第133話エルフと世界樹とルーンの素体
カンザキとエイランが店の外に出た後、ミタニは猫さんに色々な質問を投げかけていた
それは主に魔石と魔法陣について、である
そこの技術は秘儀と呼べるものであったが、そもそもが応用が中心なのでミタニにはありがたい話を聞けていた
「なるほどね、積層魔法陣を用意する場所と違うルーンに入れるってのは…そうか、クラウドみたいなものなのか!いやぁ、さすがです」
「そこまで褒められると照れるにゃあ・・・ミタニも結構いい線行ってたのにゃ。独学でここまではにゃかにゃかにゃぁ」
「いいえ、もともと私、エルフに助けられてですねぇーって・・・」
そこまで言ってミタニは思い出した
先ほど、エイランはすぐそこと言ってなかったかと
エルフにとってのすぐそこ、と言うのは普通の人間からすると数日、数か月、かかるということもざらである
「ね、猫さん。さっきエイランさん、スグって言ってましたね?」
「そうにゃね……あっ!」
猫さんもミタニが言いたいことを気づいたようだ
そう、エルフにとっての直ぐとは……
◇
「そんな遠くないって、何処なんだ?」
店を飛び出したエイランについてきたカンザキだったが、今は既に街を出て結構歩いている
それどころか既に夕方で、何時間歩いていたのかすらわからない
「ああ、直ぐだよ。近いものさ」
「そうなのか?」
カンザキは今までエルフとの接点はない。だから知らないのだ
エルフの時間感覚を
そんなカンザキだが、ただただエイランの後をついて行っている。しかしながら無言で歩くのも正直しんどいとおもった
何せ、会話が少ないのだ
だから少しばかり、エルフという種族について聞きたいことはあるのでそれを聞こうと思った
カンザキが居た前の異世界ー、そこにはエルフはいなかったと記憶している。居たのは人間のみだ。魔王と呼ばれた存在もまた、人間だった
だから、獣人がいるこの世界では期待していたのだ
亜人種はそれなりに会ってきたのだが、エルフは初めて出会っている
「なあ、エルフってさ、信仰している神とかいるの?」
色々聞きたい事はあった
どれくらいの人数がいるのかだとか、寿命は如何程なのかとか
だけど、種族を知ろうとした場合にその種族が信仰しているものを聞けたなら話題も広がろうものだし、タブーを聞くなんて事も回避できるだろうと思ってだ
昔それでえらい目にあったこともあるカンザキは用心したのである
「神かい?うーん…どうだろうね、使命ならあったのだけどね…信仰となる程だったかもしれない」
「使命が信仰ね?どんな使命だったんだ?」
カンザキはそれがなにか知っている
前いた異世界での魔王討伐がそれだ。魔王を妥当し、平和へと導く
それは何にも勝る信仰のような、信念だったから
「興味あるの?意外だね。世界樹を育てることが使命だったのさ…まぁ、私はだけれどね」
私は、というのはどういうことなのか聞く前にエイランが教えてくれる
「実は私はね、この世界で生まれ育ったエルフではないのさ。ほかの世界から来た、よそ者だよ」
「は、え?」
それは意外な告白に思えた
カンザキにとってエルフとはこの世界にしかいないと思ってしまっていたから
ただ、考えてみれば当たり前のことにも思えた
カンザキだって、そのほかの世界から来ているわけであるから
「ふふ、驚いてくれたね。カンザキくんの事は聞いているよ、猫さんから。君も異世界からここに来たクチなんだろう?いつも到底この世界の人間には手に入れることができないランクの素材を持ち込んでくれていたからね、さすがに私も気にはなってたさ」
「そうなのか…なんかそれ、恥ずかしいな」
「いつか出会うことがあるかもしれないとは思っていたからね。それと、今回ルーンの素体を提供するのもそれあってこそさ、当然見返りを求めるつもりだし、それにこたえる事ができると思っているからね」
さすがに鈍いカンザキでもエイランが何を欲しているか分かった気がした
「世界樹、か?」
「そうだよ。カンザキくんの家しかり、君のところのサラダだったりとよくもまぁ簡単に世界樹を手に入れてくるものだと思ったよ。私はそれが、その世界樹を欲してやまないというのに」
エイランはカンザキの方を向いてはいないが、その熱のようなものが伝わってくる気がした
だからカンザキはもう、その願いに応える気でいる
「それで、何が欲しいんだ?」
「世界樹の苗木。これがどれだけ難しいか正直わからない。でもカンザキくんなら何とかしてくれる気がしているよ。君は焼肉屋であって、植物ハンターではないということも分かっている」
「わかった、聞いてみるよ。世界樹を管理しているやつがいるもんでね」
その管理者は、とても寂しがり屋なんだとカンザキは思い出していた
今はアリアという冒険者がたびたび遊びに行っているようだから以前ほどのテンションにはならないだろうけど
「その管理者に願いたいね、苗木を…エルフにも分け与えてくれと。まぁこの世界のエルフはすでに世界樹を無くしてかなり時間が経過しているから、何とも言えないんだけど…それに同じものかどうかもわからないけれどさ。まぁ私には重要なことなのさ」
「わかった…ルーンの素体、体か?と引き換えになるんだったらなんとかしてみよう」
「ありがとう…私は、私はね…元々世界樹を育てるために、育てられていたんだ…別の世界だけど。その世界にはちゃんと世界樹があって、苗木から育てていたんだよ。成樹になるまでには3万年を要するといわれていて、それを代々繋いで育ていたのさ」
刷り込みのようなものだろうか、それともその血族による使命がDNAに刷り込まれているのだろうかエイランはそれがどうしても諦めきれないということだった
本来であればエイランの代で世界樹は成樹となるはずだったという
だがこの世界に来てしまってそれが成す事ができない
それがどうしても、悔しいということだった
二人は巨大なウルグインの街が見えなくなる程に歩いていた
そして、すこしばかり標高が高いところに到着する
そこには何もない平原が広がっていて、落ち始めた太陽がオレンジ色に草木を染め上げていた
「うん、ここならいいか。ちょうどいい広さだし、なにより森も近い」
それだけエイランは言うと、空に両手をかざして唱え始めた
「我が故郷は遠く離れた場所にあり、鈴の音のような声が響いていた」
「その国は誰の侵略も許さず、だが来る者には幸福を与えた」
「ああ、大河は干上がり、そして木々は枯れ果てた」
「滅びた理想郷はそこにある、我が目の前に」
するとどうだろう、エイランとカンザキを中心にして平原いっぱいに目で追えないほどの巨大な紫色した魔方陣が広がった
そこから霧のようなものがあふれたかと思うと
二人の目の前には、巨大な街が出現したのだった
「ようこそ、カンザキくん。エルフの国へ。歓迎するよ」
そうエイランは言ったのだった
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