戦いの後は予想外のことだらけ

 視界が炎に染まる。熱がもたらす痛みに思わず悲鳴が漏れる。

 なんとかリンメイの魔法の範囲内に滑りこめたからこれでも防御がかかってるんだな。直火焼きから免れてよかったと心底思った。


 ブレスが終わると、視界が晴れる。

 息を吐ききったドラゴンは硬直中だがすぐに動き出すだろう。


 パーティのHPはみんな三分の一あるかないかぐらいだが、回復するよりは次の攻撃でドラゴンを倒したい。


「俺がドラゴンの目の高さに跳んで注意を引く。聖は胸の真ん中に攻撃してくれ。剣が当たった瞬間に闘気を、ありったけの力を注ぎ込め。ヘンリーとリンメイも攻撃できれば頼む」


 多分、相手のHPの残りと聖の闘気の多さを考えるとそれがとどめの一撃になるはずだ。

 この賭けに失敗すると俺らの方がかなり不利になってしまうが。


「りょーかい!」「任せるアル」「やってみましょう」


 三人の声が頼もしくハモッた。


 闘気を使って、ドラゴンの目線まで跳びあがる。これ見よがしにナイフを構えて突っ込む、ふりをする。


 ブレスの硬直が解けたドラゴンが俺に焦点をあわせたようだ。一声吼えると前足を振り上げる。斜め下から弾き飛ばそうって狙いだな。

 体をひねり攻撃を避けつつ、残りの闘気を全部つっこんで、普通じゃありえない軌道で宙返りした。


 リンメイとヘンリーがドラゴンの斜め前から攻撃魔法を飛ばす。

 これで完全に聖から注意がそれただろう。


 いけ、今だ!


「ありったけの力を敵に! 『とどめ斬り』」


 聖の闘気があふれ、さらにスキルが炸裂する。MPを大量につぎ込んで攻撃力を爆上げする技のようだ。新しいスキル、覚えたんだな。


 とどめにならなきゃ名前負けスキルだけど、見事に急所に打ち込まれた一撃はドラゴンに断末魔をあげさせる。

 俺が着地する時にはもう、ドラゴンの目から生気が失せていた。轟音をたててくずおれる。


「HPバー消失。勝った」


 つぶやくように勝利宣言をすると、リンメイと聖が大喜びでハイタッチをした。ヘンリーも安堵の笑みを浮かべる。


 ドラゴンか。

 ……どんな素材が手に入るだろう。ドラゴンの血とか、すごい研究しがいがありそうだ。


 と思ってたら。

 ドラゴンの死骸が光に包まれて、四散する。

 そ、そんなっ。研究材料がっ!


 かなりがっかりしたが、まったく何も残っていないわけでもなかった。

 体が消えると魔法陣のようなものが現れ、一本の短剣が落ちている。

 あとは、青色と緑色の宝石が数個、散らばっている。


「ドラゴン消えちゃったね。死体とか放っておくとゾンビになっちゃったりするかもだから、よかったよ」


 聖の言う通りだが、言う通りなんだが……。


「宝石と短剣はドロップアイテム? もらっちゃおうヨ」


 リンメイは嬉しそうだ。

 そうだな。それがあるだけまだよかったと思うことにしよう。


 気分を(無理やり)持ち直して、何かよくない効果や魔法が付随していたら困るから鑑定はしておく。


 青の宝石がMPの魔石。緑の宝石が闘気の魔石、らしい。MPや闘気を回復させるのか。初めて見るアイテムだ。

 短剣は。……開眼の短剣? 名前がついているってことはそれなりの武器なんだろうけど、具体的な効果とかは俺の鑑定では判らなかった。


「短剣なんだから黒崎くんが持っておいたら?」


 聖の提案にみんながうなずく。

 それならありがたくもらっておくか。

 短剣の柄を握った。

 なんだっ、この魔力っ。

 思わず手を放しそうになるが、まるで吸い付いているみたいに離れなかった。


 左目が痛い。視界が赤くなる。血、なのか?


「黒崎くん?」

「大丈夫アルか?」


 聖達の声が遠くに聞こえる。


 呪いの武器だったのか? このままわけが判らないまま死ぬ、のか?

 不安に駆られたが、やがて痛みもなくなって視界も元通りになる。


 短剣も、あの魔力の放出が嘘だったかのように、普通の短剣だ。

 何も、異常はない。


 ……いや、スキルが、『急所探知』が『急所看破』にグレードアップしたみたいだ。

 でもどう違うんだろう。今は敵がいないから確かめるわけにいかないのが少し残念だ。


「多分、大丈夫」


 答えながら部屋を見回す。

 隅っこにワープゲートがある。ここに来るときに通ったのと同じ色形だ。さらに奥に続いてるってことか。


 その隣に、手のひらサイズのカプセルみたいなのがある。フットボール状で、真ん中にスイッチがついていて、隣のパネルのようなところが赤く光っている。


 鑑定すると、これはメッセージカプセルで、パネルが赤いということは誰かがメッセージを入れているのだそうだ。

 パーティメンバーに説明して、再生の同意を得て、スイッチを押す。

 若い女性の声がカプセルから聞こえてきた。


『わたしはリア・ルティエ。偶然見つけたこのダンジョンの調査をはじめたけれど、帰り道が見つからない。もうちょっと進んで帰りのゲートを探そう。後から来るイクスペラーの人、わたしと会ったら一緒に連れて帰って』


 ……え?

 思わずみんなの顔を見る。

 不安そうな顔だ。考えていることは同じだろう。

 まさか俺達も帰れない、のか?

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