File02 うごめくもの
ヴァンパイアって本当にいたのか
京都南部の村の近くにあるダンジョン探索からマンションの自室に戻って、俺は疲れた体をベッドに横たえていた。
今までの探索とは違う何かを感じつつ、もう俺の手を離れた調査だから考えることはない、と思っていた。
いつの間にか眠ってた俺を起こしたのは、電話の着信音だ。
反射的に体を起こしてスマホを取る。
『
若い女性の声だ。
「……そちらは?」
『内閣調査室ダンジョン課の
聖と言われてすぐに思い浮かんだのは一緒に戦ったセーラー服の女の子だが、声が違う。
母親かとすぐに納得した。
「あぁ、はい。黒崎です」
『今日は娘が大変お世話になりまして、ありがとうございます』
とても感謝しているのが伝わってくる声だが、こんなことをいうためにかけてきたんじゃないだろうな。
『ところで、黒崎さんに一つお願いがあるのです』
ほらきた。
『今日の探索の事は、できる限り人に話さないでいただきたいのです』
もっと無理難題を言われるのかと思ってたが、少し安心した。
『村から忽然と人が消えてしまった、さらに遠足の児童まで、などということが世間に広がると不安をあおりますし、特に宗教やオカルト関係の組織が騒ぎ立てると厄介なことになりますので』
そうだろうなぁ。
俺は了承の返事をして、しかし思い出した。
「今回の件は会社から命じられての調査なので、中谷副社長には経緯を報告してますが」
『はい。中谷様なら大丈夫です』
なにが大丈夫なんだろう。話がいって大丈夫って意味ならいいけど、まさか「大丈夫です、口封じくらいできます」だったら怖すぎるな。
『それでは、よろしくお願いします』
相槌をうって電話を切った。
思っていた以上にヤバい案件なのかな。
そう思うと、なんだか見られているような視線を感じてしまうのは我ながら単純だ。
気分転換に飯でも買ってこよう。
財布を掴んで近所のコンビニに向かった。
日が落ちて、でもまだ少しだけ太陽の光が残っている空に、何か気配を感じた。
これは思い込みなんかじゃない。
イクスペラーになる前から、こういう気配には敏感にならざるを得ない育ち方をしてきたんだから。
気づかないふりで歩きながら気配の元を探す。上の方だ。……俺のマンションの方角だな。
ちらりと屋上の方に視線を投げる。
ぽつんと、影がひとつ。
早速カルト集団とかが動き始めたのか?
話さないようにとは言われてるけど、自分を監視してるものの正体を確かめるなとは言われてない。
部屋に戻ってテーブルの上に弁当を置いて、玄関まで行く。
「何者も俺を見つけること
聖にも説明したがスキルは声に出した方がより強力になる。発動前に頭の中でスキルの効果をイメージしながら関連する言葉を口にするとさらにパワーアップだ。
中二病っぽいが、仕方ない。
気配を完全に殺した俺は足音を忍ばせて屋上に向かった。
屋上にいるのは、大柄な男だ。
ほんとデカいな。二メートル近くあるんじゃないか?
黒い服に身を包んで夜に紛れているかのようだけど、それにしては銀髪が鮮やかだ。短髪なのにやたら目立つ。
俺の気配を探してるのか、首をゆっくりと左右に動かしている。
ナイフを抜いて後ろに隠し持ち、声をかける。
「俺に何の用だ」
びくっと背中が大きくはねる。マジでビビったみたいだな。その様がちょっとおかしくて、笑いが込み上げてくる。
「やるじゃないか、私の背後を取るとはね」
振り向いた大柄の男の目が、赤く光る。にやりと笑う口から鋭い牙が覗いている。肌は白いを通り越して青白い。生気が抜けたような色だ。
こいつ、ヴァンパイア……?
話に聞いたことはあるけど、本当にいたんだ。
「せっかく会えたのだ。まずは話をしようではないか」
ヴァンパイアは俺の右手を見る。背中で構えているのに気づいたのか。
「人の部屋を覗く変質者と何を話すっていうんだ」
言いながら、ナイフを鞘に戻す。
今こいつと事を構えるのは得策じゃないと感じたから。
「気に障ったなら失礼した。どう声をかけようかとここで考えていたのでね」
いけしゃあしゃあと、よく言うな。
「で、俺に何の用だ。ずっと近くで見張られたらイラつくんだよ。さっさと話を済ませて消えてくれ」
「今日、君が探索したダンジョンについてだ。何か発見したのがあるのかな?」
「ダンジョン? そんなもの知らないなぁ」
すっとぼけて肩をすくめた。
もっと粘ってくるかと思ってたけど、男は「そうですか」と同じように肩をすくめた。
「次にお会いする時には話していただけると嬉しいです」
丁寧に腰を折って礼をして、男はふっと消えた。
俺がすんなり話すとは思ってなかったんだろうけど、それにしてもあっさりしてるな。
まずは顔見せって感じ?
あんなのに付きまとわれたらめちゃくちゃ目障りなんだが。
きっと今日はもう来ないだろう。来ないでくれ。
俺は部屋に戻った。
せっかく温めてもらった弁当が覚めてて、がっかりだ。
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