ボーナスステージ

 さてと。おふざけはこれくらいにして。


「怪我はヒーリングパネルで治して、MPは極力残しておこう」


 俺の提案に亜里沙がちょっと顔をしかめた。


「でもヒーリングパネルって運が悪かったらダメージなんだよね?」

「他のパーティの報告じゃ、めったにないけどな」


 それじゃ試してみようということで、ダメージを負っている前衛組がパネルに向かう。魔法組は戦闘終了直前に魔法で治したそうだ。


「ねぇ章彦くん。……大丈夫?」

「ん? なにが?」

「戦っている時に頭痛そうにして急に立ち止まったでしょ? もしかしてスキルの影響?」


 鋭いな。


 多分だけど『崩壊の赤眼』は多用すると肉体的にかなり負担で、目の痛みや頭痛になって現れてるんだと思う。


 このスキル、突き詰めていくと美坂さんみたいに強力な結界も切ったり壊したりできるようになるけれど、その分、跳ね返ってくるダメージも大きそうだ。美坂さん、あの時は血を吐いて一気にHP減ってたし。


「まぁ大丈夫だろう。今回は痛みがあるって判ってなかったから驚いたけれど、次からは耐えられる」

「耐える、って、……そんなにひどい痛みなの?」

「不意打ちだったからな」


 だから次は平気だといっても亜里沙は納得しかねるって顔だ。


「スキル使用中は黒崎の攻撃力は格段に上がっていると思いますよ。なので使いどころを定めて使えばいいといったところではないかと」


 ヘンリーが客観的にフォローしてくれた。


「あんまり無茶しないでね」


 ぎゅ、と袖を掴まれて、潤んだ目で見られて、鼓動が早くなるのを感じる。


「あぁ。無茶はしない」


 うなずいたら、やっと納得してくれた。


 さて、HPヒーリングパネルは、結果としてなかなかいい。ダンジョン探索中にも時々感じた不快感が格段に減った。傷をいやすだけでなくて疲労なんかも取り除いてくれるっぽいな。


 すっきりした顔で戻ったら、リンメイにうらやましがられた。


 いや、使わないで済むならそれに越したことはないんだぞ。確率は低いが暴走するかもしれないんだし。




 態勢が整ったので進むことにした。


 戦闘のあった大部屋には、先に進む扉が二つある。入ってきたところから見て右手前と、右中央だ。


 扉に近寄って音を聞いてみると、右手前は静かで、右中央の扉の先は水の音がする。

 なんとなく、水源は最後に調べるみたいな雰囲気が定着してるので手前の扉を開けることにした。


 扉を開けるとすぐに小部屋に繋がっている。

 そして部屋の中央に敵が数体、こっちに背を向けている。

 すげぇチャンス!


 みんなのところにそっと戻って状況を報告した。


「俺が先制で大技使うから、集中してる間に誰かEーフォンで敵のデータ検索してくれ」

「じゃあわたしがやるね」


 ということでドアから入ったすぐのところで亜里沙と並んで先頭に立ち、俺は「炎竜波」の集中を始める。


「真ん中にいるでっかいのが新しい敵よ。あれ、二匹の魔物が合体してるみたい」


 亜里沙が敵に関する情報をくれた。


 この部屋にいるのは五体で、ビースト系が二体と麻痺ガスを吐いてきてた花が二体、さらに新種の魔物が一体だ。


 新種のはペルアムズといって、サムズとウムズって魔物が合体しているらしい。


「分裂するとめちゃくちゃ素早くなるみたいだから、できれば別れる前に倒した方がいいね」


 なら、最終目標はペルアムズがいいな。

 炎を集めた右腕を軽く挙げて振り下ろす。


「業火に飲まれろ。『炎竜波』」


 炎の竜が解き放たれ、敵を次々に食らっていく。最後にペルアムズに絡みついた。

 不意打ちで焼かれた四体は即死。ペルアムズに絡みついた炎の竜が敵の行動を鈍らせている。

 予想以上の先制パンチになった。


「すごい技ですね」


 後ろからヘンリーの感心した声がする。そういや、ヘンリーとラファエルは見てないんだったな。


「今のうちだ」


 俺の声に亜里沙が飛び出していく。


「もらった! 『とどめ斬り』」


 見事に敵を一刀両断にした。

 すげぇ、楽勝。


 けどなんでこいつら、こっちに背を向けてたんだ?

 連中が向いていたほうを見ると、扉が。

 なるほど納得。


「ボーナスステージって感じだったアルね」


 まぁ奥義を使った俺はMPゼロだけどな。


 って思ってたら部屋の隅にMPヒーリングパネルがあった。

 マジでボーナスステージか。

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