両儀の封印
御剣ひかる
File01 いざなう声
にわかパーティで巨大白狼に挑む
俺は世界を救うためとかでダンジョンにもぐってるわけじゃない。
ただ研究したいだけなんだ。
たまたま、「
それなのに、大きな事件に巻き込まれていく自分を止めることができないんだなって、気づいてしまった。
その日も、ダンジョンの浅い部分を軽く探索してそろそろ引き上げようかって思ってたところだった。
「誰か! 誰か、助けてくれ!」
俺がいる部屋の奥から切羽詰まった声がする。
ダンジョンの内部は少しだけ発光する岩で囲まれていて、主に「通路」と「部屋」って呼ばれる空間の組み合わせで成り立ってる。少し開けた空間が部屋ってことだ。
俺は倒したモンスターを収納ボックスに入れていて、ソロ活動のイクスペラーが二人、部屋に入って来たところだった。
俺らは自然と顔を見合わせた。
関係ないからって帰ってもいい。
けど、先にいるヤツがやられて魔物がこっちにやってきて背後を取られるとか厄介すぎる。
うなずき合って、声の方に向かう。
今まで見たことがない巨大な魔物がいた。
見た目は白い狼だ。けど、でかすぎる。
体長が二メートル近くで体高が一メートル越えだ。
「あぁ、助かった。ヤツが奥からいきなり出てきたんだ。おれはもうMPがなくて」
助けを求めてきたイクスペラーが部屋の入口の近くで焦った顔をこっちに向けてきた。
そうなる前に引き揚げろよって言ってやりたいところだが、今は魔物をどうにかする方が先だ。
「俺は短剣で戦う。魔法は不得意だから戦闘用のはほぼない。そっちは?」
二人のイクスペラーに声をかける。
「おれは片手剣だ。刃に魔力を込められる」
金髪の若い男が応じた。
「わたしは攻撃魔法と補助魔法です」
俺より少し年上っぽい二十代半ばぐらいの女も答えてくれた。
「なら、決まりだな」
俺と金髪男が前衛、女が後方支援だ。バランスが良くてよかったのかもしれない。
そうと決まればと左右に散って狼に斬りかかる。
補助魔法が飛んできた。体が軽くなる。スピードアップだな。
大型ナイフを突き出すが、分厚い毛に阻まれる。
狼の前足の反撃は難なく回避した。
「燃やし尽くせ、『炎の剣』」
金髪男が自分の剣に手をかざして叫ぶと、刀身が赤い炎に包まれる。炎の勢いからして強そうだ。
男の剣が狼を捕らえる。焦げ臭いにおいと、遅れて血のにおい。獣の悲鳴が空気を揺らす。
怒りに任せた反撃を、男は剣で受け止めている。余裕があるっぽいな。
俺は脚の腱を狙う。後ろ足を切りつけると狙い通り敵の動きが鈍る。
このまま楽勝か? と思われたが。
狼が咆哮した。まさに耳をつんざく声だ。
声が衝撃波になって吹き飛ばされる。
金髪男も踏ん張っているが立っているだけでやっとっぽい。
床に転がってその勢いで立ち上がるけど、近づいたらまた弾き飛ばされそうだ。
狼の声がやんでも俺らの体は重いままだ。
このままじゃまずいな。
「波動よ消えよ! 『阻害解除』」
女の凛々しい声がして、ふっと体への負荷がなくなる。
「『癒しの手』!」
さらに回復魔法ももらって、俺は脚を、金髪男が上体を狙う。
初めて一緒に戦う人だけれど、お互いに自分の役割は判っていた。
連携の取れた攻撃と援護魔法で戦局はこっちに有利になった。
頭の上にかけていた片目のゴーグル、薄さと軽さはモノクルと呼べる「バイタルメーター」を右目の前に持ってくる。
狼のHPが最大量の三分の一ほどになっている。
よし、これならいけそうだな。
「弱点をさらけ出せ、『急所探知』」
俺の声に反応するように、狼の喉の辺りに赤い点が浮かび上がる。
喉が一番の弱点か。まぁ、その辺りだろうなぁとは思ってたけど。
自分のスキルでさらに身軽になった俺は狼の前に躍り出て、喉をナイフで掻き切る。
かなり効いたみたいだが致命にはいたらない。
「頼む」
男と入れ替わる。
男の気合の一閃が狼の喉を確実にとらえた。
断末魔の叫びをあげて、狼はどうと倒れた。
敵のHPがゼロになったことを確認して、バイタルメーターを頭の上にひき上げる。
「オッケーィ。おまえ、やるなぁ。そっちのおねえさんもナイスアシスト」
金髪男が親指をたててグッジョブのサインをしたので軽くうなずいた。
にわかパーティで大物を一体やっつけた。
この時は、これだけのことだと思ってた。
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