混乱、また混乱

 敵は倒さないと。

 そればかりが頭の中をぐるぐるする。

 衝動に動かされるままに俺は敵のたむろする部屋へと、ためらいなくつっこんだ。


 ロボが四体と、円盤二機、メカ忍者の色違い(ちなみに今までのは青だったがこいつは赤)がいる。


 ロボくらい粉砕してやる。


 開眼の短剣を抜いて『死の舞踏』で攻撃を仕掛ける。

 いいぞ、ダメージがかなり通った手ごたえだ。


 だが高揚する俺に連中が一斉攻撃を仕掛けてくると、頭に冷や水を浴びせられたかのように冷静になる。


 ――なんで俺、一人でこんなところに突っ込んでんだ!?

 あ、混乱の罠か。


 転身して扉に向かう俺に連中の追撃が雨あられと降ってくる。

 痛っ、いたたたたたっ!


 なんとか部屋を出た時にはHPが半減している。闘気はほぼ底をついた。防御に闘気を使わなければ間違いなくやられてた。


 ぺたんと床に手をついて、肩で息をする。とにかく、助かってよかった。

 呼吸が落ち着いてから、立ち上がる。


 回復スキル『治癒促進』でゆっくりと傷をいやしながら、コンヒュージョントラップの手前まで戻ってきた。


 さてと。あの罠をどうするか、だけど。

 解除できないならみんなに策を講じてもらうしかない。


「おーい、来てくれー」


 残してきたパーティに声をかける。


「なーに?」


 亜里沙の声だ。


「奥に敵がいるんだけど――」

「大変! 章彦くん大丈夫?」


 亜里沙がすっ飛んできた、のは、いいんだけど。


「亜里沙っ、ちょっとまっ――」


 あぁっ! トラップの上を素通りしたっ!

 亜里沙の表情が、敵を前にした時の挑戦的なそれになる。

 すらりと剣を抜いた彼女が闘気を剣に込め始める。


 やめっ、俺、死ぬっ!


 彼女が攻撃モーションに入る前に範囲外に大きく跳び退った。


「……あれ? どうかしたの章彦くん。顔ひきつってるけど」


 どうかしたのも顔を引きつらせてたのも、君だよ。


 他のメンバーはのんびりとやってきた。事情を説明するとリンメイとラファエルが『影渡り』の魔法でトラップを避けてこちらに来て、ヘンリーはラファエルの『引き寄せ』でテレポートだ。


 ……初めからこうすればよかったのでは、と思わなくもないけど、まぁいいか。


 ラファエルも会得している魔法が役立って嬉しそうだ。


 それじゃ、戦闘だな。

 ……と、思ったが。

 気配を察した。もうおなじみのヤツだ。


「ついてきてるだろ。バレてるぞ」


 後ろに声をかけると、思った通り、美坂さんがひょっこりと顔を見せた。


「美坂さん……、帰れ!」


 ぴしゃりと言う。


「あ、くろちゃきがパパ化した」


 リンメイ、茶化すな。


『この先、大変な相手が出て来る予感がします』


 美坂さんがそういう(書く)ならそうなんだろうけど。


「また結界とかがあるのか?」

『今回はそこまでのはありませんが』

「だったら、美坂さんの助力なしでどうにかする」


 きっぱりと言う俺に、亜里沙が同意した。


「月宮さんから聞きました。あのスキルを使うのは命を削ってるんだ、って。それを聞いてしまった以上、使わせるわけにいきません」


 だよな。

 月宮に殴られるとかそういう問題以前の話だ。


 美坂さんは、しゅんと肩を落とした。


「気持ちはありがたく受け取っておくよ。わざわざ来てくれてありがとう」


 礼を言うと、美坂さんはこくんとうなずいた。


「月宮さん、怒ると怖いアルからね。けど月宮さんにナイショにしててくれるならついてきてもいいアルよ」


 リンメイが軽い口調で言った。何を言い出すんだっ。


「おい!! 本気で言ってるなら、本気で怒るぞ!!」

「ごめんネ。だって美坂さんいてくれると強力な戦力アルから」


 それはそうなんだけど。残り少ない命を削らせるのは、違うだろう。


 美坂さんは俺らのEーフォンに、この辺りの敵のデータの最新版を入れてくれた。

 彼女が帰っていったのを見て取って、改めて戦闘準備だ。

 敵の編成を報告して、提案する。


「あっちはラファエルとヘンリーに攻撃を集中させてくるから、俺と亜里沙は遊撃で、あとの三人は固まって戦うといいと思う。ヘンリーが衝撃波を飛ばして、リンメイとラファエルは防御支援と回復に専念する、ぐらいがちょうどいいんじゃないかな」


 攻撃魔法好きのラファエルには物足りない作戦だろうが、ここは「命大事に」だ。


 さて、俺にとってはリベンジマッチだ。

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