第134話エルフの国から始める

エイランが呼び出したと言っていいのか、その国はエルフの国と言う事だった

だが誰一人住んではいない

先程唱えていた中には枯れ果てたと、そういう言葉もあったはずではあるがここには多くの木々も存在している

疑問に思っていると、エイランが言った


「ここは・・・私の友人から譲り受けたものでね。この世界のエルフの国なのさ」


「譲り受けたって…どこにこんな…」


流石のカンザキの魔法の袋だって、ここまでは収納できる気はしない。何故ならば国がまるごとなのだ

木々の間には家が立ち並んでいる


「ああ、これは国を移動させる魔法でね。実際には別の空間にあったのさ」


その大魔道士だった友人が作り上げた魔法、という事だった

別の空間ということはある意味これは収納魔法の馬鹿でかい版といえるのではなかろうか

どんな天才だよとカンザキは思った

しかしそんな事をすれば住んでいる人間はどうなるのだとカンザキは思った


「ここは既に滅んだ国でね、誰も住んでいないよ」


なぜ滅んだのか、と言うよりはエルフ達はここを捨てたのか

その答えは明白で、カンザキとエイランが今立っている国の中心にあった大穴がそれを教えてくれた


「まるでウルグインの大穴みたいだ」


そうカンザキは感想を漏らすが


「これは穴さ。ただの穴、中には何も無いよ…元々ココには世界樹があったらしいけどね」


底の見えないその穴は、かつて世界樹があった場所という

ぽっかりと空いてしまっている姿は違和感しかなく、その空洞がなんだか恐ろしいものに見えた


エイランはその大穴に向け、魔法を発動させる

大穴を、土で埋めるためだ


「ここにあった世界樹は全て持っていかれてしまったのよ。その周りの土ですら、ね」


土にも世界樹からの魔力があるからと、エイランは言った

その土で作物を育てれば良いものが育つらしい


「それで、ここに再び植える苗木が欲しいとそういう事ですか?」


「うん、そう…私が育てるにはもう遅すぎるけど、それでもさ・・・こんな好機見逃せないじゃない」


「遅すぎる?」


「ええ、寿命が足りない。いくらエルフが長生きだと言ってもそれは世界樹を育てるには到底足りない。本来ならエルフが村ぐるみ、国ぐるみで世界樹の育て手を育てる。そして、代々繋いで行きながら世界樹を育てるんだ」


「なるほど」


「それなのに、私にはおそらくだけど育て手を育てるだけの時間もあるかどうか…」


そんなに時間がかかるとは思ってもみなかった

エイランはあと100年生きれるかどうかだという

それでも人間からしてみれば長寿なのだが


大穴を埋めるだけの魔法を軽く行使するエイラン

それだけのすさまじい力を持ってい居るのだとわかる

だが、それでもかなわぬ願いというものがあったのだ



二人はその穴が埋まると、ほんの少しだけ離れた建物へと行く

中に入ると、土に埋もれたカプセルのようなものがあった

まるで、それはSFのようなガラスのカプセル

中には一人の美しい女性が眠っているのが見える

どことなくエルマが成長すればこうなるのではという、そんな気がする


「これがルーンの素体として使えると思う」


「えっと、この人は?」


「人ではないよ。生きていないからね…ホムンクルスを作ろうとして、出来たものさ」


「良くわからないが、まるで生きているようにしか見えない」


「ふん、アレは本当に天才だったからね・・・まぁルーンの中に入っている人工知能の基礎を作ったやつの分身みたいなものだ・・・完成前に土に還ったけどね」


幼馴染、みたいなものだったらしい

この世界にエイランが来てから仲良くしていたというエルフだ

悲しそうなエイランを見ているとカンザキは思わず同情するように聞いてしまう


「事故とか、そういうので?」


「ああいや、そんなのじゃないよ。寿命だよ」


「寿命ー?」


「私は異世界から来たエルフだ。この世界のエルフとは寿命がね、違ったようでさ…、それでも3倍以上違うとは思わなかっけどね」


そう言ってエイランは笑う

エイランの寿命はおおよそ1300歳といったところらしい

この世界のエルフの平均寿命は400歳くらいだという


そしてその彼女は天才だったという事らしい

国の転移魔法を作り、疑似知能という概念を実現、そしてホムンクルス理論を確立

最後の仕上げはエイランがさらに100年をかけて完成させたという


親友だったそうだ


だからこの「人型」は彼女の形見らしい

そんな大切なものを、とカンザキは思ったが


「このルーンの中身はあの子が作ったようなもんだからね、まぁいいんじゃない?」


そういって、そのカプセルにある窪みにルーンをはめ込んで魔力を流し始めた

緑色に光るカプセルは、とても綺麗な光だった






光が収まると、カプセルがぱりんと割れた

中に入っていた人型の目が開き、ゆっくりと起き上がる


ほんとうに生きているようにしか見えなかった


「はい、あんた自分が誰かわかる?」


エイランはそう話しかけると、人型が応えた


「・・・はぁ。何してんのよエイラン・・・私はアイよ」


「え、ちょっと…何?」


「いやいや、あんた元々この体に使う予定だったルーンを流用しちゃったでしょう?ダンジョンに。この体の中に記録してた私の記憶を読み込んだらそりゃ私が復活するわけよ?」


これはひょっとして、さっき言ってた土に還ったという友人なのではなかろうかとカンザキが考えていると


「ん?君人間だね?誰?」


「えっと、カンザキと言います」


「あっそう。ちょっと待って、記録見て…ってちょっと、400年くらい経ってるじゃない!?なんでエイラン生きてるの!?えええ?生身だよね?」


話がコロコロと変わって、しばらくエイランとアイは話し込んでしまった

暇だなとおもったカンザキはそのあたりで石窯を作り、お湯を沸かしてお茶をいれて飲みつつ二人の話を聞いていた


誤解とかそういうものが積み重なって、どうやらアイの核となる部分を流用してダンジョンを作った

そして、まぁ本当にいろいろあってエルマが誕生してここにその母を求めて来たということを知った

エイランは自らが異邦人だったということをアイには伝えて無かったらしく、それはそれで少し揉めていたのが面白かった


「はぁ、色々あったのね。私の基礎人格がまさか子供を作るとは思わなかったけど。エルマは私の、みんなの子供ってところね・・・今はアイエテスが面倒を見てるのねー」


きちんとその時のことは全部覚えているようだったただ、エルマ誕生以前の記憶のようなものはないらしい

文字道理、エルマと共に自我が生まれたのだろ


「で、ひょっとしてさ…世界樹の苗木が見つかったの?」


「ああ、そうだね。それはこれからカンザキが取ってきてくれる」


「へぇ、じゃあ・・・あのウルグインのダンジョン抜けたんだ?」


抜けたといえばそうなのだろう

あの奥の深い階層にそれはあるだろうと思っているからだ


「あー、まぁ。これからとって来るよ…」


「いいよいいよー!頼んだよ。私は・・・エルマと仲良しになれるかなーだけどね」


「不安なのか?」


「不安・・・そうなんだろうね、これが不安、かな?なんていうかそわそわして、嫌われたくないって思ってるかんじ」


そう笑うアイの顔は、エルマによく似ているとカンザキは思った



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