第101話世界樹の天使3
「ところでお前さん、転生前ってどんな人間だったんだ?」
休憩を終わり、再び奥に向かって歩き始めてしばらくした時だった
これに深い意味はない。少しだけ気になったので聞いてみる
ちゃんとした返答があるとは思えなかったが、意外にもアリアは素直に話し始めた
「私ね、こことは違う世界にいたの。そこの、日本って国で暮らしてたわ」
「ぶはっ」
いきなり母国の名が出て噴き出すカンザキ
「どうしたのよ?こことは違って、かなり文明の発達した世界だったのよ」
「へぇ・・・」
知ってる・・とはまだ言わないでおこう
というか俺が日本人だと気づかないのか?
まぁいいか、話の腰を折りそうだしな
「そこで私、生まれて17まで育った時にね、死んじゃったの」
簡単に話を済ませようとするアリア
カンザキも深くは聞かないでおく
「で・・・この世界で生まれた・・・か」
「そう。だから本当はもう40くらいなのよ。だから本当はオバサンだわ・・・まぁ今のこの体はまだ22だけどね」
そう言って肌をさする
ただ、肉体に精神が合っているのだろう年を重ねた感じはしない
「女神っつってたな」
「ええ、女神に転生させてもらったって感じかな。その時にいろいろ才能(スキル)を貰ったのよ」
だから彼女は、そのスキルに頼っていたことでー
「強くなるチャンスを逃した・・・か」
別の見方をすれば、だがその才能(スキル)はリミッターなのかもしれないとカンザキは思っている
「どういう意味?」
「いやなに、きっと相当便利なんだろうなそのスキルは」
「そうね・・・剣術や魔法・・・身体強化・・思考加速・・いろいろあるわ」
だが裏を返せば、それ以上にはならないということで
限界を超えるなんてことはまずないことだろう
「俺はな、以前こことは別の世界にいたんだ」
アリアはドキっとする
それは、カンザキが同じ境遇なのではないかと思ったからだ
「剣と魔法と・・・魔王の支配する世界だった」
「え?」
アテが外れたといわんばかりの呆け声が出た
「そこにはレベルっていう概念があって、それが向上することで身体能力も上がったり、強い魔法が使えたりしたのさ」
「まるでゲームみたい」
クスリと笑う
しかしカンザキは続ける
「そうだな、ゲームだったんだろうよ・・・でもそこに生きてた人はゲームの登場人物なんかじゃなかったし、まして死んだら生き返るなんて事もなかったけどな」
カンザキの顔が真剣なことに気づいたアリアは、思わず黙り込んだ
「で、俺はその、勇者ってやつじゃなかったんだが魔王を倒すためのパーティーに身を寄せていてな。レベルを上げて強くなった俺たちはなんとか魔王を倒したのさ」
アリアは今の自分の置かれている状況を・・カンザキが例えて話しているのだろうかと思った
「んで、魔王を倒した後に俺は「日本」に帰れると思った」
え・・・・
日本・・・・カンザキさんも?
「だけど現実は違った。この世界に放り出されてたのさ」
「ちょっと待って、なら貴方は元から・・・」
「日本人だな。お前さんのいた世界と同じかはわからんけどな」
それは並行世界とかの事を言っているのだろうか?
「西暦は?!何年だったの?」
「この世界に来る前か?確か、201Xとかだったかな・・・」
同じだー
アリアは其れだけで気づいた
「そ、それであなたは・・・・どうしたの?」
「帰ろうとして、帰れなかったから帰るのをあきらめた。そんで、この世界を楽しもうと思った。そしたらいつの間にか強くなってたみたいでな・・・」
アリアが胸のあたりがギュっと傷んで、胸に手をやる
アリアは転生したことによるかもしれない・・・もう、はじめから帰ろうなんて思ってなかったはずなのに望郷の念に駆られる
日本の父は、母は元気にしているだろうかと
しかし、カンザキは死んでこの世界に来た訳では無い
だからこそ、まだ地続きで、日本の記憶が鮮明にまだあるのだと思った
なのに、諦めるなんてー
「そうなったらなったでな・・・その結果、帰れる事に気が付いた。だけど今まだ俺は日本に帰らずにこの世界で楽しんでいる」
帰れるー?日本に?
「それは、なぜ?帰らないの!?諦めたって、それは帰れなかったからでしょう?帰れるなら帰れば良かったんじゃないの!!」
アリアの胸の鼓動が早まる
本当に帰れるのなら、帰って両親に報告したいー私は元気でやってるから心配しないでと
しかしカンザキの答えは意外で、当たり前の事だった
「外を・・・見てみろよ」
気づけば、話し込んで歩いているうちにいつの間にかかなり進んでいたらしい、壁の、樹の隙間から外が見える
そこは雲海だった
雲に覆われた大地の奥で、大きな樹がいくつもにょきにょきと頭を出している
それは満天の星空で夜だということが分かるのに、星の明かりでやけに明るい
それはまさに幻想的な風景だった
異世界にきて、ウルグインで暮らしていてなお異世界だと感じるほどに
「綺麗・・・・」
アリアから出た感想はそれだけだったが、それ以上にもう言葉が見つからなかったからだ
きっと宇宙からみた地球もこんななのだろうかと思う
「まだ見ぬ世界がここにはある。それだけでも、残る価値があると思わないか?」
確かに、日本では、いいえ地球では既に誰がが見つけたどり着いた秘境は数少なくなっているだろうし、それでもかつての貧弱な体では自身はたどり着けない秘境だろう
「ええ、そうね」
「この見える全て樹はな、世界樹だ」
「じゃあ、今いる此処は?」
「世界樹のまあ、親玉みたいなもんだ。だがただの親玉じゃねぇ、子供が世界樹ってだけでこいつはそうだな。星樹・・・いや、宇宙樹とでも言うか・・・違うな、なんだろうな」
「ふふ、分からないの?でもダンジョンにこんな美しいところがあったなんて・・・いいえ、繋がっていた?」
その不思議で、綺麗な眼下に広がる光景をアリアは目に焼き付けておこうと思った
その時だった
「カァアアアアアアアアアアアアアアアンザキィーーーーー!」
大きな声がして、そしてそれは横に居るカンザキの名前だ
叫ぶ声はだんだんと近づいてくるのだが、左右を見回しても声の主はいないのに、ただその声だけは大きく近づいてくる
「上だ」
カンザキの声につられて上を見るアリアー
そこに居たのは背中に二枚の羽をもつ、一人の少年だった
ガァアアアアアアアアン!
少年がその背に背負った剣を振り下ろしカンザキが素手で受け止める
素手で受け止めたにしてはえらく派手な音が鳴り響くが、きっと手のひらの部分にも鉄鋼のある手袋をしているのだろうと思う
「なんだよカンザキ!また来たのか!?遊んでくか?ウチよってくか?」
「ああいや、今日はちと案内できたんだが」
そう言ってチラリとアリアを見る
少年もアリアを見て
「おお!新しい人間か、私はエミリオという!この世界で最後の生き残りだ!」
少年の言っている意味は分からなかったが、自己紹介をされたことは分かったので
「私の名前はアリアと言います。よろしくお願いします」
そう言って頭を下げておいた
するとエミリオはえらくアリアを気に入って
「良い娘だな!ようし、じゃあウチだな!ウチに行こう!歓迎してやる!」
そう言ってその背の羽をバサリと大きく広げた
カンザキが、おい待てと叫んだがー
一瞬で周りの景色が変わった
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