虹眼』の影響から立ち直りつつある。


「今のうちです。いきますよ」


 亜里沙似の少女が声をかけると、他の人達が力強くうなずいて、彼らの左目が光を放つ。


 赤、蒼、緑、黄、紫、橙……。

 そして、虹色。


 あぁ、魔眼が全部そろってるのか。

 一つ一つの輝きは亜里沙のものより弱いけれど、みんなの力をあわせて邪神に対抗できる、ってことだな。


 光は彼らの体を包む。色が交じり白に輝く彼らに、俺も加わる。


 『崩壊の赤眼』を発動する。

 俺らの体の光が一層強くなる。


 動き始めた邪神は、光に当てられ悲鳴のようなうなりをあげて再びその場に膝をついた。


「今です!」


 少女の呼びかけに亜里沙が「はい!」と応えた。


「あなたのいうように、人間は、身勝手かもしれない。だからこそわたし達はわたし達の手で、世界を守って行かないといけないと思うんだ」


 亜里沙が剣を構える。


「神をも封じる力を。『封神の虹眼』」


 亜里沙の左目が虹色に輝く。今までよりひときわ強い光だ。

 虹色の光が彼女の剣を、やがて全身を包みこむ。

 亜里沙が“ディレク・ケラー”に走り、跳躍した。


「世界を救う! 『裂光剣』」


 虹色の塊となった亜里沙が、邪神と呼ばれるモノに、剣を振り下ろした。


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