迷惑料だ、払っとけ
リンメイと離れたかったが亜里沙を待たないといけない。
無視して、ネットニュース見ながら漢字の勉強でもするか。
「くろちゃきー、何やってるアル?」
無視だ。
「ねえ、ネットばっかり見てないでリンメイとお話しするアルよ」
無視だ、無視。
「ねーねーねーねー」
「うるさいなっ。――うわっ、キーボードぺしぺしやるんじゃねぇよ。変なとこつながったらどうするんだっ」
ほんと、黙っているということができないのかこいつは。
「いいもん。ひじりんに報告アル。くろちゃきが外国人の美人と密会してた、っと」
「ちょ、誤解を招くようなことするなっ。あの女はエンハウンスの部下だ。あっちにつけって言ってきたから断ったんだよ」
「美人にナンパされて鼻の下伸ばしてたアル」
「隙あらば誰彼構わずちょっかい出しに行くおまえと一緒にするな」
「リンメイが他の男に話しに行くのが妬けるアルね?」
おめでたい思考だ。
そんなこんなで、放課後の時間になった。リンメイはでかいチョコパフェが来てからちょっとおとなしくなった。
そろそろ亜里沙が来るかなと考えてたら。
バターン!
喫茶店のドアが壊れるかってぐらいの勢いで開いた。
びびった。
入口を見ると、ぜーぜーと息をしている亜里沙がいる。
「おい、亜里沙、いくら呼び出されたからって一人で出るなんて――」
「なによあなたこそ、誰と会ってたのよっ?」
えぇっ? なんだよそれ。
「誰とって、おまえには関係ないだろっ、それよりもおまえの行動の方が問題だろ」
つい、売り言葉に買い言葉で怒鳴り返してしまった。
「関係、ない……。そうでしょうね、美人と会って鼻の下伸ばしてっ」
おまえか、リンメイ!
ぎろっと睨む。
にやにやしながらチョコパフェ食ってやがる。
「鼻の下なんか伸ばしてねぇよ。あいつは、そんなんじゃない」
ミリーの、視線だけで殺してくるような顔を思い出した。
あいつにそんな顔をさせたのは、俺なんだよな。
「……ごめん。訳ありなんだね。そもそもわたしが一人で出かけたのが悪かったんだし。何があったの?」
察してくれて、よかった。
「ここでは、話したくない。まだ自分の気持ちも落ち着いてないから」
「判った」
「帰るぞ」
「うん」
席を立った。
「えっ、リンメイはっ?」
「まだパフェ食べてるだろ? ごゆっくり」
俺が飲み食いした伝票も一緒において、聖と一緒に店を出た。
「ひどいアルー!」
叫んでるリンメイを無視して、亜里沙にバイクのヘルメットを渡した。亜里沙も当たり前みたいに受け取って、二人で本部に向かう。
亜里沙もなかなかやるな。
途中で公園に立ち寄って、ベンチに座って、亜里沙と話をした。
「みほちゃんに呼び出されたの」
「ん。通話、聞いてた。つなげててくれてありがとう。さっきは怒鳴って悪かった。心配だったんだよ、すごく」
本当はそばまで行ってたんだけど黙っておこう。いくら心配だったからって女子高の中を走り回ったなんて知られたら引かれるかも、だし。
「ううん。勝手したのはわたしだから。相談してから行ってもよかったのよね。連絡が来た時はとにかく行かなきゃって思って」
エンハウンスに連れ去られてどうなったか、気にしてたもんな。無理もない。
「もしかして、あなたが会ってた人も?」
「あぁ」
俺はミリーとの会話をほぼそのまま亜里沙に伝えた。
自分が孤児だったと、本当は誰にも言いたくない。
けれど、亜里沙になら知っていてもらっても、いいかなって、思ったんだ。
「あいつは金持ちだとか言ってるけど、俺なんて、今だに出自が判らない、本当の誕生日すら判らない、どこの馬の骨かも判らないヤツだよ」
「章彦くんは、章彦くんよ」
亜里沙の声が、優しく胸にしみる。
「……悪い。暗い話になって」
「ううん。気にしないで」
「そうだ。亜里沙の誕生日はいつだ?」
努めて明るく尋ねた。
「えっと、なんか、ちょっと言いにくいんだけど」
「うん?」
「明後日」
「そうなのかっ」
プレゼント、用意しようかな。
今言ったら絶対遠慮するだろうから、内緒だ。
「明後日、時間があったらパーティメンバーで、誕生日パーディでもするか」
「なにそれ、シャレ?」
言いながら、亜里沙が笑ってくれた。
ほんと、いいヤツだよな……。
「帰るか」
「うん」
また亜里沙にメットを渡して、今度は本部まで寄り道せずに戻った。
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