宝箱はなぜそこにある

 ひじりが目を覚ますまで、先の部屋をちょっと見ておくことにした。


 小さい部屋だ。罠はなさそう。左手と前方に通路がある。

 もうちょっと先も見ておきたいけれど聖を一人であそこに寝かせたままにしておくのも心配だから戻った。


 眠ってる姿は普通の女子高生だな。

 恥ずかしがりだと思ったらスキルの名前を叫んでみたいとか、魅惑系のスキル持ちのくせに顔が近いだけでぶっ倒れるくらいのウブだとか。


 こういうのを、あれだな。こういうんだ。


「おもしれー女」


 声に反応するみたいに聖の目が覚めたから、探索再開だ。

 先の部屋の説明をして、まずは左側に進むことにした。


「さっきは、ごめんなさい」

「いや。別に」


 会話が途切れた。

 なんとなく気まずいが気にしないでおく。


 左側に進んだ先にはまた部屋があった。端っこに木箱がある。いかにもファンタジーゲームの宝箱って感じのヤツだ。


「宝箱、ですか?」

「そうだな」

「RPGとかしている時にも不思議に思うんですけど、どうしてダンジョンの中に宝箱があるんでしょうね」


 そうだよな。もしもこのダンジョンが侵入者を防ぐために造られたものだとしたら、イクスペラーの有利になるようなものが入っている宝箱がどうしてあるんだろうな。


「先にダンジョンに入ってやられたヤツの装備とか持ち物とかを、とりあえずそこに入れておいた、とか」


 俺の仮説に聖は「ひぇ」と小さい悲鳴を漏らした。

 それでもいい武器防具だったら喜んで使うけどな、俺は。


 お約束な毒針トラップを解除して、箱を開ける。

 片手剣だな。状態もいい。


「鑑定」


 いわゆる魔剣の類じゃないけど、わりと攻撃力の高い剣だ。


「君が使うといい」

「けっ、けどっ、これの前の持ち主さんが……」


 完全にさっきの仮説にビビってるな。


「あくまで想像の一つだ。もしかしたら気前のいいダンジョンの主が用意したものだって考えも捨てがたいぞ」


 この先、また魔物と戦わないといけないかもしれないからというと、聖はしぶしぶ剣を受け取った。


「あ、本当だ。ちょっと重いけれど、いい剣ですね」


 気分を持ち直してくれたならよかった。


 この部屋は行き止まりで、他に何もない。

 戻って、まだ行っていない通路に向かう。


 進むほどに、先にいるであろうモノの気配を強く感じる。


「多分この先に魔物がいる」


 収納バッグから小瓶に入ったポーションを五つ出して、三つを聖に渡す。


「けがをしたら、それを体にかけろ。傷に直接かけなくても治るから」


 聖はこくんとうなずいて、制服の胸とスカートのポケットに分けて入れた。


 さらに先に進む。

 果たして、通路の先の部屋に一人の女と、五十センチぐらいの蜘蛛が五匹。


 女は白い服を着ていて、恨みがましい目でこちらを見る。はっきり見えてるから幽霊の類じゃないな。妖怪か?

 女の足元にいる蜘蛛が、こっちにやって来た。


「俺が女の相手をするから君は蜘蛛を頼む」

「えっ、わたしの方が数多いって!?」

「多分女の方がボスだ。できるだけ早く片付けるから、粘っとけ」


 言い終わる頃には蜘蛛を飛び越えて女に接近、斬りつける。


「ギィヤァァッ!」


 女が化け物らしい悲鳴をあげる。

 このまま圧していけばと思ってたけど。


「……白夢はくむに惑え……!」


 女が怨念のこもった声でつぶやく。

 途端に、部屋が濃い霧に包まれた。

 敵の気配がつかめない。


 ヒュン、と何かが向かってくる音に反応して動くが間に合わない。痛い一撃を食らってしまった。


「いやぁ、なにこれっ! どうすればいいのっ!? きゃぁ、来ないでー!」


 聖がパニクってる。

 早く何とかしないと。


 焦る俺を笑うかのように敵の攻撃が手に、足に、背中に当たる。


 自分のHPを確認すると半分近くにまで減っている。

 もしかしてバイタルメーターで見えないかと辺りを見回したが、そんな都合のいい機能はなかった。視認できてない相手のバイタルは見えないってことだな。


 落ち着け、見えないなら、察するしかない。

 俺は目を閉じ、集中した。

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