即死魔法 対 魔法無効化

 部屋にはさらに、何かを作動させるスイッチがある。押してみると、ガコーンといかにも開錠しましたって感じの音がする。

 これで左の部屋の扉が開くようになるのかな?

 ということは毒ガスの部屋を調べなくてもいい感じなのかもしれないが。


「どうする? 奥に続いてるのは左の部屋で、多分毒ガスの部屋は行き止まりだけれど」


 体力やMPとかを節約していくなら、先に進んでもいいんだよな。


「毒ガスの方にいくアル。そういう部屋には絶対にいいものがあるネ。リンメイが使える防具とかほしいヨ」


 自分の防具がほしいだけだろう。

 けど、いいものがありそうなのはうなずける。

 みんなもうなずいたから、毒ガスの部屋に行くことにした。


「部屋の中だが――」


 さっき覗いた時の状況を説明する。

 入口は部屋の左隅で、対角線上にスイッチみたいなのが見えた。多分あれが毒ガス解除のスイッチだろう。ダミーとかでなければいいけど。


 敵はラ・アディンが三体、デュアルセイバーの亜種が二体、マジシャンの亜種が一体で、バラバラの位置にいた。


「マジシャンの魔法は僕がなんとかするよ」


 ラファエルが言う。魔法の発動を止められる『魔法無効化』を習得できたからもう大丈夫だ、と。


「その言葉を信じるぞ。それなら、機動力のある亜里沙に解除スイッチを押しに行ってもらって、俺とヘンリーは亜里沙が真ん中を突っ切りやすいように左右で敵を引き付ける、って感じでいこうか」

「りょーかい。スイッチ押したらマジシャンに攻撃するよ」

「リンメイは魔法で補助と回復ネ。余裕があったら補助はドドじいメインでリンメイは敵の動きを止めたり攻撃魔法も飛ばすヨ」


 基本方針は固まった。


 ドアを開け、すぐに亜里沙がE-フォンで敵のデータを検索する。


「手がブレードのが、マスターデュアルセイバー。攻撃方法は同じ。けど全体的に強くなってる。マジシャンタイプがケイオスソーサラー。光属性の範囲魔法攻撃と、……闇属性の即死攻撃っ!?」


 最後、声が裏返った。


「即死ってなにアルっ!? めちゃ怖いヨ! くろちゃき、リンメイを守るよろし」

「無茶言うなし。俺のほうがおまえより抗魔力低いっ」


 それにしてもネーミングがもう、考えてられないから安直に付けました的な感じがして笑えてくる。そりゃ人類の危機が迫ってるのに悠長に魔物の名前なんか考えないよな。


 それよりも気になるのは、息をするごとに軽く手足に違和感を覚えることだ。毒ガスの効果だな。一気にダメージがくるものじゃないけど吸い続けてると動けなくなりそうだ。


「作戦は変更なしですね?」

「あぁ」


 ヘンリーに応えながら俺が右奥に進むと、ヘンリーもうなずいて前進する。

 さっそくラ・アディン二体とデュアルセイバーが俺とヘンリーに向かってくる。


 ケイオスソーサラーが呪文の詠唱を始めた。


「ラファエル、頼むぞ」

「うん」


 ラファエルが一歩前へ出て、ケイオスソーサラーの詠唱にあわせて集中する。

 ソーサラーの魔法がまさに唱えられようとする瞬間。


「……彼の者の邪悪な魔法を打ち消せ、『魔法無効化』」


 魔導書を掲げて高らかにラファエルが宣言する。

 敵の魔法は――、発動しない!


「やったな、ラファエル!」

「ラファエルさんありがとう」

「これで即死魔法も怖くないネ」


 感謝の言葉にラファエルは嬉しそうに照れ笑いを浮かべている。


「それじゃ、いっくよー」


 亜里沙が飛行アシストをフルに活用して、一気に部屋を突っ切る。敵の前衛はきっちり俺らが接敵してるから亜里沙を追いかけるヤツはいない。


「ダミーでありませんようにっ」


 高らかな祈りの言葉を口にしながら、亜里沙が床のスイッチをダンッと力強く踏む。

 壁から漏れ続けていたピンクのガスが、止まった。


 リンメイが防御力と素早さアップの魔法をくれる。


 敵の猛攻の隙を伺い、右手に魔力を集める。

 この奥義も使い慣れてきて、集中の時間が短くなってきた。反動ダメージは相変わらずでかいが、それは俺のMPの総量が増えて技の熟練での反動軽減より攻撃力増加の方が大きいからだ。


「業火にのまれろ。『炎竜波』」


 ラ・アディンが倒れ、デュアルセイバーが炎にからめとられる。楽々と急所にとどめが刺せた。


「もう魔法は撃たせない! 『裂光剣』」


 すさまじい光をまとった亜里沙の剣がケイオスソーサラーを切り裂き、とどめにラファエルの闇魔法が貫く。


「異形なるものよ、地に帰れ。『神罰のつるぎ』」


 ヘンリーが強力な薙ぎ払い攻撃でラ・アディン達に攻撃。残ったのはデュアルセイバー一体だけだ。

 最後のあがきとばかりに、リンメイにジャンプ攻撃を仕掛けてきた。


 回避できないリンメイは闘気を使って防御力をさらに高め、受けたダメージをドドメスに転嫁させる。


「相変わらずワシは損な役回りだな」


 ドドメスがぼやきながら回復魔法を唱えているのに笑いが漏れる。


 俺とヘンリーの攻撃で、デュアルセイバーも消滅した。


 即死攻撃なんかしてくる敵が出てきてどうなるかと思ったけれど、今回の戦闘は比較的楽に勝つことができたな。

 もう戦いの終盤と考えれば遅いのかもしれないが、最終局面の前に連携が取れるようになってよかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る