File03 敵の手に落ちた友
現状だけは理解できた
ダンジョンから帰ると、村がイクスペラーとその関係者であふれていた。
なにがなんだか判らないまま、俺らは本部と呼ばれる集会所に足を運んだ。
「まずは探索お疲れ様。よくあの声の主を食い止めてくれた」
やっぱりドラゴンが、ダンジョンに呼び寄せる声を出してたのか。
「おれは
こんなに若い人が? 俺とそう変わらないよな。すごい力かすごいコネを持っているんだろう。
「こちらの
不機嫌女はむすっとした顔で俺らを一瞥する。
富川さんがこれまでの経緯とこれからのことをざっくり話してくれた。
ダンジョン近くのこの村から人が消え、俺の他にも何人かが調査に行ったらしいが戻って来たのは俺と聖だけだった。
で、いろんな組織が俺らに話を聞こうとやってきてたわけだな。
この事象がただ事ではないという結論に達すると、そこからが早かった。
どこの組織にも属さない実力者、富川さんが指揮をとり、各組織をまとめ上げ、ダンジョン調査プロジェクトを実行に移した。
「まだ俺らが戻って二日ですが、さすがに準備が早すぎませんか?」
「君達が戻ってからは二日だけれど、村の人がいなくなったのはもうちょっと前からなんだよ」
いろんな組織からいろんな人がもぐっていって戻ってこない。だからナカタニ製薬にも話が回って来た、ってことらしい。
危険な情報ほど早く拡散するイクスペラー界で、まったく話題に上らなかったのは不思議だが、まぁそういうこともあるかもしれないし、これ以上その件に言及するのはよそう。
ここに集った人や組織には情報を共有するが、「外」の人や組織には絶対に話さないように、と富川さんが言う。
「プロジェクトに参加してもらう人達には君達も含めて、この村で生活してもらうことになるから、よろしくね。生活用品や食料はもちろん、イクスペラー用に作られたグッズなんかも支給するからがんばってダンジョンを探索してくれ」
「それじゃ、学校にはいけないんですか?」
聖の質問に富川さんは「そうだね」とうなずいた。
「学校には基本的に家庭の都合で長期欠席という連絡を入れさせてもらうけれど、オフの日に登校するのはかまわないよ」
富川さんの答えに聖はほっと息をついて微笑した。
学校、好きなのか。
俺は好きとか嫌いとかも考えられないくらいに忙しかったという記憶しかないな。
「また閉じ込められたりしないアルか? 戻ってこれないのはいやヨ?」
「その対策も施したから、大丈夫」
エリアを踏破すると先に進むワープゲートが出現する。そのそばに外に出るためのゲートも出るようにしてくれたそうだ。
「だから、戻りたいのに間違って先に進んじゃ駄目だよ。次のゲートを見つけるまで出られなくなるからね」
あのダンジョンは不思議なことに、パーティによって構造を変えるそうだ。だから俺らが進むルートは俺らにしか行くことができない。
富川さん達が助けに来てくれたのは、無理やりゲートを開いたそうだが、大量の魔力や闘気を必要とするのでそうそう使える手ではないのだとか。
「あんた達のところにいくのに、わたしと富川のMPと闘気をかなり消費したわ」
月宮さんがふんと息をつく。
なるほど、不機嫌なわけはそこか。……それだけじゃないかもしれないけれど。
「では、先に行った人達は、リアという女性も含めて、見つかっていないのですね」
「残念ながらそこまで探しに行けないな。もしもこれから調査して行って誰かを見つけたら連れて帰ってきてほしい」
他に質問は? と問われたので考えたが、とりあえず今のところは、ない、のかな。
あれこれ急に変わりすぎて頭がついてきていないのが本当のところだ。
また何か判らないことがあったら富川さんか月宮さんに尋ねる、ということでいったん解散となった。
自分達にあてがわれた集合住宅に向かう。
「はあぁ、なんかすごく緊張したアル。おなか減ったネ」
リンメイはすっかりいつもの調子に戻っている。よかった、のかな。
「何かあっても尋ねるのは富川さんにしたいかな」
聖の感想にうなずいた。
月宮さんは、なんというか、近づきがたいものがある。
「しばらくはともに行動することになりそうですね。あらためて、よろしく」
ヘンリーが胸に手を当てて軽く頭を下げる。
「こちらこそ」
「頑張ろうね」
「よろしくアル」
挨拶をして、それぞれが部屋に入っていく。
キッチン、トイレ、風呂がついていて、寝室と居間という間取りだ。
急いで準備したわりには、綺麗すぎるぐらいに片づけられている。
元々ここには誰かが暮らしていたんだよな。それを調査のためとはいえ勝手に使うことになるのはあんまりいい気分じゃないけれど、生活感が残ったままじゃなくてよかったとも思った。
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