つい、かっとなった

 残るは水の音が聞こえるドア三つだ。

 エリアの入口から近いドアから開けて確認していく。


 一つ目と二つ目の先は大きな水路になっていて、徒歩で進むことはできない。全員が飛行能力や道具を得れば行けるのだろうが。


 最初の戦闘の部屋に行って、最後の扉を開ける。

 水路の終着点なのか、広い部屋には水が張っている。深そうだ。


 部屋の中央にアルファベットのHの字に似た足場がある。そこまでの道は浅い水場になっている。

 足場には全員が乗れそうだけど少し距離が空くかな。


 ざざ、ざざ、と波音がする。

 大きな気配が近づいてくる。


「来るぞ。中の足場に移動だ」


 前衛がHの右側へ、魔法グループが中央へと走った時。

 水の中から報告通りの巨大ワームが伸びあがり、水をまき散らしながら頭の部分を現した。

 すかさずEーフォンを向ける。


『テ・ミュルエ

 巨大ワーム型モンスター

 外皮は甲殻とも呼べる硬さ。これを破らなければ本体にはダメージが通らないだろう。

 攻撃:体の側面に並んで生えた触手の突き刺し。通常ダメージと同時に闘気を奪われる。

 なお、闘気がない状態で触手にやられるとウィルス感染の危険性があがるもよう。

 他にも攻撃はあるだろう。注意』


 うん、判ってたけど未完成データだな。でも闘気に関する情報はありがたい。


 他のみんなもそれぞれデータを読んだらしい。


「まずは殻をどうにかするところからね」

「闘気は温存しておいた方がいいかな」


 亜里沙とラファエルに、うなずく。


 硬い殻か。銃じゃダメージ通らなさそうだな。最初から『崩壊の赤眼』を使った方がいいかもしれないな。

 開眼の短剣を抜いてスキルを発動した。

 頭痛と声が襲ってくるが、大丈夫だ。意識をしっかり持って、テ・ミュルエの動きを見る。触手を伸ばして来たら切る、というのが思いついた攻撃方法だけど……。


 テ・ミュルエがもぐった。再び水面上に出てきたのはヤツの側面。たくさんの触手が俺らの居場所を薙ぎ払うようにうねりくる。

 よけるだけで精一杯だ。


 亜里沙やリンメイが悲鳴を上げている。攻撃を食らったか。


「大丈夫か?」

「なんとか」


 短いやり取りの間にまた敵は水中にもぐる。


 何度か同じような攻撃を繰り返してきたが、みんなよけたり防いだりするタイミングが判ってきたみたいだ。相手の攻撃の合間に反撃を加える。俺も触手に刃を突き立てることができた。

 弱点の赤い点や線はもっぱら触手に集中している。殻付きだと胴体は俺の攻撃では通じなさそうだ。


 よし、次に触手攻撃が来たら一本ぐらい切り飛ばしてやる。

 亜里沙やヘンリーも似たようなことを考えているらしく、剣を構えてテ・ミュルエが水上に出てくるのを待つ。


 けど、俺らの狙いを察したかのように、ヤツの攻撃パターンが変わった。

 今までは側面を水上に出して触手攻撃だったが、今度は顔をにょきっと伸ばして、ビームを吐き出したっ!


「何その攻撃っ?」


 丁度真正面にいた亜里沙が横っ飛びで逃れようとするが脚に食らって吹っ飛ぶ。幸い、吹っ飛んだ先もHの床の上だったからよかったが、かなりのダメージだ。


 ……こいつ……!

 ぎりっと歯を食いしばる。


 ワームの口がまた水面に沈む前にMPを追加消費して、突っ込んだ。


“殺す!”


 思わず英語で漏れた殺意の言葉と共にテ・ミュルエの口を――ちょうど弱点になっている部分を切り裂いた。


 効いたらしい。が、暴れのたうつワームの触手にひっぱたかれて俺の体は落下する。

 あ、水に落ちる、と思った瞬間、我に返った。


 救ってくれたのはヘンリーだ。両手剣を床に落として俺の手を掴む。


“無茶をしてはいけません。好意を寄せる人が攻撃されて腹を立てる気持ちは判りますが”


 引き揚げられ、いさめられて、素直に謝る。


 けど、亜里沙に対する感情は、そういうのじゃない、はず。


 ヘンリーが英語で言ってくれたのは、彼の気遣いと受け取っておこう。でないとリンメイがうるさい。


 またワームの口が水上に出てきて、ビームを放とうとしている。狙いは俺とヘンリーだ。


 二人ともまだ体勢が整ってない。

 せめてダメージが少ないように防御の姿勢を取った。

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