第60話建国祭3日目 4 夜明け前

かつてこのラスクロという国には神が居たという


そしてその神は民に慕われていたという




王?




そうではない神だ



偶像的なものと捉えて間違いが無い


誰もの精神に住まう神



それがただ、この世界に普通に現れただけのこと


その神はまるで人間の王の様に統治を始めた


初めの数百年はそれこそ神らしく、また善良に


いつの間にかこの国の人々は神なしでは暮らせなくなった頃、神は消えた


居なくなった神の代わりに統治を始めたのが議会と呼ばれる組織だ


表には現れなかったが、それまでの穏やかな日々とは裏腹につまらない日々が訪れ


王政に移行


その頃からだんだんと人々は他の国に移り住み始めてしまう


緩やかな


緩やかな滅びが始まっていたのだった


それを何とかしようとした者ですら国を出た


残った者は、良いように民を操った


ボロ雑巾が投げ捨てられたかのように、そこにはかつてこの国を裏から動かしていた一人が転がっていた






真っ白になった髪の毛とは裏腹にまだ顔は若い。なんとなく苦労が伺える顔をしている

超武闘派とのことだったがその面影や雰囲気はなかった


「んであんたこんなとこで何やってるんだ?」


カンザキは男の拘束を若干緩めてやる


「ぐはっ、はっ、はっ!い、一体何が!?」


状況を理解できないのかきょろきょろしている


「たしか、賊が入り込んだと聞いて討伐に向かったハズなんだが・・おい、なぜ俺は拘束されているんだ?」


動かない両手両足をバタバタさせながら訴えかけてくる


「あー。その賊は私たちなんだけど、じいちゃん軽く殴ったら一発で気絶しちゃうんだもん」


キャサリンがケラケラと指さしながら言う


「こら、指さしちゃダメだろ」


「でもさーカンザキ、こいついきなり攻撃してきたんだぜーしかたなくか弱い私は反撃したのさっ」


人類最強の女が何を言ってるんだ・・・


「か弱いという意見には賛成しかねるが、そうか。サリニさんだっけ?あんたが先に手を出したみたいだな。本来であればこの時点でタコ殴り決定なわけだけど今は急いでいるんで許してやる。あんたらのボスはどこにいるんだ?」


「ふんこの私をサリニと知っての狼藉か。この程度の拘束など私には効かんよ」


そういって力を籠めるが・・・・


「ふんっ!ふんっ!・・?あれ?・・・ふんっ!?!ふふふん!?」


ビクリともしない鎖を一生懸命振りちぎろうとするもチャリチャリと音を鳴らすだけだ


「猫印の神をも縛る鎖試作品だ。なかなかちぎれないとおもうぞー?とりあえずほっといて先に進むかどうせその先にあるでかい扉の向こう側にでもいるだろ」



サリニを放置して進む

後ろから助けてくれーと声が聞こえるが聞こえないふりでやりすごしてやる


「ヴァネッサ、この先にいると思ったらいいか?」


「そのはずだけどね。でもサリニ会長を子供扱いするなんて・・・」


すごいわね・・と言おうとして止める

きっとこの二人には何を言っても無駄だと思ったから

おそらくヴァネッサは傍観者にしかなりえないと思っている

だがそれはキャサリンが許さない。

むしろヴァネッサはこれから渦中に巻き込まれていくのだから



広く暗い廊下を走り抜ける

天井は高く空は見えない

空気の流れはなく閉鎖された空間であると予想される


巨大な扉の前に立つ


「おりゃあああああああああああああああああああああ!」


キャサリンが思い切り扉を殴りつけた!瞬間、防壁の魔法波紋が見えるも即時に魔法壁をすべて破壊

そのまま扉を文字通り殴り飛ばした


ガァン・・・


扉が勢いよく飛びー


消滅した


そこに立っているのは一人の少年

だが見た目通りの年ではない事は即座に理解する


「乱暴だなぁ・・・あれ?ヴァネッサ生きてたんだ?」


そういってその少年はヴァネッサを見る


「ラッキーだよね。トール呼び出したら普通死んじゃうんだけど」


その少年の一言にカンザキは一瞬で「キレ」た


ガリリッ


魔石を喰らう音



カンザキの魔力が膨れ上がり一瞬にしてその少年との距離を詰める


バリンッ


魔法壁の破れる音だ


「おい、いい加減にしろよ。人の命を弄ぶなんて神だってやっちゃいけねぇんだ」


少年の目が驚いたように見開く


「うっそ、280枚の魔法壁を一瞬で破れちゃうの?そっか、トールを還したのもあんたか・・・」


目をうっすら細めて


「僕を神だって?そんな事だれにも言ったことがなかったんだけどな・・そうか、君は、ほかの神に会ったことがあるんだね」


「話を聞けよ・・・・」


カンザキはギリギリと拳を握りしめる


「1000年前ならいざしらず、珍しいね君?誰と会ったんだい?えーっとニュクス?あ、もしかしてクロノスの奴?でもあいつらと僕を一緒にしちゃうあたりが人間って安易だよ。ダメだよ君!」


指を一本立ててフリフリとジェスチャーする少年


「君の名を聞いてやってもいい。名乗れよ」


そう少年は凄む


カンザキは怒りを鎮め・・・ようと深呼吸をする


「カンザキ・・だ」


「へぇ変わった名前だね。カンザキ君か。それで何の用かな?」


「なぜ神のお前がこんな所にいる」


「暇つぶし」


「何をしている」


「暇つぶし」


「今すぐ帰る気は無いか?」


「ないね」



キャサリンはそのやり取りを眺めて・・・動き出す

でなければカンザキはあの少年を殺してしまうかもしれないと思ったからだ



「ちょーっとごめんカンザキ!避けてくんない?」


カンザキが振り向くと同時にキャサリンは横をすり抜けて少年をー


殴りつけた


ギンっ!とまだ残っていた魔法障壁がキャサリンの拳を阻む


だが止まらない


キャサリンの背中に12の魔法陣が輝く

鎧は金色に輝き燃える


「へぇ、勇者か!」


少年は嬉しそうに笑って左手を上げた


バリリリンと障壁の割れた音が響く


キャサリンの背中の魔法陣がすべて一瞬で砕け散りそしてそのまま膝をつく

あぶないっ!

ふらりと倒れるキャサリンを支える


「だ、大丈夫だよ・・カンザキ」


「いや、なかなかよく育ってるね!今のは危なかったよ」


なにが危なかった・・だ

キャサリンの奥の手を一瞬で打ち砕いたその左手には傷ひとつ見当たらない


「でも僕は魔族じゃないからね。勇者の魔族特効は意味がないよ」


ニヤリと少年は笑った


そしてニヤリとキャサリンも笑ったー



「この・・やろう!」


カンザキは腰の剣を抜く


かつてダンジョンで拾っただけの剣


錆びてはいない


その頑丈な刀身と、切味が良いのが魅力の一般的な剣


だがその本質をカンザキは見抜いていた


「変われ!」


そうカンザキが言うとばりんと刀身を覆っていた鞘が割れる

ただのひろった剣


うそはついちゃいない


ちょっと小高い丘に刺さっていただけの剣だ


だから有効活用させてもらっているだけだ


その封印を解く



「なんだ、王の選別剣じゃないか。どこで見つけてきたんだこんなの」


そういって少年は剣をつかもうと手を伸ばした


カンザキは


「召しませ、剣よ」


カンザキの召喚魔法ー


「天之尾羽張、天叢雲剣、布都御霊」


カンザキの周りに三本の剣が現れる


「なにを・・・?」

少年はその浮かび上がった剣を見るが、わからないのか反応は薄い


「知らないのか?この剣は知っているのに・・・」


「これは十束剣・・・神殺しの剣だ」


そう言って持っていた剣ががその少年の結界を切り裂く


その剣はは地面に突き立て、今度は浮かんだ三本の剣を掴む



「神は神の国に帰れよ」


「ちっ!」


意味を理解した少年は逃げようと転移魔法を起動する


逃がさないーそういって一振りすると少年は跡形もなく消え去った

だがカンザキは知っている。今の一瞬で逃げたと


だが追う必要はない。そう思った時だった




「まだだね!」


真後ろから声がした


「キャサリン!?」


そこには背中に黒い羽を生やしたキャサリンが立っている黄金の鎧を着こんだ天使の様だ

堕天しちゃってるけど


「人間なめんじゃねぇ!」


そういってキャサリンは虚空を殴りつけた


ビキビキと空間にヒビが入り・・・


バリン・・・


空間が割れて


右のほほにキャサリンの拳がヒットした少年が現れてそのまま崩れ落ちたのだった・・・


「な・・ぜ・・・」


「ふんっ!私に不可能はない!」


胸を張る


「ちょ・・一体なにが!?」


「わしじゃー・・・わしじゃよー」


「ん?」


「ちょっとキャサリンに頼まれての、力を貸してやった」


そういってキャサリンの後ろから出てきたのは


「むーたん!?」


「面白そうなことしとるからのー。ついな」


少年がむーたんを見るために首を上げる


「ま・・まさか……星獣だと・・」


「悪さしたらいかんよ、坊主」


そうむーたんが言うなり少年は気を失ったのだった



----------



時間切れなんで帰るわー


そういってむーたんは消えた

おそらくウルグインに帰ったのだろう


「あ・・・あっけなさすぎる」


ヴァネッサが呟く


そしてキャサリンがヴァネッサに歩み寄り、耳を貸せとヒソヒソ話を始めた


どーすんだこれ・・・


足元に転がるは少年神

名前すらまだ聞いていないが想像はつく


とびらの向こうからイモ虫の様にズリズリとサリニが這いずってくるのが見える


「そんなバァカナ!ラスクロ様!負けるはずがない!ラスクロさまあっ!」


やはりー。この国の神ー。その名を持って神に成った少年


神は等しく神である


この世界の法則である

上下はなくただ平等


それがこの世界での神


その神を倒したキャサリンは神以上の存在と成り、神の持つ権限は倒したキャサリンに引き継がれる


だが権限など必要無かったカンザキは見逃すつもりだったのだが、それを知らずかキャサリンは倒してしまった


「どうなるんだこれ」


カンザキはこれから先の事を考えると不安しか残らない


こうなればいち早くウルグインに帰って店をやりたくなってくる

もうラスクロが産まれたこの国のダンジョンには興味は失せていた





「さぁて、カンザキ。建国祭だよ、帰ろう?」



全てが片付き、ラスクロという国そのものを文字通り手に入れたキャサリンがカンザキに微笑む



「早く帰って店開けたいよ」



「そだね、帰ったら店開けるといいよ」



ちょっとだけキャサリンが優しく感じる



ーま、あと1日しかないけどねー




「ん?なんだキャサリン」




「何でもない。」




建国祭最終日がー国の始まりの祭りがカンザキを迎える








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