File04 ドラゴンの咆哮

そういうのは、今んとこ興味ない

 ダンジョン探索から戻った次の日は休息日になった。

 さすがに友人と戦わされた後で疲れているだろうと富川とがわさんが気を使ってくれたみたいだ。月宮さんは「そんなの気にするような弱っちいのはいらないわよ」とか、ぶつくさ言ってたみたいだけれど。


 俺はナカタニ製薬に顔を出すことにした。

 立浪さんのことを報告しないといけないし、代わりの誰かに仕事の引継ぎをし直さないといけない。


 その前に、本部内に設けられた「購買部」に立ち寄った。

 武器や防具、日用品はもちろん、嗜好品なんかも注文すれば取りよせてもらえる。割と何でも屋だ。長期戦になることを見越して、イクスペラー達が少しでも快適に過ごせるように、だそうだ。


 武器のエリアでハンドガンを手に取って見ている俺に、誰かが近づいてくる。


「よぉ、武器探しか?」


 鮮やかな金髪の男、レッシュだ。


「あぁ。昨日のダンジョン探索の報酬が入ったから飛び道具が欲しくて」


 日本じゃ銃はなかなか手に入らなくて持てなかったけれど購買部ではあっさりと手に入る。こういう面で組織的に動いている仕事はいい。


 いくつかの銃を手に取って見ながら、レッシュに話しかけた。


「レッシュも探索に加わってたのか」

「おれは管理側だよ」


 思わず手を止めてレッシュを見た。

 イクスペラーが世に出始める以前からの強い異能者ってことか。


 ……なるほど、あの最初に会った時はこの探索プロジェクトの下見だったのか。

 いずれ俺にも声がかかるのを知っていて「多分また会うだろう」って言ったんだろう。


「なんか納得顔だな」


 俺が考えついたことを話すとレッシュは察しがいいなぁって笑った。


「レッシュがこっちに来てしばらく戻らないなら、社長さんは大丈夫なのか?」

「平気だぞ。社長もここに来てるからな」


 レッシュの上司、リカルドさんは薬学の研究に熱心でいろいろな知識があるから、その方面でのサポート役として呼ばれたらしい。


「この購買部で売られてるポーションも社長のレシピで作られたものだ。回復力高いぞ」


 へぇ、今度リカルドさんとゆっくり話とかしてみたいな。


「思ってたより元気そうだな」


 え?


「聞いたよ。ダンジョンでのこと」

「……情報早いな」

「一応管理側なんでね」


 探索中に起こった出来事はパーティの監督者には共有されているそうだ。必要なら自分の管轄のパーティにも話すらしい。


「気にかけてくれたんだ?」

「名刺交換したよしみだからな」


 レッシュはにやっと笑った。


「おまえは間違ってないと思うぞ。おれも同じ立場に立ったら同じことをする」


 吸血鬼となってしまった者は上位者の命令には逆らえない。とても強い意志で反抗するなら可能だろうが、いつでも命令に抵抗できるとは限らない。

 もしもあの時、立浪さんを気絶させて連れて帰ったとしても吸血鬼を人間に戻す方法はない。立浪さんが本部ここにいる間にエンハウンスが「イクスペラーを襲撃しろ」と命じて、彼が命令通りに動いてしまったら混乱が広がってしまっただろう。

 だから俺がダンジョン内で立浪さんに手を下したのは正解だったんだとレッシュは説明を締めくくった。


「正解だっていってもダチを手にかけるなんて精神的にかなりくるだろう。おまえタフだな。なんとも思ってないふりができるなんてさ」


 見抜かれてた。顔に出てたのか? だとしたら、全然タフじゃない。


「抑え込めるのはすごいけど、吐き出しちまってもいいと思うぞ。信頼できる相手にくらい」


 今はまだにわかパーティで無理かもしれないけれど、そのうちそうしてもいい相手だと思えるんじゃないかなとレッシュは言う。


「年の近い女の子いるんだろう? 普段頼りになるヤツがぽろっと見せる弱みって萌えるらしいぞ。惚れてもらえるチャンスだ。なんて言ったか? キュン死だっけ?」


 なんでそんな俗語知ってんだよっ?

 思わず噴き出した。


「惚れてもらわなくてもいいよ。友人を仕向けられた怒りは直接エンハウンスにぶつけるから」

「あははっ。その意気だ。がんばれ」


 それじゃ、とレッシュは手をひらひらっと振って店を出ていった。


 励ましに来てくれたのか。

 そういうのって直接監督者がするもんなんだろうけど。


 月宮さんの不機嫌顔を思い出す。

 あれには無理だよな。休暇なんかいらないとか言っちゃう人だし。

 俺ら、監督者はハズレなのかも?

 気付いてしまった事実に苦笑して、手ごろな銃を選んでレジに向かった。

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