かわいい女子にはかわいい訳がある
ダンジョンに入る前に
「あ、この制服が防具なんです」
にっこり笑われた。
「普通の服の見た目を変えずに防御力を高めた防具か。スカートは戦うには不向きなんじゃないかと思うけど」
「見えないようになってるから大丈夫です」
「何の話だよ」
なにが、って、考えたらなんとなく判るけど、言うのはよしておこう。
「それよりもわたし、気になってることがあるんですけど」
洞窟に近づくほどに頭の中に大きく響く、呼び寄せる声の事かな。
「さっきの急所探知って声に出したのって、そういうのが好きだから?」
なんか期待されてるような視線に感じるのは気のせいか?
「あんまりスキルの名前とか口にしたくないんだけど」
無言でスキルや魔法を発動させることはできる。けれど発動させる技なんかをイメージしながら言葉に出した方が成功率や威力が上がるそうだ。
「声に力が乗る、と言われてるな」
聖はまだスキルや魔法は覚えてないらしい。そりゃ能力開花が三日前だもんな。
「わたしも早く技の名前とか叫んでみたいですねー。そういうのわりと好きなんです」
なるほどさっきの期待の視線はお仲間発見とかって思われてたわけだな。残念ながら俺はお仲間じゃないけど。
技の名前を口にすることに乗り気だとか、闘気の量の多さとか、イクスペラーにむいてるのかもな。
ダンジョンに入って、聖は「うわぁ」と感嘆の声を漏らしている。
「壁、光ってる」
「薄暗いけれど行動するのに十分な光量だな」
でも暗い箇所もあるから念のためにマジックライトを自分のそばに浮かべておく。
「ダンジョンって人が作ったのかな」
「人為的なものがあったりするから、もしも異世界とつながってるっていうのが本当なら、異世界人が作ったのかもな」
「人為的なものって?」
「扉とか、罠とか。……ん、あの辺怪しいな。『罠発見』」
スキルを発動して目を凝らす。案の定、壁に飛び出す矢が仕掛けられている。罠解除ツールを使って取り除く。
「黒崎くんってすごいですね。合流できてよかったです」
「そりゃどうも。けど、君、そういった知識や準備なしでダンジョンにもぐろうとしてたのか?」
「さすがに一人ではもぐりませんよ。元々は村の調査に来ただけですから」
聖がぷぅっと頬を膨らませて睨んでくる。
うっ、なんかかわいいとか思ってしまったっ。
目だ、その目がいけない。できるだけ合わせないようにしよう。
……ん? 聖のMPがちょっとだけ減ってる。
MPってスキルや魔法を発動しないと消費しないんだけど。
まさか聖の目力って、……スキル!? 魅了系とか?
そうだとしても、これきっと無意識だよな。
黙っていよう。
気を取り直して先に進む。
いくつかのトラップを解除して、通路の突き当りに扉が見えた。
「本当だ。扉がありますね」
石の壁にぴったりと木の扉が埋まっているかのようにある。
罠発見で罠は見破った。けどこの罠は厄介だ。
「魔法で付与されてる罠だな」
「解除できないんですか?」
「魔法の罠解除じゃないと無理だな」
そして俺はその手の魔法を覚えてない。
ここまで一本道だ。ここを開けないことには進めないんだが。
おそらくエネルギー弾みたいなのを撃ってくる罠なんだけど、こういうのってよけにくい。さてどうしたものか。
「あ、いいこと思いつきました」
聖が五メートルほどのロープを出してきた。
ノブに括りつけて遠くから引けば罠の攻撃範囲の外から開けられるのではないかという。
よし! その案、いただいた。
慎重にドアノブにロープを括りつけて、そろそろと後退する。
聖に「やるぞ」とアイコンタクトをして、ロープを力強く引いた。
扉が開く。その先に光るものが。
あれがトラップのビーム……、って、なんでそんなにでかくなってんだよっ!
「危ないっ」
聖を突き飛ばして地面に伏せさせる。
覆いかぶさるように伏せた俺の頭を極太ビームがかすめていく。
「やれやれ。まさかあんなに太いのだったとは」
地面まで届くような太さじゃなかったのは幸いだけど。
「聖、大丈夫か?」
かばってる聖を見ると、顔が超真っ赤だ。
……はっ! この体制、いわゆる床ドン。しかも顔近い。
「〇×△■☆$~~!」
おまえが何を言っているのか判らない、って声を発して聖がぶっ倒れた。
これは俺が悪いのか?
答えがないまま、聖が目を覚ますまで待つことになった。
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