大魔法の脅威
俺とミリーが一触即発で睨みあってると、亜里沙が江崎に呼び掛ける声がした。
「みほちゃん! ……みほちゃん、返事してよ」
しかし江崎からは何の反応もない。声を発するどころか亜里沙の声に身じろぎすらしない。
亜里沙を亜里沙と認識していない、あるいはどうでもいい、という無関心さか。
つまり、今の江崎は亜里沙の友人の江崎じゃないってことだ。魔剣フェルデスの支配がより進んでしまったということなのかもしれない。
「みほちゃん。必ずその剣から解放してあげるからね!」
亜里沙が剣を抜いた。江崎も魔剣を構えなおす。
「ラファエル。おまえもこちらにくるのだ。永遠に魔導の研究ができるのだぞ」
これは、ラファエル父の声だな。ちらりと視線をやると、恍惚とした顔でラファエルに話しかけている。
……ああいうキャラ?
「親父! どうしちゃったんだよ?」
そうでもなかったみたいだ。
「偉大なる力の前では我々は無力なのだ。ならばその力に従うしかないだろう?」
「……どうして彼女まで巻き込んだんだ」
「彼女? あぁ静乃さんか。使いやすかったからね」
笑い声になんの罪悪感も感じられない。
「親父、やっぱりヘンだよ。そっちには行かない。実力行使で、連れ帰る」
「そうか。やはり力対力となるのか。よかろう。この父の偉大さを思い知るがいい!」
「操られているからではなく、元からああいうキャラですか。なるほど」
「違うよっ」
ヘンリーのつぶやきに、特に最後の「なるほど」に思わず笑いそうになる。
変に力が入っていた俺の体が適度にリラックスするのを感じた。
ミリー達は倒さないといけない。治療薬を手に入れないといけない。
だが必要以上にこわばった体では思うように動けない。
脱力させてくれたラファエル父とヘンリーに感謝だな。
……そういえば、ウィリスは?
まさか治療薬をこっそり持ちだそうとしたのを失敗してこの場には来られなかったとか?
だとしたら、ミリーから直接奪うしかないのだが。
ぐっと腰を落とす。
ミリーめがけて、ありったけのスピードで突っ込む。
亜里沙も江崎に向かって行った。
リンメイの補助魔法をもらってミリーに短剣を振るう。
あたった、と思ったらミリーの姿がかすんで、刃は空を切る。まるで霧を払っているかのような手ごたえのなさに、回避系のスキルを使われたのだと理解する。
「きゃあ!」
この声は、リンメイ!?
……背後の気配が一つ増えた。
「人狼?」
「後ろから奇襲とは」
ラファエルとヘンリーの言葉で何が起こっているのかを把握する。
ウィリスが、しっかりと気配を殺して背後から襲ってきたんだな。彼がいないと認識した時に奇襲の可能性を思いつけなかったのは痛い。
牧田が、リンメイを撃つ。魔法と式神のドドメスへのダメージ転換で難は免れたようだが、この状況はまずいな。リンメイが落とされたら俺らの防御、回復がほぼなくなる。
さらに、ラファエル父が何やら大魔法を唱えているらしいと察する。
「ラファエル!」
「判ってる。止めるよ。……彼の者の魔法の発動を止めろ、『魔法阻害』!」
「――効かんよ! 『大旋風』!」
ラファエル父の魔法が、発動した!
途端に荒れ狂う風が体育館を揺るがす。
「くそっ、『霞隠れ』」
気配遮断のスキルで攻撃対象から逃れる。敵の位置を認識しないと攻撃力を持たない魔法ならこれでダメージを逃れられる。敵味方所かまわず打ち込む魔法には通じないけど『大旋風』は前者だったようだ。助かった。
大嵐が去って、すぐに皆の姿を確認する。
まず目を惹いたのがヘンリーの鎧と盾だ。ほのかに光っている。
あぁ、ダメージ無効の特殊能力か。
亜里沙も大丈夫のようだ。
だがリンメイはかなり痛手を負っているし、式神のドドメスは消えている。
ラファエルは、倒れていて動けなさそうだ。
父親はかなり高レベルな魔術師だって話だったからな。完全に魔法を無効化する魔法を会得できなかったんだから仕方ないか。
「うぅ、いけると思ったのに。やっぱり闘気をフルで使うべきだったな」
……はっ? 今なんて?
絶対止めなきゃならない魔法に全力で止めに行かなかったってことか?
どんだけ自分の力を過信してんだよこいつ。
いや、今はラファエルの失策を責める時じゃない。
まずはラファエル父をどうにかしないと、またあの規模で魔法を撃たれたら今度こそ終わりだ。
「亜里沙、ミリーも抑えてくれ」
「りょーかい!」
きっと俺の意図を察してくれてる亜里沙にミリーも相手してもらう。
「――っと、みほちゃん!」
江崎が亜里沙の足止めに回ったか。
「ごめんみほちゃん、あとでしっかり相手するから、とりあえず止まってて!」
亜里沙が『封神の虹眼』を発動する。
彼女の左目が虹色に輝き、その光が剣に――。
なんだっ!? 今まで以上の光が広がっていく……!
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