問答無用な実力者はマジで恐怖

 本部に連絡を取って、吸血鬼を捕らえたこと、追われていた男を保護したことを伝える。

 吸血鬼は本部から車で引き取りに来てもらって、ラファエルは俺が後ろに乗っけてくことになった。なんかラファエルも元々本部に用事があって向かってたらしい。


 ラファエルを連れて村に戻ると、月宮さんがこっちにつかつかと歩いてくる。

 車から降ろされた吸血鬼に、ふん、と鼻を鳴らした。


「どうせザコだから大した情報なんか持ってないでしょうけど」


 つぶやくと、彼女の背後にゆらりと影が浮かぶ。人型だけれど人間じゃない、どっちかっていうと化け物に近い影だ。

 そいつが吸血鬼の頭をがしっと捕まえて、実体のないもやみたいな何かを引きずり出した。


 あれって、もしかしなくても、魂……?

 魂から直接情報を引き出してるってことかっ?

 怖すぎるだろっ。足が震えて顔が引きつるのを止められない。


 時間にしたら多分数秒だったけど、めっちゃ長く感じた。


 月宮さんが「終わり」とつぶやく。情報を手に入れたのか、化け物の影は吸血鬼の魂をぐしゃりと握りつぶした。


 俺も含めて、様子を見せつけられた連中から「ひぇっ」と声が漏れる。


 当然、吸血鬼はこと切れてる。


「あ、ああぁ、あの……」


 隣のラファエルが恐慌を起こしかねない顔でおずおずと月宮さんに話しかける。


「話は中で聞くわ」


 月宮さんはなんでもないふうに踵を返して集会所に歩いていく。


 予告なくホラーなことしないでくれよ。下手したらこっちがショック死する。


 そんな文句を言ったところで取り合わないだろうから、俺らも黙ってついていくことにした。


 村全体を「ダンジョン探索本部」と呼ぶようになったから、集会所は本部改め指令室と呼ばれるようになった。

 その指令室で、富川とがわさんに迎えられる。


 月宮さんってどうやら作戦本部で富川さんに次ぐ、ナンバーツーの立場っぽい。偉い人がパーティの監督者になったもんだな。パーティのケアは断然レッシュの方がうまいと思うけど。


 二人の仲はあまりよくなさそう。月宮さんが富川さんを苦手に思っていそうなのはありありと伝わってくるし富川さんも月宮さんの言動にしょっちゅう苦笑を漏らしているっぽい。

 それでも協力して本部をまとめて探索の指揮をしているのは、それだけダンジョンに潜む「何か」が大変なことに関わってるってことだ。


 深く潜るほどに敵も強くなっていくし、俺らも気を引き締めないといけないな。


 そんなことを考えている間に、ラファエルが本部に訪ねてきた理由を富川さんに話していた。


 ラファエルの一家は元々イギリスに住んでいたが、父が二年前に「日本に行く」と言い出し、両親とラファエルは揃って引っ越してきた。父は理由を話さなかったがラフェエルは気にすることなく日本の大学に編入した。


 彼は二十歳らしい。同い年か。容姿はともかくとして、もっと幼い印象だったが。


 特に何が起こるわけでもなく過ごしてきたが、今日の昼、突然家が四人の吸血鬼に襲撃された。


 ラファエルの父は息子に「この魔導書を持って逃げろ。決して奴らに奪われないように」といい、ラファエルを逃がすために吸血鬼と戦い始めた。彼の父はかなり強い魔術師だそうだ。


 母親からは「京都の富川さんを訪ねなさい」と言われて、まずは教えられた自宅を尋ねたが富川さんはこっちにいると聞かされて、本部に向かっていたところ、あの吸血鬼達に襲われた、ということだ。


「両親はどうなったか判りません。家も燃えてましたし、僕はどうしたらいいのでしょう?」


 ラファエルの沈痛な顔をみて、さすがに気の毒に思った。


「その、預けられた魔導書を見せてくれないかな」


 富川さんに促されてラファエルは異次元収納バッグから魔導書を出してきた。

 応戦していた時に持っていたのとは違う。分厚くて古めかしい、なんだかいかにもすごい魔術が封じられていますって雰囲気の、黒塗りの表紙の本だ。


 富川さんは手に取ってじっと見つめた後、うん、と一つうなずいてラファエルに返した。


「特殊な封印がしてあるね。今は解くのはやめておくよ」

「どんな魔導書かは、判ったんですか?」

「うん。ワープゲートに関わるものらしい」


 富川さんの答えにラファエルは首をかしげる。


「詳しく説明する前に、黒崎くん」


 突然呼ばれて「はい?」と半端な返事をしてしまった。


「パーティのみんなを呼んでくれないかな」


 俺ら全員に関わってくるってことか。

 うなずいて、グループメッセージを作成する。


『富川さんから招集がかかった。すぐに指令室に来てくれ』


 送信して顔をあげると月宮さんがすっごい怖い顔で睨みつけてきてる。後ろからあの化け物の影が出てきても不思議じゃないくらいだ。


『五分以内に来ないと月宮さんに殺されるぞ』


 付け足した。


 無事、三人とも三分以内にやってきて俺はほっと胸をなでおろした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る