うごめくものが集結したらしい
帰るゲート、あるよな?
このエリアに入って来たゲートが。
踵を返す。みんなも一斉についてきた。
焦る気持ちからだんだん足が速くなる。競歩状態だ。
元来た部屋に戻った。
ゲートが、……ない。
俺達が入って来た辺りにも、部屋をぐるりと見回しても、ない。
「そんな」
「帰れない……」
愕然とする。
ここに入って来た時、当然ゲートは残ってるもんだと思って足元を確認しなかった。
まぁ、したところで消えてたらその時点でどうしようもないんだが。
さてどうするか。
なんか変に冷静だ。
変だろうがいつも通りだろうが冷静な間に考えられることを試すしかない。
おろおろする聖と「どうするアル~」と騒ぐリンメイを慰めるヘンリーを背中に、まずはスマホを取り出した。
圏外だ。
隠し扉なんかのギミックがないか壁を調べる。
なにもない。
呪文とかキーワードとかで開くなんてことは?
いくつかつぶやいたけれど、何も変化はない。
こりゃ、メッセージ残したリアって人みたいに、奥に進むしかないのか?
けれどもしリアが外に出てきてたとするなら、あのダンジョンは一度もぐったら出てこられなくなるかもしれない、って注意喚起があってもいい。そういった危険度の高い情報はすぐに拡散されるはずだ。
「どうしよう、黒崎くん。わたし達も奥に行ってみる?」
不安そうな聖の目を見て、あぁ、守ってやらないとと思った。
……いやいや、存在忘れてたがこれは魅惑の視線だっ。
けれど不安なのはみんな同じだ。なんとかならないものか。
「奥に行っても出てこられないかもしれないって考えてたところだ」
俺はさっきの考えを話した。
「うわぁーん! パパー、ママー、ダンジョンに閉じ込められたアルよ~!」
ついにリンメイが泣き出した。
「誰か、すぐに助けに来るアルよ~!」
リンメイの悲痛な嘆きの懇願に答えるように、床の一部が光を放った。
誰か来たのか? 味方ならいいが敵なんてことは?
四人で固まって、光を凝視する。
人影がふたつ浮かび上がる。敵意は感じられない。
「やぁ、間に合ってよかった」
光が薄らいで二人の姿が見えるようになる。一組の男女だ。どちらも二十代半ばぐらい。
声をかけてきたのは男の方だ。にこにこと笑っている。
女の方は、すごく不機嫌そう。美人と言えなくないのにその表情がいただけない。
彼らの足元の魔法陣は、消えていない。
……助かった、のか。
「何してんの。さっさと来なさい」
不機嫌女が超絶不機嫌な声で俺らに命令した。そのあんまりにも冷たくて厳しい声にリンメイの涙も引っ込んだ。普段は賑やかなだけなのに何気に空気読んでるよな。
とにかく彼らが迎えに来てくれたのは確かだ。俺らは魔法陣に向かった。
外に出た。五月の太陽のまぶしい光に迎えられて村の方に戻ると。
「どうなってんだ?」
思わず声が漏れた。
村に活気がある。たくさんの人が行き来している。
「村の人達、戻って来たのね」
聖が喜んでいる。
そうなのか? なんか雰囲気が違うんだけど。
「この村はあのダンジョン調査の本拠地になったんだよ」
男の人が静かな笑顔で告げた。
「どういうことですか?」
聖が尋ねると不機嫌女は眉間にしわを寄せてさらに不機嫌さを増した。
「本部に来なさい。状況を説明してあげるから」
二人は村の中へと歩いていく。
ひとつ、思い当たることがあった。
「これが、組織を越えた協力ってヤツか」
「村まるごとって、組織越えすぎでしょ」
俺らは顔を見合わせて、とにかく二人についていくことにした。
本部となっている集会所で聞かされたのは、予想以上に大規模なプロジェクトだった。
(File02 うごめくもの 了)
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