帰って来た俺らとアイツ
光が消えて、俺らが戻ってきたのは作戦本部の指令室前だった。
でも一目見て、ちょっと何かが違うなと気づく。
人がほぼいないんだ。
いつも人が行きかっていた広場は、がらんとしている。
居住区の方に目をやっても、誰もいない。
「あー! 戻ってきた!」
聞き覚えのある声だ、と思ったら、体に衝撃が加わる。
遅れてやってきた温かさに、ハグされたんだと気づいた。
「もう戻ってこないかと思ってたぞ」
レッシュだ。体を離して、頭をわしゃわしゃされた。
「おまえら、よくやったなぁ。あ、指令室に
めちゃくちゃいい笑顔で手を振ってレッシュが指令室に走っていく。
「すごい歓迎ぶりだね」
「我々が行かなければ儀式が失敗していたかもしれないのですから、ね」
亜里沙が目を丸くしているのに、ヘンリーが微笑した。
レッシュはすぐに富川さんを引っ張って走ってきた。その後ろにはリカルドさんもいて、ゆっくり歩いてきている。
その他、作戦中は監督者だった人達が続々とやってきて俺らを囲んだ。みんな口々にお礼や労い、帰還を喜ぶ声をかけてくれる。
……月宮は、いないな。後で探さないと。
「おかえり」
富川さんが笑顔でいうのに、あぁ、帰って来たんだなって実感が増した。
「ただいまぁ」
亜里沙が顔をくしゃっとゆがめて涙を浮かべている。
頭を撫でると、しがみついてきたから抱きとめた。
「あーあー、相変わらずお砂糖振りまいてるな」
レッシュがからかうとみんなが笑った。
俺ら、作戦中にそんなにいちゃついてたっけ?
「それで、どうなったんだ? どうやって帰って来たんだ?」
富川さんの質問に、俺らは起こった出来事を順に話した。
飛ばされたのは二千年後だったこと。
そこで月宮や魔眼の持ち主らと協力して真祖と“ディレク・ケラー”を倒したこと。
月宮の術でこっちに送られたこと。
話を聞いているみんなは、邪神が倒されたと聞いて歓声を上げた。
「儀式が完成する時に戻ってこられなかったからもう戻ってこないと思っていたよ。あれから三日経ってるからね」
今度は富川さんがあれからの話をする。
儀式が完成して、“ディレク・ケラー”の核が消えた。
俺らは当然いなくて、未来に一緒に飛ばされたのだとはすぐに判った。
一日は、そのままみんなで待った。もしかすると未来の人が事情を知って、何らかの形で戻してくれないか、と。
ただ、邪神を送る先が数億年後ということで、人類がいない、下手をすると地球そのものがない可能性だってある。
だから望み薄だと思っていたそうだ。
邪神の気配が完全に消えて一日して、作戦は完了したということになり、本部は撤収することになった。
で、主だった作戦の管理者達が残って後片付けの最中だったそうだ。
「まさか今になって戻ってくるとは」
「未来の月宮さんが日付を間違えたネ。月宮さんのせいアル」
「おいおい」
「帰されたのだからいいじゃない。なんならあんたは帰さないように記録を残してもいいのよ?」
月宮の声にリンメイが悲鳴を上げた。
いつの間に来てたんだ。
「ところで、ジョージくんはどうなったんだ?」
富川さんの声に、あ、と小さい声をあげた。
「ジョージさんは未来に飛ぶ前に真祖にやられたヨ。体真っ二つだったから助かってないネ。未来にもいてなかったアルから、どうなっちゃったかは知らないヨ」
リンメイが眉根を寄せて応える。ジョージのことは嫌がってたけど、やっぱりあんな姿を見せられたら心が痛むよな。
「そうか……。こっちにも体は残っていなかったから、未来に飛ぶ時に何らかの理由で違うところに飛ばされてしまったのかもしれないね」
ジョージ、いい奴だったのになぁ。
なんてしみじみしていたら。
「うわあぁっ!」
上空で悲鳴が上がって、何かが落ちてくる気配が近づいてくる。
咄嗟に、よけた。
ずどーんとすごい音をたてて、地面にぶつかったのは、――ジョージ!
「ジョージさんの亡霊アルっ! メカメカしくなって化けて出てきたネ」
リンメイの言う通り、ジョージの体は以前より機械の部分が増えている。けど、これ絶対亡霊とかじゃないよな。
「ひどいな嬢ちゃん。おれは生きてるぞ。いや、一度死んだも同然だけど」
みんなが唖然と見つめる中、むくっと起き上がってジョージがリンメイに絡んでる。リンメイは悲鳴を上げて逃げている。
あぁ、前によく見た光景だな。
それにしてもあんな勢いで地面に激突したのに丈夫になったなジョージ。
「で? 何がどうなってそうなった?」
俺が尋ねるとジョージはリンメイを追いかけるのをやめてこっちに戻ってきた。
「どうやらおれが飛ばされたのはすごい未来みたいなんだよ」
ジョージは真祖と戦って胴体と左腕を切断されたが、かろうじて生命活動をつかさどるコアはまだ完全に停止していなかった。
そして遥か未来に飛ばされた彼を、未来の人が拾ってくれて修理してくれたそうだ。
だが不安定な状態で時間を渡った影響だろうか、何か大きなショックを受けるとタイムトラベルをしてしまうようになったのだとか。
「おれにとっては数十年ぶりにこの時代に戻ってきたことになるなぁ」
未来や過去に飛んでいろいろな経験をしてきたらしい。
「おまえらの未来も知ってるけど、言わない方がいいよなぁ」
俺を見てにやにや笑ってる。
「そうだな。聞かないことにする」
「いろいろ苦労するだろうけど、うまくやれよ」
苦労するのかぁ。
これから諜報の世界に本格的に入ってくんだから、まぁ、安穏とした生活じゃないだろうって覚悟はあるけど。
「あぁ、なんとかやってくよ」
言いながら、亜里沙を見る。
彼女も俺を見て、笑った。
「大丈夫。あきちゃんはわたしが支えるよ」
「ありがとう、亜里沙」
「おーおー、ごちそうさん」
亜里沙がそばにいるなら、頑張れるよ。
せっかく助かったんだ。精一杯生きてやる。
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