世界意思との対話

 炎は魔物と、ローラーをも巻き込んで絡みつく。ガンナーが一体、行動不能になったみたいだ。他にもかなりダメージが入っている。


 同時に、リンメイの魔法詠唱の声が聞こえてきて、俺と仲間を隔てているローラーが派手な音をたててぶっ壊れた。


「くろちゃきー! 褒めてー!」

「あぁ、サンキュ。ほんと助かった」

「後でほっぺにチューアルよ」

「おまえそれ好きだな」


 思わずがくっと拍子抜けだ。


「あ、章彦くん、危ないっ」


 亜里沙の声に我に返ると、アディンが一体、いつの間にか俺の側に来ていてブレードを振り上げていた。


 あ、これ、まずい。

 回避を試みたが時すでに遅し。

 ざっくり斬られて、足から力が抜ける。


「きゃあ! 章彦くんっ」


 亜里沙の声を遠くに聞きながら、意識が遠のいていった。


『おまえは、この力で世界を救うというのか』


 あの世界意思の声がする。


「そのつもりだ」

『破壊ののちの再生ではなく、破壊せず救うというのだな』

「今生きている俺らにだって、抗う権利はあるはずだ」

『できるというのか?』

「判らない。けれど、できる限りの手は尽くす。俺だけじゃない。俺の仲間達も」


 しばしの静寂。


『ならば、おまえに力を託そう』


 世界意思の声が、少しだけ柔らかくなったような気がする。


 ふっと意識が戻る。

 そばに落ちている短剣を手に取って立ち上がる。

 戦況を理解すべく周りを見回した。


 リンメイがそばにいる。俺を回復してくれたんだな。

 魔物達は俺らよりも入ってきたドアの方に移動している。俺が倒れたから他のメンツに向かったんだな。アディンとガンナーが残り一体、マジシャンが、入口で一人残ってた美坂さんのそばで魔法を詠唱している。


 まずいっ、と思ったら、ラファエルが『魔法阻害』のスキルを発動させてマジシャンの攻撃魔法を打ち消した。おぉっ、やるなっ。


 亜里沙とヘンリーがアディン達にとどめを刺す。

 なら俺は、残ったマジシャンに向かうか。


「崩壊の先の救いを、『崩壊の赤眼』」


 スキルを発動する。頭痛は相変わらずだが世界意思の声はない。俺を力の持ち主として認めてくれたってことか。だったらこの頭が割れる錯覚を起こすほどの頭痛も止めてくれればいいのに。


 弱点が、今までよりはっきりと見える。

 走り寄って短剣を突き出すと、追加でMPを消費しなくても刃が弱点に吸い寄せられていく感覚がする。

 ざっくりと急所に短剣が突き刺さると、敵はあっさりと絶命し、消滅する。


「章彦くん、すごいね。これがパワーアップの訓練の効果なの?」

「多分な」


 すぐにパワーアップしなかったのは、俺が死の淵に近づいて世界結界と意思疎通しなければならなかったから、なのかな。

 何にしても、大幅に能力が上がったのに違いない。


「それにしても、我々がローラー発生のスイッチを踏んでいないのになぜ出てきたのでしょう?」


 ヘンリーが小首をかしげてる。


 多分、奥の方にもう一つスイッチがあって魔物が踏んだんだろう。

 あたりをつけて調べに行くと、やっぱりあった。


 ほんと、このエリアに入ってから罠がより凶悪になってるよな。


 大部屋を抜けると、ちょっと前に戦った守護者の亡骸があちこちに転がっている、ちょっと広めの部屋だった。

 ここでも、内外からの侵入者を追い返すために戦っていたのか。


 パワードスーツ達の残骸を調べると、いくつか使えそうな武器、防具があった。墓荒らしみたいでちょっと申し訳ないけど、使える物は使わせてもらうよ。


 亜里沙が、エネルギーフィールドを発生させる盾を手に入れて、俺も爪タイプの武器をもらった。サブウェポンで銃は持ってるけれど直接攻撃の武器に予備はほしい。


 邪神のことは俺らがどうにかするから、せめて安らかに眠ってくれ。

 心の中で祈りをささげて、先に向かう。


 部屋の奥は、今までより大きな扉だ。

 いよいよエリアボスとの戦闘か。

 気を引き締めて、扉を開けた。

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