第72話焼肉GOD 前話 竜の里

ー私は人が好きだ。だって優しいから



ー私は人が嫌いだ。だって嘘をつくから



ー私は竜が好きだ。だって空を飛べるから



ー私は竜が嫌いだ。だって火を・・炎を吹くから・・・




ー私は炎が嫌いだ。大切な人も物も里も全てを炎が消してしまうから・・・・


ー私は・・みんなが大好きだ





世界の北の最果て


グラニア山脈の麓にはノースロイアの街がある

この町では鉄産業が盛んだ


理由としてはいくつかあるが、街にほど近い鉱山にて鉄も炭も取れること

また、ここでは長らく戦争をしていた事が上げられる


ひと昔前まで、人と竜が仲良くしていた時代があった


その折に北の山脈を超えてくる魔族と戦いになっていた


その終止符を打ったのが人化が出来、さらには人とともに歩みたいと願った一匹の竜がグラニア山脈に住み着き、人の街の壁として立ちふさがった


人々も竜だけに任せておいたわけではない

元々人の住まう地だったのだ

結果、鉄製の武器が非常に活躍をしたのだ


「それらがあって、今でもこの街は鉄産業が盛んなのだよ?」


「へぇ・・そうなんだなー歴史ってあるもんなんだな」


「当り前じゃないか!この街の歴史を語るうえで非常に重要な事だ!よし、じゃあ今度はなぜその竜が人を助けたかと言う話をしようじゃないか」


「いや、それはいいや。間に合ってる」


カンザキは若干うんざりしたような仕草で遠慮する

今日はこの街に焼肉に使う鉄板を作りに来ているのだが


この街の鉄製品の噂を聞き、カンザキはこの街に訪れた

どこか工場か工房でもないかと探していたところ初老の男性に声をかけられて

それならば良い工房を知っていると連れてこられたのがこの工房である


「アンの工房」


その腕は確かで、カンザキが希望したものをいとも簡単に形にしてくれた

だが、微細な部分や実際使ってみないとわからない部分などもあるため、しばらく滞在して試行錯誤しているのだ


毎日のようにその初老の男性はやってきて、カンザキにあれやこれやと話をする

さして問題はないのだが、それが少々長いものだからちょっとばかり疲れてきているのも事実だった


「年長者の言うことは聞いておいてそんはないぞぉ?」


白い髪と短く切り整えられた髭を持つ男性の名前はアーガスと言った


「いや、面白いよ?面白い話なんだけどさーなんか自慢話ばっかに聞こえるもんで」


「んなっ!そ、そ、そんな事はないぞ?」


「あはははは、カンザキさんよ、アーガスの爺さんの話は長いからな、分かるよ」


そう言うのは工房の親方だ


「グラ!てめぇ!」


「ほらほらじいさん、茶入れたから一息入れな」


そういって親方のグラはお茶が入ったカップを二つ置いた

一つはカンザキの分らしい


「すまないな、ありがとう」


「いいってことよ。お得意さんになってくれたら言うことないんだけどな!」


「ああ、それは願ったり叶ったりだ。俺の言うものをここまで綺麗に作ってくれるんだ。追加が必要だったり壊れたりしたらアンタに頼むよ」


「ああ、よろしく頼むぞ」


カンザキはウルグインの街に既に店舗は手に入れている

その場所は偶然出会ったキャサリンの紹介だ

隣にはダンジョンで出会ったキャサリンが店を開店するという

これも何かの縁と、カンザキもそこに決める

まぁ惚れていたからというのもあるのだけれど


今は店で使う為のいろいろな物をそろえているところだ

日本人らしく、こだわって


「そういえばカンザキ、あんたどこで寝泊まりしているんだ?」


アーガスが立派な髭を触りながら言った


「ああ、俺は町はずれの森に小屋を建ててそこで寝泊まりしているよ」


「!?自分で建てたのか?」


親方が驚いて作業の手を止める


「ああ、それ位のことはしないとな・・・それに自分好みに出来るほうが住みやすいだろ」


そうは言うものの、カンザキはわずか数週間のために小屋を建てた事になる

しかも一人でだ

カンザキは田舎育ちだったせいか静寂を好む


一度宿屋に泊まったが、案外うるさかったので自分で建てるようになってしまった

実際は魔法の袋に突っ込んでいたのを出して手直ししてるだけなので簡単だったりもするのだが


「器用だとは思っていたが・・・そこまでだとはな」


ここ数日カンザキは親方の手伝いをちょこちょことしていたのだが、それだけで結構鉄の扱いに慣れてきている。それを親方は感心していたのだ


「まぁ、冒険者やってたからな。それぐらいはできるようになったのさ」


「なるほどなぁ・・」


で、アーガスはなぜそんなことを聞いたのかというと


「なんだ、宿屋に泊まってないのか。まぁいいか、今夜酒場にでも飲みにいかないか?街はずれったってそう遠くないんだろう?」


確かに近い・・

まぁ飲みに行くだけならいいか


「ああ、いいぜ。どうせ暇しているからな」


そうして二人は飲みに行く約束をする

親方も来るか?と聞いてみたが、新婚らしく帰らないと怒られるそうだ

早くも尻にひかれているようだ


この街には鉄の他、酒も名産品に名を連ねている

山が近いため水がうまいのだそうだ


それが目当てで酒造蔵がいくつかできている

そして海も近いので魚介類も豊富だ


あとは温泉があれば完璧なんだが、探してみたけれどさすがにそこまでは都合よく無かった

それがあればカンザキはこの街に住んでいたかもしれないと思う

まぁ今はウルグインの街に帰る理由(キャサリンがいる)があるので、それはないなと思い直す


夜になると街は人々がオイルによる街頭を灯して回る


油のにおいがほんのわずかに匂う

それが風情があって、なんとも心地よい


その明かりが集う所にこの街の酒場は集まっている


もちろん飲食店も立ち並んでいるし、この街では刺身なども食べれる

当然、ここに「醤油」もあってカンザキは大いに舌鼓を打った


酒場にもおつまみはいろいろあるのだが、ロクの実というピーナッツっぽいものとか

サラダとか、刺身とか


ほぼ日本の居酒屋と変わらぬメニューに驚いた

酒はまさかの米からの蒸留酒で、これはウルグインで開く予定の店でも取り扱いたいと思ったのだけど

値段がちょっと張りすぎる

ではこちらのウイスキーににた安酒はどうだろうと、少しばかり飲んでいると


「待たせたかな?」


「いや、待ってないよ。アーガスも何か飲むかい?」


「ああ、同じものをもらおうか」


と、安酒を頼む


「カンザキは冒険者をしていたんだろう?でも店をやるって冒険者家業はもうおしまいか?」


「そうだな、まぁ楽しかったよ、冒険者は。だけど俺にはもうこの世界に行きたい場所はもうあまりないんだ。それよりゆっくりと・・・人と触れ合いながら暮らしたいと思ってね」


「人と・・か。それにあまりないとは凄いな。世界の全てを見てきたかのようじゃないか」


「いやぁ、さすがにすべては見てないさ。ただそれなりにはな」


「なかなかの腕なんだろう?それこそ、竜を倒せる程に」


アーガスの目が鋭くなる


「ああ、そうだな・・・だがまぁ、「知」在るものならばその限りじゃない成るべくなら会話で、言葉で語り合って解決したいと思っている」


「そうだな、それがいいと思う」


「あんたみたいにな」


そうカンザキが言うとアーガスは驚いたと目を見開く


「なんだ、気づいていたのか」


「そりゃまぁな。しかもそこそこ強いやつだろ?」


アーガスは大きな声を出して笑う

テーブルに置かれた安酒をぐいっと飲み干す


「そうか、わしが「そこそこ」強いか!おまえさん、誰に会ったんだ?」


「そうだな、黒い巨竜とか・・?」


「まさか!!あのお方か!?」


「まぁあのお方かどうか知らないが、人を暇つぶしみたいに呼びつけるもんだからぶっとばしてやったら今度は付いてくるとか言うもんで、また今度って逃げ帰ってきた」


「ぶっとばすって・・・・」


アーガスは自分でも知らない間に手に汗をかいていた

あのお方をぶっとばせる・・確かに、それなら自分などはそこそこだと納得する


「いや、世界は広い・・進んでいるのか?お前さんの様な人間が居るなんてな」


「まぁ、そいうのもあってな俺はもう隠居だよ」


「勿体ない・・が、その方が平和だな」


アーガスは結局、カンザキを警戒していたのだ


見張って何かあれば即座に対処するつもりであったが、おそらくは無駄だろう

カンザキが敵意を持って来ればアーガスは負けてしまうのだから


「ま、わしもこれで肩の荷が降りた」


「そりゃぁ良かった。じゃ、改めて乾杯だ」


注がれた安酒が乾杯とともにキラキラとオイルランプの光を反射していた


それは互いに協力体制になったことを意味している



アーガスは酒をくぃっと飲み干すとあることに思い着いた


「そういえば・・・・北の魔族がな、最近大人しいんだがお前さん何かしたか?」



「魔族?いや、心当たりはないな。ココから北には行ってないし」


「そうか、思い過ごしか」


「なんかあるのか?」


「いや、そろそろ魔族の大攻勢があると思ってたんだが・・急に気配がなくなってな」


「へぇいいことじゃん。でもなんか不気味ってか?」


「その通りでな、うーん・・・お前さんならいいか」


「ん?」


アーガスはちょっとだけ考えて言った

それはある意味、ゲームで言えばネタバレとかそう言った類の物だ


「魔族の奴らはな、魔王に呼応してさわぎやがるんだ」


ぶはっ


カンザキは思わず酒を噴出してしまう


「ま、魔王だと」


「ああ、ウルグインのダンジョン、あれのかなり深い階層に魔王が生まれる場所が隔離してあるんだがそこで生まれたのが魔族には分かる様でな・・毎回騒ぎやがるんだ」


「へ、へえ魔王ってなんか危ないんじゃないのか」


「そこらは神がうまくバランスと取ったらしく、勇者も生まれて討伐できるような仕組みになってる」


「お・・・おお」


「どうしたカンザキ?なんだか顔色が悪いが大丈夫か?」


「いや、なんでもない。少し飲み過ぎただけだろ」


「そうか、水でも貰うか」


アーガスはそう言って立ち上がるとカウンターへ水貰いに行く


あー、アイツだろうなあ。

クリムゾンー今代の魔王、まあ、悪さはしないだろう


したらしばくし。

それにしても、神気が強めな竜族だと思っていたがアーガスも世界の裏側の存在か


「ほら、水だ」


「すまん」


「まあ、お前さんの仕業ってわかったからまあいいか」


ぶはっ


「くっ!人が悪いな!」


いや人じゃないか、竜か


「まあいいじゃないか。どうせお前、猫にもなんかしてんだろ?」


「聞いたのか」


「いや、何となくわかるだろ」









その手に持ったボールを放り投げる


砂浜を駆け、打ち返す


まるでビーチバレーの様なゲームにいそしむ子供たち


その向こう側では、砂で何かを作っている子供がいる



「シルメリアー!いくでちー!」


バンッと子気味良い音を立ててボールが飛んでいく


「・・・」


バシッ


無言で打ち返す


そのリレーは数十回に及んだ


シルメリアは子供達と遊んでいる

彼女は人間が好きだった

子供達もシルメリアが好きだ


「きゃあ!」


赤い帽子の女の子が悲鳴を上げる

海辺で遊んでいた女の子だ


「どうしたミオ!」


周りにいた子供達が駆け寄る

シルメリアも心配になって駆けていた


「へ、蛇に噛まれちゃったの」


「だ、大丈夫か!?その蛇はどこ行ったんだよ!」


「こいつか!ころしてやる!」


「痛い・・・腫れて・・き・」


「おいミオ!おい!」


シルメリアは女の子を抱き抱える


急いで、急いで人間のお医者に観せないと!

ミオが死んじゃう!

顔を蒼白に染めて走り出した

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