二つの魔眼の力を一つに

 “ディレク・ケラー”が咆哮をあげる。ヤツの体の色からあふれる青白い光が、青黒くなった。


 ヤツの放つ「気」が魔物のものに近づいたと感じる。今まではそこまでの邪悪さは感じなかったが、今は俺らを害する、いや、殺す気だと感じる。


 弱点は変わらない。なら、そこを狙うまでだ。

 ヤツが腕を振るうまでに、間合いを詰める。

 俺は邪神の真ん前に浮かび、短剣構えてつっこんだ。


 邪神の黒い気が俺の体を包む。

 目の前が赤く染まった。

 その中に見える景色は、人類が減らされるさまだ。たくさんの人の嘆き、苦しみ、悲しみが渦巻いている。


 俺らが何をしようと、こうなってしまうんだ。

 絶望が胸に渦巻く。

 闘気が、急激に失われる感覚がして、はっとなる。


「あきちゃん!」


 亜里沙の声が近くにして、手を握られた。

 温かい。

 視界が晴れる。

 虹色に輝く。

 あぁ、これは、亜里沙の力か。


 “ディレク・ケラー”が魔法を放つ。辺り一帯を焼き尽くすほどの炎の乱舞だ。


「やらせないヨ! 『守りの水流』」

「大切な仲間を守れ! 『光の壁』」

「さぁ、お二人でやってください 『光の盾』」


 リンメイ、ラファエル、ヘンリーの防御魔法が重なった。

 邪神の炎は熱いが、致命的なダメージにはならない。


「いくぞ、亜里沙」

「うんっ」


 手を繋いだまま、邪神に肉薄する。


「致命の一撃を。『崩壊の赤眼』」


 MPをつぎ込んで短剣を弱点へといざなう。

 確実に“ディレク・ケラー”の眉間に短剣を突き立て、ありったけの力でねじ込む。

 弱点の赤い光に吸い込まれるように短剣が根元まで埋まる。


「神をも封じる一撃を。『封神の虹眼』」


 亜里沙を包む七色の光が、彼女の剣へと集う。


「みんなを助けるっ! 『裂光剣』」


 七色の光を帯びた亜里沙の剣が、“ディレク・ケラー”の顔から胸を一気に切り裂いた。


 耳をつんざく叫びが、空気全体を揺るがした。


『十分なダメージを与えたようだ。戻ってきて』


 どこからともなく富川さんの声が聞こえた。

 儀式が完成して、封印の核を未来に吹き飛ばせるようになったのか。


 “ディレク・ケラー”は『封神の虹眼』の影響で動けないようだ。


「戻ろうっ」


 俺らは急いでワープゲートへと戻った。

 “ディレク・ケラー”のいた空間から一つ外に出る。もう一つのゲートをくぐれば作戦本部に戻れる。


 が、ゲートの前に真祖が怒りの表情で立ちふさがっている。


「あぁぁ! ジョージさんがっ」


 リンメイが悲鳴を上げる。


 真祖の足元にジョージが倒れている。

 胴体が、真っ二つにされている。機械がむき出しになっていて、パチパチと小さな光があがっている。

 彼の左肘から先を、真祖が握っている。


 全部のパーツを持って帰れば助かるか?

 けど、今の俺らにそんな余裕はない。


「まさかここまで来て計画が狂わされるとは」


 真祖は憎々し気に吐き捨て、掴んだままのジョージの左腕を投げ捨てた。


『早く戻ってくるんだ。もうすぐ術が完全に発動する』


 富川さんの焦った声が聞こえる。

 空間全体を揺るがす低いうなりが響き始め、核が震え始める。


「もはや術を止める手はないか。ならば、貴様らも道連れだ」


 真祖が手に力を溜め始める。


「ゲートに走れっ」


 言いながら、真祖に体当たりする。


「あきちゃんっ」

「くろちゃきっ」


 ゲートに入りかけてた亜里沙達が足を止める。


「何やってんだ。ヘンリー、ラファエル、そいつらをゲートに引っ張ってけ」


 真祖に組み付きながら怒鳴る。


「しかしそれでは……」

『術が、発動するっ』


 ヘンリーの声と富川さんの声が、重なった。


 空気が、圧縮される。

 強烈な圧を体に受けて、急激に意識が遠のいた。




 どれくらい意識を失ってただろう。

 目を開けると、青空が広がっていた。

 あおむけに倒れていたみたいだ。


 体を起こす。

 一面の草原だ。

 “ディレク・ケラー”を呼び起こす前の景色みたいだ。


 仲間があちこちに倒れてる。

 そして、十メートルほど先にうずくまった姿勢の“ディレク・ケラー”と、そのそばに倒れる真祖を見つけた。


 一体どうなったんだ?

 いや、それよりもみんなを起こさないと。

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