世界を救う方法はひとつではない

 真琴さん達との面会を終えて外に出ると、ちょうど家族と面会してきた亜里沙と鉢合わせる。


「ご両親、元気になってたか?」

「うん、注意するように言われてたのにごめんってお母さんに謝られちゃった」


 内閣調査室に務めてるんだもんな、母親は。今回の事件についてもかなり知ってるだろう。亜里沙が戦いの中心にいることも承知していて巻き込まれたんだ。詫びの言葉が出てくるのはうなずける。


 でも、元はというと俺のせいだからな。亜里沙の母親にも申し訳なく思ったりする。


「お父さんは原稿が落ちるー! って嘆きながら病室で描いて看護師さんに叱られてた」

「原稿?」

「うん、お父さん、漫画家なの」


 そうだったのかっ。意外な組み合わせだなぁ。


 ペンネーム教えてもらって検索してみると、……少女漫画だ。あ、この絵柄見たことあるな。結構有名じゃないのか?


 もしも母親が内閣調査室に務めてなかったら、亜里沙はもしかしたらヒーローにあこがれるちょっと中二病なただの女の子だったかもしれないな。……母親が別の職業や専業主婦とかでも、もしかしたら能力開花させてイクスペラーになってたかもしれないけど。


 そう考えると、育ての親が諜報員で、戦うことが当たり前だという俺の方が異質なのかもしれない。


 ……ラファエルも大学生らしいし、たまたま親父さんがあの魔導書を継承していて家が襲われたから戦うことになったけれど、荒事に慣れてないのは納得だし、普通に暮らしてたら幼馴染が騙して魔導書を持って行くなんて考えつかないくらい平和なんだろうな。


 戦うことにしたならもっと警戒しろよという思いもあるけど、それを差し引いても、ちょっと自分の基準で考えすぎてたのかもしれない。


 親父さんを殺してもいいとか考えて、申し訳なかったな。

 ……あ、そういえば――。


「あきちゃん、どうしたの?」


 気が付けば数秒、亜里沙を放ったらかして考え事をしていた。


「あぁ、ちょっと思い出したことがあって、先に片付けてくる。また後でな」

「うん、それじゃ夕食作っておくよ」


 礼を言って、俺は富川さんのところに戻った。


「富川さん、聞きたいことがあるんですけど」


 俺はラファエルの親父さんを殺そうとした時に世界意思の声がしたことを富川さんに説明した。


「世界意思って、人間の数を減らして世界を守るって考えなんですよね? どうして俺が聞いた声は俺を止めたんですか?」

「世界意思はこの世界を守ろうとする意思だけど、守る方法はひとつじゃないからだよ」


 たまたま“ディレク・ケラー”の中に埋め込んだ世界意思は「人間を減らして闘気の量をコントロールし、異世界の魔物から狙われにくくする」という方法が最適だと判断したからそのように動き始めた。

 が、俺を『崩壊の赤眼』の正統なな使い手であると認めた世界意思は、俺の「人間を減らさずとも世界を守る」という意志に同調したんだろう、と富川さんは言う。


「だから、ラファエル君のお父さんを怒りに任せて殺そうとした君の行動に異を唱えたんだろうね。あと、君の心の中の罪悪感と呼応したのもあるんじゃないかな」


 なるほど……。


「元々『崩壊の赤眼』は世界に危機をもたらすものを崩壊させるという世界意思の力の集まりだから、邪魔なものを破壊しようという衝動に囚われてしまうことは、これからもあるかもしれない。うまくコントロールして力を使ってほしい」


 富川さんにうなずいて、部屋を辞した。


 世界を救うために破壊する力と、できるだけ破壊せずに世界を救う意志。

 矛盾してるよな。

 けれど両方、俺の中にあるんだ。

 だったら、使いこなしてみせる。


 “ディレク・ケラー”の復活まで、早くて後四日か。

 それまでに封印場所までたどり着いて、ミリー達と決着をつけないといけない。


 あいつも俺らを止めたいだろうから、きっと自ら俺らの前に現れるはず。


 次のエリアの奥で、あいつとの最終決戦になるんだろう。


 ミリー、俺はおまえも救ってみせる。



(File13 魔術師 了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る