第73話焼肉GOD 前話 蛇の毒

カンザキは海岸線をぶらぶらと歩いていた


ここに来るまで色々な事があったと振り返る

最後に攻略したのはウルグインのダンジョン、その中の食材(モンスター)を気に入ってしばらくウルグインに住もうと決めた


ダンジョンを出てからすぐ、開く店の場所を決め道具を揃え始めてこの街まできてしまっている


右手には拾い上げた貝殻を握り、ガリガリと貝殻の背を擦り合わせて音をだす


気候は穏やか、そして波は静かに押し寄せる


「おう、カンザキここにいたのか」


まるでアロハシャツを着た白髪のおっさん

焼けた肌が健康そうに見える


「なんだアーガスか、暇そうだな。こんなとこまで来るなんて」


カンザキはこんな場所で偶然出会った知り合いに対して、俺を探しに来たのか、本当に暇なんじゃないのかと思ってしまう


「ひでぇ言い草だな。実の所はそんなに暇じゃなくなったんだが」


「じゃあなんで釣り竿なんか持ってるんだよ。しかも二本」


はぁ、とため息をつきながらアーガスは釣り竿をバラシてしまい込む


「本当はお前さんと釣りでも楽しもうかと思ったんだが、さっきマズイもん見つけちまってなぁ」


そう言って取り出したのは一匹の「蛇」だ。なんとも言えない不気味な雰囲気をかもし出しているその蛇はもう死んでいるらしく動かない


「蛇か?」


「ああ、ただの蛇なら良かったんだがコイツはちとまずくてな」


「食べる気だったのか?」


ぶはっとアーガスは咳き込んだ


「好き好んで食わねぇよ!」


「じゃあ何がまずいんだよ。うまいまずいは食ってみないと分かんないぞ?」


「んなもん食おうとするのはお前さんくらいのもんだよ・・・カンザキ。いやまぁな、コイツは多分巨蛇の眷属みたいでなぁ。しかも幼生で生まれたてだ、ソイツがこの浜辺で死んでいた。」


「眷属って言い方は穏やかじゃないな。神かなんかなのかその巨蛇は」


「ああ、コイツの親は神みたいなもんだ」


また、面倒な話になりそうだな

いつもカンザキの行く先ではこうだった

最近はかなり緩やかになって来たとは言え、新しい土地に行けばたまにこうしてイベントが発生する。

まるでゲームの様だ

そう思う


「話つけに行くならついてくぜ?」


相手が神だろうがなんだろうがな。厄介ごとは始まりの段階で叩くと後が楽だ

これは今までの経験則で身に染みている


「話は通じん。アレは神みたいなもんだが、天災や現象みたいなもんだからな」


なるほど、世界を救う系のイベントかならば話は簡単だ


「倒せば良いのか?」


「簡単に言ってくれる。だが間違いはないな、巨蛇を神と崇める海にいる全てが敵になると知ってもか?」


ソイツはまた、敵の数が多そうだなぁと考えながら既に探査魔法で目的の蛇を探している


いた・・・・海底・・じゃないな。亜空間みたいなとこにいるな


「でだ、アーガス。居場所はもう特定したんだがどうする?」


「どうするって・・・居場所がわかった!?俺の目でもまだ見えないぞ?!それになんだか荒っぽい言い方だな・・どうせカンザキ、お前さん倒しちまう気だろう」


カンザキはふふっと笑い、当たり前だと言ってのける

厄介ごとは、片付けれるだけの力はもう得ているからだ


それが例え、神クラスの巨蛇だったとしてもだ





シルメリアは飛んでいる

背に傷ついた女の子を乗せて


シルメリアはドジな娘だった

歩けば転ぶし、良く左右を間違えた

そんな自分が大嫌いだった


だがそれも理由がある


竜の得ている情報は膨大だ

視覚情報も人間とは比べ物にならないほど広範囲で遠くまでを見通すし、人間の目には見えない光線も見えている

聴覚は聞こうと思えば草木の揺れる音から、数キロ先の川の流れる音まで選別し聞くことができる

皮膚感覚にしても触れる空気から魔力の量やそういったものまでを感知する


だがシルメリアは竜と言うよりも人間として生活をし過ぎている

だが本来は竜だ


それゆえに、人間として得られる情報量だけではまったく足りていない

成竜が竜魔法にて人間となっている場合でも、その得る情報量はそのままなのだが

シルメリアの竜魔法は完璧すぎるのだ

情報すら制限するほどに、人間になっている

違うのは魂のみという具合に



それを幼いシルメリアはまだ、知らない


だから自分はドジで、間抜けなんだと思っている


竜に戻ったシルメリアはその増えた情報量を元に飛行する


背に乗せたミオは無意識で風魔法で風圧から、温度から守っている


もしこれを仲間が見たらきっと驚くだろう。器用な真似をすると

そもそも竜は風など意に介さず飛行できるのだから



ウルグイン


それがシルメリアの目指す先だ

確か、ダンジョンと呼ばれる迷宮があると聞いている

一族の伝説では、光竜、星竜とも呼ばれるバハムートがいるとも

だがグリーンドラゴンの一族であるその長ですら、若竜の頃に1度会ったことがあると言われる伝説の中の伝説


シルメリアは竜となったその右手を力を込めてぎゅうっと握りこんだ


ミオを医者にみせた結果、毒消しが豊富にあるウルグインに行かなければ治せないとなった


しかも時間はあまり無い

不幸な事にミオには身寄りが無かった

いや、父親はいるのだが彼は今ウルグインに出稼ぎに行っている


シルメリアはミオを背負って街を出た

そして少し離れて竜に戻り、意識のないミオを背に乗せたまま飛び立った


背中のミオを気遣い、あまり速く飛ぶ事は出来ずにゆっくりと飛んでいる


だけど今回は自分が空を飛ぶ翼を持つ竜である事に感謝する


ミオを助けたい


その力が自分に有ると言うことが今は誇らしかったのだ


「ミオ・・私が、助けるから」


そう強く念じながら、手に力を込める


ミオが噛まれてから24時間が経っている。

医者の話によれば、3日以内に解毒出来れば助かるという事だった

飛んでいけば今の速度でも10時間もあれば着くはずだ。

それでミオは助かるはずだ


そう、うまくいく筈だから。



ゆっくりとだが順調に進んでいるシルメリアはミスを犯す


感知範囲が広がっている


竜魔法の天才シルメリアはすでにウルグインのある場所も、ミオの父親の場所ですら感知ができている

普通の竜(ドラゴン)の数倍は軽く超える感知範囲

本来の感知範囲に加えて、さらに竜魔法の感知強化を無意識にかけている


だがそれが仇となる


情報の取捨選択をしなければ処理しきれないほどの情報量

今シルメリアにはウルグインと背中のミオしか見えていない

無論、最短コースを選んで飛んでいる


だがそしてそれが、他の竜の・・・狂える竜のテリトリーを侵してしまうことになる


捨てた情報、その中に捨ててはいけない情報が唯一つだけあった


テリトリーを侵す者は全て、何であろうが灰燼と化す竜のテリトリー


背中のミオとも無縁ではない竜のテリトリー



気がついたのはー目の前にその竜が舞い降りた瞬間だった・・


狂える竜 ニーズヘッグが

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