人狼の情報

「なんで今回、わたしたちの知り合いを襲ったアルか?」

「今回の襲撃は作戦にはあまり関係ない。ミリーの独断だ。あんたらの知り合いをウィルスに侵して、あんたらを苦しめたかったらしい。もう“あいつ”の復活に関して、俺たちがやらなければならないことはないようだし」


「あいつ、とは?」

「え、知らないのか? ダンジョンの深部まで到達しているから当然聞かされているものだと思っていたんだがな」

「上があんまり教えてくれませんから」


 ウィリスはすごく驚いている。


 ……考えてみりゃ、俺らから何も聞かない限り、本部の上の人達は何も教えてくれてないな。

 いや、尋ねたことの全部を答えていたとも限らない。


「“あいつ”はエンハウンスの旦那が復活させようとしていたやつだよ」


 邪神って呼ばれてるヤツだな。


「今は? 誰がやってるの?」


 ミリーだろうな。


「ミリーだ。だがあいつも誰かに命令されているみたいだな」


 ウィリスもミリーに命じているのが誰か知らないのか。

 けど予想はつく。

 真祖だな。その真祖の中でもトップのヤツだろう。


「さっきから気になってたアルけど、その邪神、見たカ?」

「見たよ。見せ付けられた、というべきかもしれないが。とてもじゃないが人がどうにかできるもんじゃない」


 ということはすでにエンハウンスは邪神の元に到着していたということか。つまり今のミリーも、邪神の近くに行くルートを確保しているんだな。


「邪神の復活まであとどれくらいなの?」

「二週間、早ければ一週間くらいかな」


 亜里沙の質問への答えに、もうそんなに近いのかと驚きと緊張が俺らの間に広がる。


「復活のための要素は、そちらにすべてそろってるの?」

「ああ、そろってる。後は時間の問題だ」


 前にちらっと本部でも聞いたが、邪神は生命のエネルギー、特に闘気を糧としている。

 邪神にエネルギーを送る媒介としてエンハウンスがドラゴンを召喚していた。そいつが思っていたより効率的に闘気を集めたので邪神の復活が早まったそうだ。


 街のあちこちにゲートが開いた事件のことだな。

 もっと早く俺らがダンジョンのドラゴンを倒せていたら……。


 きっとみんな似たようなことを考えていたんだろう。重苦しい沈黙が降りる。


 ややあって口を開いたのはラファエルだ。


「僕の父と、友人はどうしてそっちにいるんだ?」

「あんたの父親に関しては、エンハウンスの旦那が下僕として連れてきた」


 やはり家が襲撃された時にラファエル父は囚われたんだな。


「女に関しては、捕まえてきて、魔導書を奪う計画に使ったけど、どう処理するかは決めてないって言ってたっけな」


 静乃のことは、正直俺にとってどうでもいい。助けられれば助けるし、できないなら見捨てるしかない。


「計画通りまんまと魔導書奪われたアル。ラファエルさんが鼻の下伸ばしてるからヨ」


 それに関しては俺も何度も忠告したのに奪われるラファエルが悪い。「敵よりも怖いのは頼りない味方だ」って、誰か言ってたっけ。名言だと実感したよ。


 みんなが次々に質問しているし、俺は黙ってたんだが。


「あきちゃん、聞きたいことあるんじゃないの?」


 亜里沙が気を回してくれた。

 そうだな。聞いておくか。


「なぁ、ミリーは本当にあきらめちまったのか? 世界が滅ぶから研究は続けなくていいって言ってたけど、あれは本心か? あんたなら判るだろ?」

「あきらめちまったんじゃないか? エンハウンスの旦那の部下になるときに他のノートは全部燃やしちまった。あんたが持ってる一冊は、おれがこっそりとっておいたんだ」


 未練を残しているような顔に見えたけどな。

 それとも、振り切ったと思っていたのにノートを見たから未練が顔を出したか?

 どちらにしても何も感じていないよりはずっといい。


「どうして?」


 これはリンメイの質問だ。


「せっかくの才能の証を全部燃やすなんて、もったいないと思ったんだよ」

「だったら、あんたも説得するなりなんなりすればいいアルよ」

「無駄だと、思ってたんだ。ノートはとっておいたけれど、“アレ”を見たら、世界が滅ぶのは当然だと思ってた」


 ウィリスはひとつ息をついた。


「でもあんたらを見ていたら、ひょっとして、万が一にでも、ミリーが負けちまうことも考えたんだ。だからもしもそうなったときのことを考えて、それを渡した」


 念のため、ってことか。そう思わせるくらい俺らに勢いがあるって判断されたんだな。

 二度目の沈黙に、口を出したのはウィリスだ。


「質問はおわりか? だったら、ミリーのこと、よろしくな」


 すっきりしたとでもいわんばかりのウィリスの顔と声に、こいつここで殺しちゃだめだと思った。

 もう自分はやるべきことをやり切った、ってか。冗談じゃない。

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