攻撃魔法は強いけど
ナカタニ製薬での引継ぎはあっさり終わった。
立浪さんは事故死という扱いになっているそうで、他の研究員達は俺が抜けたのに続いて立浪さんまでいなくなってしまって大忙しで、俺にイヤミとか言っている余裕もないみたいだ。
俺がいきなりやめるといったのは職場の居心地を悪くしていたあいつらの自業自得だと思うけど。
イクスペラー関連のポーションを扱うのは副社長の直轄なのでいつも副社長と話すのだけど、今回は改めて社長にも挨拶しておいた。
ダンジョン探索に関わるのは危険が伴うと理屈では判っていたけれど実際に犠牲者が出てしまって、もう一度社としての事業の在り方を考えないといけないと社長と副社長は話し合うみたいだ。
もうそのあたりは俺には関係のない話だが、みんなが納得いく結論を出してほしいところだ。
用事を済ませてダンジョン探索作戦本部に戻る頃には陽が落ちかけていた。
本部になっている村まであと数キロという辺りで、空に気配を感じる。
減速してちらとそちらを見ると、背中にコウモリみたいな羽をはやしたヤツが四人、空を飛んでいる。
バイクを路肩に停めて様子をしっかりと見ると、地上を走ってる誰かを追いかけているようだ。
連中は二手に分かれて、二人はどこか遠くへと飛び去ったが、二人はまだ走ってる人を追っている。このままじゃ追いつかれそうだな。
追いかけられてるのは体格からして多分男。足はそんなに速くない。帽子をかぶってるけどはみ出してる襟足は白、いや、銀か? とにかく目立ちそうな感じ。
さて、どうするかな。
俺には関係ないと放っておいてもいいけど、彼を追いかけてるのって多分吸血鬼だよな。エンハウンスの仲間かもしれない。
吸血鬼を無力化して話を聞いてみるか。
ちょうど、追いかけられている男も開き直ったみたいで、道の横の土手に降りて身構えてるし。
「何者も俺を見つけること能わず。『霞隠れ』」
車が途絶えたことを確認して、俺は銃を抜いて気配を消し、連中の方へと走った。
追われてる男が向き直ったことで吸血鬼連中は武器を取り出して急降下した。
一人はロングソードとシールド、もう一人は杖を持ってるな。近接戦闘と魔法か。
迎え撃つ男は……、なんかもたもたしてる。武器が取り出せないのか?
ちょっと危うい感じがして俺はさらに足を速めた。
追われてるのがもたついている間にソード吸血鬼が間近に降り立ち、杖吸血鬼が空中で魔法を放った。水属性の単体攻撃魔法だな。
渦巻き状の細い水の槍が男に直撃した。バイタルメーターを装着してないけど明らかにかなりダメージが入ってることを男の苦痛の表情が語ってる。
続いてソード吸血鬼が男に斬りつける。
闘気を防御に回したんだろう、直撃のわりに傷は浅そうだ。
けれど男がこのままだとあっさりやられるのは目に見えている。
俺が間に割って入らなければ、な。
「二対一で弱いものいじめはいただけないな」
『霞隠れ』を解いて、いきなり目の前に現れた俺に驚くソード吸血鬼を投げ飛ばす。倒れた吸血鬼のみぞおちに一撃を加えて、これでイーブンってところかな。
「弱いものなんてひどいよ。僕だって戦えるんだから」
男が取り出したのは、本?
あぁ、魔導書ってやつか。ってことはこいつも魔法職だな。
……だったらこの陣形、俺が来なかったら完全に詰みじゃないか。状況判って言ってんのか?
ちょっとイラっとしたけど、まぁいいや。
ソード吸血鬼は俺に目標を変えて斬りかかって来たけど、かすりもしないよ、そんな攻撃。逆に延髄に銃のグリップを叩きつけてやった。
ぎゃっと悲鳴をあげて倒れる。これでこいつは戦闘不能だろう。
その間に男と杖吸血鬼が魔法を飛ばし合っていた。
へぇ? 攻撃魔法は大したもんだな。光のシャワーが杖吸血鬼を翻弄してる。
杖吸血鬼は逃げ出そうとしたけれど、ハンドガンの一射で翼を撃ち抜いて無力化した。やっぱ便利だな飛び道具は。
「おまえら、よくも……」
助けた男は怖い形相で吸血鬼達を睨んで、さらに魔法を撃とうとしてる。とどめを刺すつもりか。
「ちょっと待ってくれ。あんたの事情は知らないけど、こっちもこいつらに用があってさ」
「止めないでよ。こいつらは許せないんだ」
元々おっとり系の声を荒げてる。よっぽどの訳ありか。
「とどめを刺すのは止めないけど、ここじゃ誰かに見られるかもしれないし近くに俺の活動拠点があるから連れて行こう」
なんとかなだめて、吸血鬼達を本部に連れていくことは了承させた。
「俺は黒崎章彦。あんたは?」
「ラファエル・エルトナム・アトラス」
長っちぃな、と思ったのは、内緒にしておこう。
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