村の調査に来た目力強いJK
目を向けると、人当たりのいい微笑があった。
「黒崎君帰ってたんだ。どうだった? 今回のダンジョン」
「今まで会ったことのない魔物がいました」
レポートを書きながら、戦った白狼のことを話した。
「新種って感じかな」
「俺がもぐってるのはダンジョンの浅いとこだから、奥に行ったら普通にいるヤツかもしれませんけどね」
そんなふうに話してたら、さらに俺らに近づいてくる人影が。
「探索お疲れさん」
「あ、副社長」
立浪さんが姿勢を正す。
俺らの前に立つ三十代半ばのエリートを絵にかいたようなこの人が、副社長の中谷
俺が優秀なイクスペラーで研究者だと評価してくれている。その分、持ってこられる仕事が結構キツいこともあるけれど。
「黒崎君に頼みたいことがあるんだ。来てくれるかな」
ほらきた。きっとダンジョンの奥から出てきた厄介な魔物を倒して素材持ってこいとかそんな感じだろう。
おっさん達の睨みつけるような視線を感じるが、立浪さんの「がんばってー」の声援で気分を少し持ち直して、俺は副社長についていった。
「突然だけど、京都南部の村を調査してほしいんだ」
副社長室で応接セットに向い合せに座って、中谷副社長が切り出した。
村の付近で動物の変異体が出現したという報告がされているんだそうだ。
副社長は、持ち帰られた動物の肉片を出してきた。
透明の保存用ポーチに厳重に入れられたそれは、筋組織が異様に肥大していることが見て取れた。もっと詳しく調べたらもっといろいろと判るだろうけれど、今の俺の仕事はそれじゃないみたいだな。
「ダンジョンから出てきた魔物じゃないんですね?」
「あぁ。報告ではダンジョンの入口は村の近くにあるそうだが、そこから出てきたものじゃなくて、元は野良犬だと思われる動物が、どう見ても犬のサイズじゃないくらいに大きくなっていたそうだ」
ダンジョンの白い狼を思い出す。
まさかあれも、元は犬サイズだったとか?
関係しているなら、調べてみたいな。研究室が使えないなら実地検分ってところか。
「判りました。調査は明日でいいですか?」
「そうだね。今から行っても夜だし。野外がメインだから明るい方がいいだろう」
明日は朝から「出張」になった。
研究はストップしてしまうけど、古株どもと顔を合わせないで済むのはちょっと気楽だな。
さて、朝だ。
ダンジョン探索用の装備でバイクに乗って京都南部に向かう。
俺はライトファイター系で軽装備だからバイクに乗るのに問題はない。
九時ごろに村の近くに着いた。五月になったばかりなのに、もう昼間は暑い。野外活動は早い時間帯の方がいい。
どこから調べるかなと思いながら村に近づいたが、すぐに異変に気付いた。
人の気配が全くない。それどころか生き物の気配すら。
何軒か家の様子を見てみる。
やっぱり人の気配はない。
もう少し詳しく調べてみようかと思ってたら。
大通りの方で、バスが止まった。大型バスだ。
ドアが開いて大人が、続いて数十人の子供が降りてくる。服装や持ち物からして小学生の遠足だな。
なんで、この村? 観光地でもないのに?
ぽかんと見つめる俺のことは眼中にないって感じで、遠足の団体は村の奥まで進んでいく。まるで、操られてるみたいに。
村の向こうには森が広がっている。
ってことはまさかそっちにダンジョンがあって――。
「あなた、ここで何をしてるのですか?」
後ろから声がかかった。若い女の声だ。
振り向くと、高校生かな、セーラー服の女の子が俺を不審そうに見ながら歩いてくる。
おとなしそうに見えるけれど、目力の強い子だな。
何にしても平日の朝からこんなところに来るなんて「普通の高校生」じゃないのは確かだ。
「俺は村のことを調べるように言われたから来た。君は?」
「わたしもです。今来たところですが、小学生達が奥に向かっていったから追いかけようかなって思って」
やっぱり同業者か。
「それなら一緒に行くか。俺は黒崎章彦だ」
「
「亜里沙か。よろしく」
亜里沙は凛々しい顔を少し赤らめて、軽くうつむいた。
「あの、……名前は、やめてください……」
最後の方は消えそうな声だ。
そうか、日本じゃ名前を呼ぶのは親しくなってからだったな。
「悪い、聖、でいいか?」
「はい。では参りましょう」
聖が顔をあげてにこりと笑う。
どきっとした。
あ、いや、そうじゃないだろ。かわいい子だとは思うけれど任務中に何を考えてんだ俺は。
気を取り直して聖と二人、村の中へと足を進めた。
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