あとは組織の偉い人達で
衝撃が加わり、後ろへ吹き飛ばされる。
壁に背中をぶつけ、肺から空気が押し出された。
すぐに動こうとしたが、動けない。
体に蜘蛛の糸らしきものがべったりとくっついていて壁にはりつけにされている。
蜘蛛と目が合った。
まずい。
ラッキーなのは右手が動くこと。武器を手放してなかったこと。
けれど不利なことに変わりはない。
蜘蛛が食らいついてきた。
右手のナイフで牙を受け止める。
「黒崎くん!」
聖が悲鳴をあげる。蜘蛛の力が一瞬弱まったが、まずは俺を仕留めようとでも思ったのか、すぐに重い力が加わる。
聖がなんとか糸から抜け出そうとしているみたいだが、思うようにいかないっぽい。
さらに蜘蛛の牙が体に迫る。
助けが入るまでなんとか持ちこたえないと。
蜘蛛が、ふいに頭を軽く振った。
牙が右手にかすって皮膚が切れる。
激痛に襲われた。毒か。
食いしばった歯からうめき声が漏れる。
さらに、牙が胸に迫る。
「だめぇぇぇえっ!」
聖の絶叫。バイタルメーターで見なくても判る「気」の高まり。
糸を抜け出した彼女が頭の方に回り込んでくる。
「弱点……、目の、……真ん中」
「りょーかい!」
聖が跳びあがった。剣を両手でしっかりと持って、上空から蜘蛛の頭めがけて刃を振り下ろす。
……本当に見えないようになってんだな。
彼女が蜘蛛に致命の一撃を与える時、痛みでぼうっとなった頭でそんなことを考えていた。
蜘蛛が息絶えて、聖はすぐに俺の体に絡まった糸をはがしてくれた。
「黒崎くん、大丈夫?」
「なんとか……。助かった。ありがとう」
礼を言いながらHPポーションを体にかける。毒消しも使うと頭の中がクリアになってきた。
聖のバイタルをみてみる。
HPは半分弱。MPは半分ちょい。闘気が空だ。やっぱりあの時ありったけの闘気を使ったんだな。おかげで助かったわけだが。
「黒崎くん、あれ!」
聖が部屋の奥を指さしている。
見ると、床の一部が丸く光っている。
ワープゲート? ダンジョンのさらに奥に続いているのか。
「奥に続いているんだよね。休んだら、行ってみよう」
聖はさらに進む気満々だが。
「いや、駄目だ。俺らはここで引き揚げてそれぞれの組織に報告しよう」
「どうしてっ? まだ子供達や村の人達も見つけてないのに」
「だからだよ。今の俺らの装備や実力じゃ、ここが限界だ。早く引き返して助けを呼ぶ方がいい」
「そんな……」
聖がうるうるとした目で俺を見てくる。
いくら誘惑の視線で見たって、ここは譲れない。
俺はこっそり闘気を使って
このまま先に進んで、もっと強い敵が出てきて俺らがやられてしまうことだってある。そこまでいかなくても途中まで行ってやっぱり手がかりなしでしたって引き返してから応援を呼ぶより、今引き返して応援を呼んだ方がいい。ここから先は、もっと強い人達に任せた方がいい。
聖にそう説明した。
「うん、わかった。そうだね。わたしはまだ駆け出しもいいところだもんね」
しょんぼりする聖だが、納得はしてくれた。
二人で、元来た道をたどってダンジョンの外に出る。
もう太陽は南中を越えていた。そんなに長くもぐってた感覚はないが、それなりに時間は経っているな。
「連絡先、交換しておこうか。どっちかが村の人や子供達がどうなったのか知ったら教えられるように」
提案すると、聖はこくんとうなずいた。
スマホの通信アプリのIDを登録する。
「みんな無事に見つかるといいね」
「そうだな」
うなずきながら、きっと無事に戻ってくるのは難しいだろうな、と思う。
あの、ダンジョンの中へ中へと誘う声は、まだ聞こえている。
俺らみたいな異能を手に入れた者は抵抗できるが、きっと一般人は無理だろう。どんどん奥へと進んで行ってしまってるに違いない。
魔物と出会ってやられるかもしれないし、うまくすり抜けて呼び声の主のところまでたどり着いたとしても、そいつの目的によっては殺される。
けれどこんな悪い予想は聖に聞かせない方がいい。
「それじゃ、また会うこともあるかもな」
「うん。今日はありがとう」
軽く手を振って、別れる。
バイクに乗る前に中谷副社長に探索の結果を知らせて、できれば捜索隊を組織してこっちによこしてほしいと伝えた。
『ごくろうさん。直帰してくれていいよ』
めちゃくちゃ疲労感あるからありがたい。
あとは組織のお偉い人達が何等かの結論を出すだろう。
不可解なことはあったけれど、このダンジョンに関する調査は終わりだ。
この時は、本当にそう思ってた……。
(File01 いざなう声 了)
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