頼りになりそうな式神だ
本部に戻ると、いかにも怪しげな男がうろうろしている。黒ずくめの服で、初めてここにやってきました感丸出しのきょどりっぷりだ。
思わず亜里沙と顔を見合わせた。
「誰かを訪ねてきたのかな」
「本部には人払いの結界が張ってあって、唯一の入口でチェックを受けるはずだから、正当な訪問者なのは間違いないだろうけど」
怪しいよな、と声をそろえて、笑った。
「あの、どなたかお探しですか?」
亜里沙が男に声をかけると、リンメイに届け物だという。
放って帰って来たからなぁ。親父さんに送ってもらうにしてももうちょっとかかるだろうな。
「リンメイちゃんならもうすぐ戻ると思いますけれど、よかったら、お預かりしましょうか?」
「あ、いえ、直接本人にお渡しします。もうすぐ戻るなら、この辺りで待たせていただきますよ」
配達人としては、それが正しい判断だろうな。
何が届いたのか気になるところだが……。
考えていると、E-フォンが鳴った。
ラファエルから、例の魔導書の封印を解いたというメッセージだった。
本部にいつの間にか作られた地下深いところに連れていかれて、何かとんでもないことにならないかと心配したが、封印はあっさりと解けたそうだ。
そういや、魔力が暴走した時のために準備するって富川さんが言ってたらしいし。
場所は多分、テ・ミュルを研究している地下施設のさらに地下に続いてた先だろうな。
『封印が解けたのでこの魔導書を普段使いのものとして契約しました。あとは、中身の解読ですが時間がかかりそうです』
契約している魔導書がパワーアップしたことでラファエルの魔法も威力や命中度が上がったり、新たな魔法を覚えたりできたそうだ。
で、ゲートの管理についてはこれからだそうだ。
これから必要になることがなければいいが、あった時のために、頑張ってくれ。
今日は俺の用事はない。亜里沙の修行について行って訓練してもらうのは明日だし、今日はのんびりするか。
亜里沙の誕生日プレゼントをネット注文しておくぐらいだな。
夕方ののんびりタイムを満喫していると、リンメイが部屋に急襲してきた。
「くろちゃきひどいアル!」
「おまえが話をややこしくしたからだろう。自業自得だ」
けれど自分が飲み食いした分は払っておいてやろう。後でごちゃごちゃ言われるのも面倒だし。
「ところで、届け物を持ってきたって男がいたが、受け取ったか?」
尋ねると、びくっ、て音がするくらいに体が跳ねた。
「え、あ、うん、もらったアル。大丈夫ヨ」
「なんか大事そうなものっぽいが、なんだ?」
「く、くろちゃきには関係ないアル」
……あ、判った。前に亜里沙が言ってた惚れ薬だな。
「そうか。ならいいけど」
予想通りなら全然よくないが……。隙を見て奪い取るしかないか。イタズラに使われたら困る。
「それよりもおまえ、富川さんの式神を借りに行く話はどうなった?」
「あっ! 忘れてたアルっ! 今から行けるか聞いてくるアル!」
そんな重大なことを忘れて、こっちをひっかきまわしてんじゃねーよ。
結局、次の日の朝までリンメイは帰ってこなかった。
静かな夜を、亜里沙と談笑して楽しく過ごした。
平和だ!
朝、パーティメンバーで集まった。
夜遅くまで式神の儀式に臨んでいたリンメイがお疲れの様子なのは判るが、なんでヘンリーまでげんなりした顔をしているんだろう。
「兄貴が本国に帰ったのはいいのですが、山のように縁談の写真が届きました。一応目を通して断る理由を考えていたので寝不足です」
あの兄貴、まだあきらめていなかったのか。
「私を疲弊させるのが目的の嫌がらせでしょう。なにせ彼はエンハウンスの手先なので」
あんたもまだそんなことを言ってるのか。
で、リンメイの方は。
「がんばって式神と契約できたアル。この子アルよ。名前はドドメスね」
リンメイの傍らに現れたのは、リンメイの膝辺りまでの大きめの黒猫で、尻尾が二本ある。
なんだか不機嫌そうな雰囲気なんだが。ドドメスって名前が気に入らないのか?
「契約ってどんなことをしたの?」
「蔵に閉じ込められて、ドドメスと戦って勝ったアル」
式神を従えさせるだけの力の持ち主にしか契約できない、ってパターンか。
「なかなか見込みはある娘だが、やかましいのが玉に瑕じゃな」
契約して間もない式神にすらやかましいと言われるこいつって……。
知性もあって人の言葉を話せる式神だが、基本的にリンメイの命令通りの行動をとるようだ。直接攻撃もできるが攻撃力はあまり期待できないのでMPがあるうちは攻撃やサポートを、MPが尽きるとリンメイに憑依、というのが基本スタイルになるっぽい。
ドドメスがリンメイに憑依すると彼女の戦闘能力が少し上がるようだ。
単純にパーティメンバーが増えたと考えてもいいかもしれないな。
「おーい、出かけるんだろう? そろそろ出発しないか?」
俺らを呼びに来たのは、ジョージ! 生きてたんだな。
「またあんたアルかっ」
「やぁ嬢ちゃん。今日もよろしくなー」
「気安く呼ぶなアルっ」
どうやら昨日、富川家への送り迎えをジョージが担当したらしい。
「あのまま殺されたかと思ってたぞ」
「おれはおまえらとの戦闘を回避しようとしたから、生かしてもらえたよ。今はこうしてダンジョン探索本部の雇われだ」
その口ぶりからすると、あの時の戦いで生き残ってた連中は……。
まぁ当然、なのかもな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます