感謝のチュウと、混乱の罠

 こんなに長い戦闘はボス戦を除いて初めてだ、いや、ドラゴンでももうちょっと早く倒せたんじゃないか?

 アメリカ軍の活動拠点に攻め入った時もキツい戦いだったけれど、あの時は青井さんがいて、大技を仕掛けてくれるまで粘るという感じだったからまだ終わりが見えていたし。

 それだけ機械兵達がすごく戦略的に動いてたってことだな。


 ……っ、頭痛がまだ残ってるな。


「章彦くん、大丈夫?」


 亜里沙が声をかけてくれる。それだけで元気が出るというものだ。


「あぁ。大したことないよ」

「でもHPちょっと減ってるね。治してあげる」


 バイタルメーターで俺を見た亜里沙が、『崩壊の赤眼』の影響で減ってしまったHPに気づいて、俺の手を取って治癒魔法をかけてくれた。途端に頭痛がなくなって、苦痛に思ってた感覚も消え去った。


「魔法、覚えたんだな」

「うん。たいして回復できないけれどこういう時に使えるなぁ、って」

「ありがとう」


 思わず、俺の手に添えられている亜里沙の手の甲に軽くキスをした。


 ……あ、しまった。嫌かな。


 亜里沙は、顔を赤らめて、でも恥ずかしそうにだけれど、笑った。


 よかったー。何するのよー! って殴られなくて。

 何せ初対面の名前呼びを拒否るくらい恥ずかしがりやだからな。


「もー、なにイチャついてるアルかっ。ひじりんにちゅーするならリンメイにもするアルよっ。メカ忍者転ばせたのはリンメイアル。大活躍ネ」

「はいはい。ほっぺにちゅうな」

「違うアルー!」

「ほら、おまえはヘンリーの怪我を治して感謝のちゅーをしてもらえよ」


 俺はその間に部屋を探索だ。


 隅っこに、宝箱とメッセージカプセルがあった。

 宝箱にはガントレットが入っている。


 ブーストガントレット、か。一日三回、装備者の任意のタイミングで物理攻撃力を上乗せすることができるようだ。


 カプセルを再生する。


『これを残した古代文明は、何をしようとしていたのだろう? この奥にある何かを外に出さないようにするため? それとも、何かに触れないようにするためだろうか? 動かなくなっていたガーディアン達は、どちらを守ろうとしていたのだろう?』


 リアのメッセージだな。


「リアさんはいったいどこまで行ったアルか……」


 リンメイのつぶやきに、俺はふと思い至る。

 リアがここを通ったのって、実は随分昔なんじゃないか、と。


 メッセージカプセルには、彼女がいつこれを残したのかなんて記録されていない。てっきり最近の話だと思ってたけれど実は数十年前だった、なんてこともあり得るのかも。


「下手したら、最奥部まで行ってるかもしれないな」

「でも邪神って近づいた人の闘気や生命エネルギーを吸い取っちゃうんでしょ? だとしたら……」

「あぁ。リアはもういない可能性もあるな」

「守護者は、邪神に近づいた者は操られるとも言ってましたね。最深部でまさかリアが待ち構えているとか?」


 ヘンリーの言葉は、笑えない。

 何が待ち構えていようと、俺らは進むしかないんだけれど。




 ガントレットは俺がもらうことになって、早速装着して先に進む。


 二つの扉の先を調べてみると、一つは通路と扉、もう一つは通路の先に部屋があって、敵はいない。


 先に調べられる範囲を調べてしまおうということで、通路の先の部屋に向かう。


 入口付近に、コンヒュージョントラップがある。解除の方法がややこしくて厄介な罠だ。

 案の定、苦戦するがうまく解除できない。

 部屋に安全に入るのに解除したいんだけど……。


 無理やり通れなくもないから、ちょっと先を見てくるか。

 闘気を使って罠の影響を受けないようにして通り抜ける。


 部屋の隅に二つ、踏むタイプのスイッチがある。部屋の奥にさらに扉があるから、あれを開けるためのスイッチだろう。

 奥のスイッチがそれっぽいので踏んでみると、ガシャンと音がして何かが解除されたと判る。


 扉をそっと開けてみると、あぁ、やっぱり敵がうじゃうじゃ。

 奥に封印のモニュメントもある。敵を倒してあれの安全を確保しないと。


 そっと扉を閉じて、みんなのところに戻ることにした。


 敵が多そうだったな。また苦戦するのかな。

 そんなことを考えていて、コンヒュージョントラップの場所を素通りしてしまった。


 ……あ。

 敵、……倒さないと。


 強い衝動に動かされるように、俺はくるりと方向を変えて敵がうようよいる部屋へと向かった。

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