ちょっと忘れてたイベント
欲を言うならタ・ミュルイの体の一部でも持って帰りたかったが、まずは周りの安全の確保が優先だったから仕方ないな。
巨大ワームが完全に消え去ったことを見て取って、俺らは待ち合わせの小屋に戻った。
「あれ、ジョージ」
「よぉ、その様子だとワームは始末できたみたいだな」
ほっとした顔のジョージを見て、こっちも改めて安堵する。
「なんであんたが来るアルかっ」
「おれは非常時に動ける要員として本部に待機しているから、こういう時にはおれが来るぞ」
「いやアル!」
リンメイ、自分からずかずか他人の領域に入って行くくせに、同じように来られるのが苦手なんだな。同族嫌悪ってやつか? ジョージは判っててやってるみたいだけど。
「ところで、捕まえておいた吸血鬼は?」
ミリーを転がしておいたところには、ロープが残されている。
それだけで事情は察したが。
「おれがここに来た時は誰もいなかったぞ」
ロープを観察してみると、刃物で切られたというよりは、ちぎられているみたいに見える。
江崎じゃなくて、きっと狼人間の方だな。
「悪かったな。もうちょっと早く来られてたら捕虜の確保も、ワーム退治の手伝いもできたのに」
「ジョージさんは信用ならないアル」
「ひどいな嬢ちゃん」
「だから嬢ちゃん呼ぶなアル」
おまえらいいコンビだよ。
とにかく本部に戻ることにした。
「タ・ミュルイの討伐、ご苦労だったわね」
月宮が労ってくれるなんて珍しい。
「あの一帯は大丈夫か?」
「近隣の町に監視を置くことになったわ。大丈夫だとは思うけれど、念のためね」
戦いの中で多少なりともウィルスが流出した危険は否めないからだ。
何事もなければいいけど。
報告をして、解散になった。
俺は部屋に戻って、父さんにメールを出した。
ミリーに関して、だ。あいつが一体どこに引き取られてどんな生活を送っていたのか、確かめないと。なので、判る範囲でいいから彼女について教えてほしい、と頼んでおいた。
わたしの何も知らないくせに、か。
金持ちは殺してやる、ということからして、ろくな生活はしてなかったんだろうなとは想像できるが。
昔馴染みとして、……ひどいことを言ってしまった詫びとして、俺にできることはやりたい。
そんなことを考えてると。
「黒崎さん、お届け物ですよ」
部屋のドアがノックされた。
届け物? ……あっ!
思い当たって、急いで受け取りに出る。
よかった。間に合ったな。
郵送のパッケージから中身を取り出して、俺は亜里沙の部屋に向かった。
部屋の近くで、亜里沙を見つけた。
「亜里沙、ちょっと」
「なぁに?」
「これ、プレゼントだ」
ラッピング、というには簡素な包み方だけど、ピンク色のパッケージに赤いリボンをつけた箱を亜里沙に差し出す。
「……え?」
「誕生日だろう? 今日」
あんまりにもきょとんとしてるから、日を間違ったのかとちょっと焦る。
「ありがとう! すごくうれしい!」
よかった。あってた。
「開けてみていい?」
「もちろん」
亜里沙がわくわく顔で包みを解いて中身を出した。
これで頼む商品を間違ったなんてことになったら笑えないが。
出てきたのは、ゴールドチェーンのネックレスだ。ペンダントトップに小さなムーンストーンがついている。細身のチェーンで控えめなデザインなのが俺としてはいいと思うんだが。
「すごい、綺麗。こんなよさそうなの。もらっちゃっていいの?」
「もちろん」
「この石は?」
「ムーンストーン。六月の誕生石なんだってさ」
亜里沙はしばらくネックレスを眺めてから、嬉しそうな顔を向けてきた。
「大切にするね。ありがとう」
まぶしい笑顔に思わず目を細める。
喜んでもらえたし、また明日からも頑張らないと、な。
(File08 吸血鬼との再戦 了)
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