第71話うさぎさんだよー

キトラは獣人の子


その頭から生えているうさぎのような耳がそれを教えてくれる

愛くるしい顔立ちと、その優しい性格で皆に好かれている


冒険者としてのキトラは、ギルド基準によればSSS級に相当する

だがこれはちょっと前までの話で


テレサとモコ、ミナリの100層への到達が明るみに出てから呼び方そのものが変わり、階層クラスが設けられている

それに当てはめればキトラは300層クラスだ。


これはミナリは除外するとしても、最高峰ランクに位置する



風の弓使いキトラ



その耳は可愛くそして耳の良さは「風」の声を聴いている・・・・









西の果ての国「ロサ」


その近くに隠れ里がある


希少な獣人の住む隠れ里


うさみみの獣人は珍しい

いや、獣人そのものが珍しいのだがその中でも群を抜いて珍しい


ここの里の人口はわずか100名足らず


それがキトラの生まれた里だった


シルバニアンの里ー


その里の長の娘


キトラ・シルバニアン


キトラは巫女の家系にあって、巫女にあらず



その理由は姉が居たからだ


非常に優秀な姉


ルーラ・シルバニアン


キトラより5つ年上の姉だ





「おねぇちゃん、きょーもお祈りに行くの?」


「うん、キトラいい子にしていてね。」


「うん!」



父と母はキトラがまだ赤子の折に亡くなった


落石事故と聞かされていた


それゆえ、キトラは姉に育てられた

だから姉のことがキトラは大好きだった


血縁はお爺さんだけ


少子化の里では、若い獣人は少ない

その数少ない獣人の男は皆出稼ぎに出ている

うさみみの獣人の特徴は高い身体能力とその聴力にあった




ある日里に旅人がやってくる

その女性は金色の髪の色をしている、まるで女神の様な人間だった



「ようこそ、シルバニアンの里へ。して、美しき旅人よ何用があって参られた?」


「ああ、いーよいーよ。かたっ苦しいのは嫌いだから。ちょっと1泊と1食、恵んではもらえないかな?」


「ふむ、その程度は構わんが・・・」



「私の名前はキャサリン、ただの冒険者よ」


「そうか、わしは里の長(おさ)のオーサと言う」


「あははは!長(おさ)のオーサって!」


「ほほほ、良いじゃろう?」


「いいね、最高だ。あんたの親はきっとその年になるまで生きてほしいってそんな名前にしたんだな」



オーサはドキリとした

今キャサリンが言ったこと、それはその通りのことでオーサ自身がその事を知り、理解した時はすでに両親は無く、オーサ自身が長となってようやく気付いた事だったからだ


小さい頃はたちの悪い冗談みたいな名前をつけたなと・・恨んだりもした

それが目の前の人間はいとも簡単にその事実を指摘し、そして最高だとまで言った


「思慮深いお方のようですな。」


ニコリと笑い


「歓迎しましょう」


オーサは右手を差し出した



キャサリンのこの里での1泊の理由は単純なものだった


世界を見て回りたい


それだけのこと

ダンジョンで出会った人と再び再開するときのため見聞をひろげておきたかった


世界各地、色々な所を見て回った


その旅の終わりに、獣人の里のうわさを聞きつけやってきたのだった


彼らは種族によっては排他的で、1泊すら嫌がる事が多かった


それで最初から、ぎりぎりの妥協案の1泊を願い出るのだ


今回はすんなりと話が通った・・・2泊くらいすれば良かったかな?

まぁそれは無理だろうけど


里の案内はオーサの孫娘のルーラが案内してくれていた


「こちらが我が里の神木です」


「へぇ」


今二人は巨大な木の前に居た


「ユグの大樹です」


「・・・・」


その大樹からは魔力が感じられる


本物・・!!!


キャサリンはそれが何かを知っている


およそ100年に一度、大樹は若葉を芽吹く


それを死者に煎じて飲ませれば生き返ると言われ


そして他の不毛な土地ですら植えれば100年の月日でもって、大樹となる


大樹を切り倒せば最高級の木材として取引もされているが

乱獲によりユグの大樹は世界から姿を消す


歴史のいたるところでその奪い合いによる戦争などが起こったこともある


「素晴らしいものを見せていただいてありがとう。だけど、これあんまり人に見せちゃだめよ?」


キャサリンはルーラにやさしく言った


「はい。ご進言ありがとうございます」


よくできた娘だなぁ・・

キャサリンは感心する。妹のシアに、ちょっとだけ似ている気がした


今夜泊めてもらう宿泊場所は、ルーラとキトラの住む家だった




「ねぇね、きゃさりん!それでそのでっかいとりさんって…美味しかった?」


「ああ、この世のものとは思えないほど美味だったさ」



囲炉裏を囲い、キャサリン、ルーラ、キトラは向かい合って話している



「うわぁーあ、たべてみたいなぁ」


「へえ、キャサリン様はすごいですね、そんな大鳥を」


「お?信じてねぇな?ルーラ。よし、ちょっとだけ分けてやろう」



そういってキャサリンは「魔法の箱」から小さなこぶしサイズの肉を取り出す


「もうこれだけしか残ってないけど、お礼にあげるよ」



そういって串に刺して、焼く。味付けは塩のみで



ジュウ・・と焼ける音が聞こえてあたり一面に凄まじく良い香りが漂う



わずか2分ほどで焼きあがるそれをキャサリンは二つに分け、ルーラとキトラに渡す



「おーいしそう!」

「頂きます・・・」



ぱくり、と口に入れたそれは芳醇な香りが広がり、暴力的なうま味に支配される。


「うあぁはぁ・・おいしい・・・」


「な・・・なに・・これ・・・」


「どう?美味しかったでしょ?」


二人とも声を出さず、うんうんうんと首を上下に振った


「この世界は広いんだ、色んなものがある。さっきふりかけた塩も、山のてっぺんで取れたんだよ?」


「海でなく?」


「そうだ。まだまだ知らないこともある。それが私は知りたくて旅をしてるのさ」


そう言ってキャサリンは微笑んだ


「わたしもみてみたいなー」



小さなキトラは自然とそう思ったのだった



翌日の夕方にキャサリンは里から出立する



「んじゃな、よい子にするんだぞ?」


そう言ってキャサリンはキトラの頭を撫でる



「うぇ、うぇえええん!!」


「ほらキトラ、泣かないの。キャサリン困ってるでしょ?」


「うん、キャサリンまたきてね」


そういって涙をぬぐうキトラ


「すっかり懐いてしまいましたの。ご迷惑をおかけしますじゃ」


「いいんだオーサ、そのうちにまた来るさ」


ニコリとキャサリンは微笑む


「はい、それではまた」


オーサが手を振ると、キトラがぴょんぴょんと跳ねながら手を全力でぶんぶんと降って別れを惜しんだ







途中、野宿をしながら思い出す


「それにしても、噂通り本当に里と大樹があったなんて・・」


まって、そう噂だ?どこで聞いた?


あれはロサの国の酒場だ。3日前に聞いた


誰が言っていた?

私は好奇心から急いで来たからわずか3時間ほどで来ているが、通常の人間だとあの里まで何日かかる?


ぞわりっ


見落としていた犯罪のー事件の予兆


あれは襲う算段じゃないのか?隠語を使っていたな?


「うさぎの里の大樹、本当に在るらしいな」

「ああ。そうだともー」

「じゃあ、ゲイルさんが借りに行くとー・・・・」


ちっ!借りるは盗賊の隠語じゃないか!


盗むか奪う!あいつらは其れしかできない!




キャサリンは立ち上がり、火を消すと勢いよく走り出したーシルバニアンの里へ









シルバニアンの里・・・森が・・・焼け落ちる


その中にあって、ユグの大樹だけはなぜか火を寄せ付けない



「ギャハハハハハ!こいつはいいや!本当に大樹がありやがる!」


「ゲイルさん、ほ、本当にこいつら頂いちまっていいんで?」



盗賊の男は、若いうさみみの獣人の女の耳を掴みながら言った


「ああ、かまわんぜ?この里はもう俺たちのもんだ。男どもが返ってきたときのために言うことを聞かせるのに必要だから、子どもだけは殺すな。あとは何しようがかまわん」


にやりと笑うゲイルの片目は刀傷によって塞がれている


片目のゲイルーS級指名手配の盗賊だ


「きさまら・・許さんぞ・・!」


オーサがゲイルを睨みつけながら言った



「俺はお前に許してもらわなくていいよ、俺が俺を許すぅ!」


「ギャハハハハハ!」


「外道めっ!」


里の者100名弱のうち、大半はもう葬られた・・・・


残っているのは20名弱の女子供・・それにオーサだ


わずか30名の盗賊だかに里は襲われていた


「お頭ぁ!上玉がいましたぜぇ?」


ドンっと突き出されたのはルーラだ


「おねぇちゃぁん!」


集団から這い出たキトラがルーラの足にしがみついた


「ほぉー、こりゃいい。本当に上玉じゃねぇか。こいつは俺がもらう」


下衆共が・・・・・・・・・


「ウインドバレットぉ!」


オーサは魔法を唱えるが、それを見逃されるわけはなく


ごぉう!


炎の壁に・・弾かれる


風魔法は炎魔法との相性が最悪に・・悪い


元々戦闘能力が高いシルバニアンの里の獣人が生き残れたのは、風魔法の名手だからだ


だが


「おいおい爺さん、あんたのお仲間がやられたの見てなかったのかよ?」


ゲイルはそう言うと


「燃えちまえよ」


「フレイムバレット」


ゲイルはその火の魔法使いだった


そのオーサの放った風は炎を連れて戻ってくる


オーサを火柱に変えて・・・



「おじいちゃん!」


キトラの目の前で、祖父は焼かれる


それを見たルーラは・・・



「キトラ、みちゃだめ。安心して、あなたは私が守るから」


そう、優しく言った



「誰が守るってぇ?そういや、その長い耳、じゃまだな」


そう言うとゲイルは剣を振りー耳を切り落とした


「っぐ!」


ルーラーは必死に耐える


「おーおー泣かないのかい?いいねぇいいねぇ!強気なのは大好きだ!ぶち折れた時が一番大好きだけどなぁ!」


そう言って高笑いをするゲイルに・・・ルーラは



「祖よ・・・神よ・・・風の神よ・・・」


「我が身を捧げる・・・」


「妹を・・・キトラを護れ・・・」


大樹に祈る


「なんだぁ、またお得意の「風」魔法でちゅかー?」


ゲイルは知らないーシルバニアンの里の巫女の力を


「シルフー」


その魔法は風の魔法ではない


だが辺りを焼いていた炎が風によって吹き消される


その魔法は風の魔法ではない


だが吹き荒れる風は全てからキトラを守る




「な、何だ!炎が消されちまったぞ!」




「おねぇ・・・ちゃん?」


そこにルーラの姿はもうない


その魔法は・・・




「精霊に成る魔法・・・・・・・・・・・・・!!!」





間に・・・合わなかった


キャサリンが駆け付けた時、すでにルーラは魔法を唱え終わっていた


キャサリンとキトラの目の前で、ルーラは精霊に成った

命を懸けて、大きな力をもつ精霊に生まれ変わる


その姿は今はもう見えない

だがキトラを包む暖かい風はきっとルーラなのだろう


風によって炎は消され、無残な姿を晒す


焦げ臭い匂い・・嫌な匂いだ



「なんだぁ・・・消えちまった!あの女も炎も!」



「おい、外道。貴様生かしては返さんぞ」



キャサリンの両目はいつの間にか金色に輝いている


「ふあ!新しい女が増えてら!こっちのが上玉じゃねぇか!」


再び笑い出すゲイルにキャサリンは





「きさまには慈悲すら与えたくない」





そう言ってー盗賊を滅ぼした。









里の生き残りはわずか15名だけで、


炎をみて帰ってきた男が20名だ


それがシルバニアンの里に残された最後の獣人たち



「おねぇちゃんと一緒がいいの!」


キトラは泣き叫ぶ


「うーん・・・私、おねえちゃんじゃないんだけど・・・」



キャサリンは足にしがみつくキトラに困惑する


キトラが負った心の傷は深かった


オーサやルーラの事をすっかり忘れてしまっている


そしてうさみみの獣人の人口は四分の一くらいになってしまっていた


連れ出すことは、ひょっとしたら種の存続にかかわるかもしれないし、

それになによりキトラはこの里の、長の・・そう、巫女の一族だ



「どうしようかなぁ・・・」



困った・・・

連れていくのは・・・無理よね・・・残された者たちの事を考えると・・・


そんな時に風が、キトラに語り掛ける


キトラがふっと、泣き止んで言った


「あ、おねえちゃん!あのね、あのね!」


「どうしたの?」


「えっと、風の精霊さんが、おねえちゃんに、キャサリンについていきなさいって言ってるの!キャサリンよろしくって!」



普通なら、子供のくだらない言い訳だ

精霊は魔法を使わなければ、見ることなんてできないからだ


でも


「そうとしか、思えないよねぇ」


キャサリンはすっと、キトラを抱きかかえる


「キトラ、育ててもいいかな?」


残された里の皆に聞くと


皆、涙を流しながら・・・・「よろしくお願いします」と・・・そう言った



「よっしゃ、任された!」




そしてキャサリンも頼まれたと、風に語り掛けた












あれから数年の月日が流れて、今ではキトラはすっかり「冒険者」だ




「風の精霊さん!お願い!」




それだけの呼びかけで、風の精霊はキトラに応える

本来であれば複雑な呪文が必要だし、または触媒が必要になる

だがキトラはそれを一切必要としない




「風の精霊さん!」




そう、だからキトラは今も、優しい風に護られている







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