面会できてよかった
本部に戻ると、月宮がどどーんと仁王立ちで待ち構えていた。
「魔導書が戻ったって? 貸しなさい」
いつも不機嫌な表情がさらに般若のようになっていてはラファエルも何も言えずに魔導書を差し出すしかない。
「まったく、巧妙な手段でとられたならともかく、間抜けにもほどがあるわ」
ぶつくさと文句を言いながら月宮がキーワードを唱えると、彼女のMPがガンガン減っていく。
「とりあえず、十ほどの先行パーティのゲートは開いたわ」
つけっぱなしのバイタルメーターで見ると、月宮のMPバーがほぼ空っぽだ。数値化してないから最大値がどれくらいなのかは判らないがゲートを十もとなると、……すごい量なんだろうな。
「ラファエル君のお父さんと、彼女さんは預かるよ」
富川さんが医療班の人達に指示を出している。
親父さんは吸血鬼だということで厳重に隔離される。静乃もまだどうなっているか判らないから一旦隔離して様子を見て、大丈夫そうなら拘束は解けるそうだ。
「それじゃ、詳しい報告をしてもらおうかな」
促されて、ダンジョンでの顛末を話す。
「そうか、オルトがね。七大魔術師の誰かがむこうについているとは思っていたけれど、彼だったのか」
オルトは、善悪とか常識とかそういうのにとらわれないで、自分の研究が進みそうだと思うと今回のように人間を滅ぼすような動きをする組織につくそうだ。
「そんなキケンなヤツはちゃんと抑えとくアルよ。富川さんもその偉い魔術師アルネ?」
「抑えられるならとっくにやってるって」
富川さんが苦笑している。
七大魔術師といっても力は均衡ではない、だそうだ。
そういや、富川さんのことを若造とか言ってたな、オルト。富川さんでもすごいと思うのに、オルトは抑えられないくらいの実力者なのか。
どんな世界でも力関係はいろいろ大変だよな。
「あ、そうそう。変異ウィルスの被害に遭った人達、目が覚めてるよ」
「え。じゃあ会いに行っていいですか?」
「まだ目が覚めたばかりだからね、家族とか近しい人なら短時間に限って、って医療班の人が言ってたよ」
亜里沙が両親に、ヘンリーがシスターズに会いに行った。
俺も真琴さん達のところに行ったけれど、家族じゃないって会わせてもらえなさそうだった。
けれど。
「章彦君は家族のようなものだから」
真琴さんの旦那さん、
ベッドの上に体を起こしている真琴さんと光。家に遊びに行ってからまだ一か月も経ってないのに、すごく、すごく久しぶりに会った気分だ。
会いたくて会いに来たのに、けれど、実際に顔を見たら、何て言っていいのか判らない。
「ごめんなさいね、迷惑をかけてしまって」
真琴さんの方から話しかけてきた。しかも謝罪の言葉をなんて。俺は弾かれたように背を伸ばして、思い切りかぶりを振った。
「いや、謝るのは俺のほうだ。巻き込んでしまった。ごめん」
「お兄ちゃん反応面白すぎ」
光がくすくす笑ってる。こういう今までと同じ反応をされると、自分勝手だけど、ほっとする。
「いや、マジで。光の友達も巻き添えになってしまったし」
「みんな大丈夫だし、……テロリストみたいな愉快犯の仕業ってことになってるみたいだけど、まぁ納得と言うか、疑問には思われてないみたいでよかったよ」
まさか世界の命運を分ける戦いの、さらに個人的恨みのとばっちりで狙われたなんて言えないよな。
「ひょっとして、あの襲撃にきた女の子が、あの時の子なの?」
真琴さんの質問に、うっとなる。
「やっぱり気づいてたんだ。だから抵抗しなかったのか?」
「それもあるけれど、光のお友達が人質に取られてしまったから……」
異能者でもない真琴さんを相手に人質を取るなんて、どうあっても確実に俺の関係者を害したかったんだな、ミリー。
「本当にごめん。俺の一言がここまで影響するなんて……。不用意な一言を、今は本気で後悔してるよ」
改めて、真琴さんと彼女の家族に、深く頭を下げた。
「そう思うなら、あの子のこと、ちゃんと助けてあげて」
えっ? 恨んでないのか?
俺の驚いた顔を見て、真琴さんは優しく笑う。
「わたしはあなたの教育係ですもの」
「もうお兄ちゃん成人済みでしょ」
光のつっこみに真琴さんはふふふと笑って、大人にだって導いてくれる人が必要なのよ、と言った。
「さ、いつまでもわたし達にかまっていないで、あなたの使命を果たしてきて」
「お兄ちゃん、頑張って」
「章彦君、気をつけて」
三人に温かく見送られて、医務室を後にした。
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