第132話猫の店

ミタニが着いてきているのを気づかなかったカンザキ


たとえカンザキとて、街中でも常時気を張っている訳では無い

身の危険を感じれば流石に即座に対処はしようが、付いてこられて居ただけのことに気づかなかったのも仕方がないといえる。この男強くはあるのだが抜けているところも多いのだ


さて、冒険者御用達の店である、猫の店には表と裏の店がある

表の店は冒険者向けの安めの物を扱っている

とは言え、それが高額なものなのは間違いがない


そして裏の店はと言えばカンザキが持ち込んだ素材をふんだんに使用した物を置いてあるし、ただの贅沢品も多い。実のところここの入り口はウルグインのダンジョン100層にあったりする

だから二人が入ってきたのは実は勝手口である


店内に設えてある客人用のソファなどもその類で、ベヒモス皮を使用したソファなど到底値が着くようなものではないだろう


その高級なソファにカンザキとミタニは腰掛けて、その対面に猫さんが座る

カンザキの隣から猫さん可愛いい…と小さな声が聞こえてくる

まあ見た目はほぼ白い子猫、だからなあ

猫が喋るとかそれに驚くとかすると思ったが、それも異世界だからで片付いているのだろう


「うーん。かなりレベルの高いルーンにゃ。まぁ、これ作ったやつには心当たりはあるにゃあ」


「お、マジ?」


まさかの一発で当たりか!色々とこれで道筋が立ちそうだな

カンザキはほっと胸を撫で下ろす

最悪はまた世界中を放浪しつつ探そうと思っていたからだ


「と言うか…ここにいるにゃ」


まるでため息をついてやれやれとでも言いたげなポーズをとって猫さんは言った


ここにいる、その言葉に二人は一瞬理解が追いつかなかったが、もしかしてと「猫さんが」と言葉を絞り出す


「ああ、ちがうにゃ。私じゃにゃないにゃエルフにゃ」


「エルフ!」


今度はミタニが言った

そしてなにやらモジモジと、ソワソワし始めるどうしたのだろうか


ここに居るという、全く意味がわからんとばかりにカンザキは猫さんに聞いてみる事にする

分からないことは聞くのが一番だ


「エルフって、俺はまだ会ったことがないんだがいるのか?」


そう、カンザキの記憶にエルフはない

それがどれほど出会えているミタニが幸運かと言う事だったし、それもそのはずで


「エルフは結構いるにゃ、でも姿を変えているから分らんにゃ?」


「ふぅん、姿を変えてるねぇ…なんでなんだ?」


「ま、アイツらにも色々あるんにゃよ」


「え、でもでも私、エルフ会ったことってか、この世界来た時けっこーお世話になったんだよ?」



そこからミタニがエルフについてカンザキに熱く話していた時だった


一人の黒髪の女性が表の店から入ってきた

この店の表からの裏口は直には繋がっていない


空間が歪んでいるからだ


表の店員は裏のことを知らされていないのに

この人は普通に入ってきたことになる


何となくその妙齢の女性にカンザキは違和感を覚える


実の所、カンザキの魔力量はかなり少ない

使える魔法も限りがある

しかし、質は別だ。カンザキはその少ない魔力量を補って余りあるほどの力を持っている

時折食べる魔石はその魔力量を補う事が目的だったりする

さらには、その属性を極限まで引き上げる


それは普段でも、魔力に対しては敏感であることを意味している


だからこその違和感を感じている


(なんか魔力が変な感じだなこの人…そうか、もしかして)


カンザキは猫さんを見ると少しだけドヤ顔で言った


「この人がエルフ、でいいのか?」


それを聞いた猫さんは黒目をひゅっと広げてから


「さすがだにゃあ…わかると思ってたけど、ほんとにわかるんにゃ」


猫さんに褒められた事でカンザキは少し照れてから、猫さんに紹介してくれと頼む


元よりそのつもりで呼んでいた猫さんも問題ないとばかりに自己紹介をと彼女に言った


「私の名前はエイラン。猫さんとはもう500年ばかりの旧知でね。最近はこの店の手伝いさ」


エイランはちらりとルーンを見るそして優しそうに目を細めて


「まさかここに持ってくるとはね、予想外だったよ」


「あんたがこのルーンを?」


作ったのか、と、続ける前にエイランの方から話してくれた

それはかつての魔王による進行が行われたと言う話だった


ダンジョンの奥深くから現れた魔王は街に現れるなり大規模な破壊を行ったそうだ

そこに何処からともなく「魔族」と呼ばれる軍勢が現れ戦いとなった

ダンジョンを拠点とする魔族が使用不可になったことによって、兵士の育成が困難となる


だからこそ、予備の育成施設であるダンジョンが必要となった



「それでね、この子を作ったの」


そういう彼女は少しだけ懐かしそうな顔をした

しかし、憂いのある表情


「この子、もう長い間稼働してたから、おやすみなさいって思ってたんだけどそうじゃなかったのね」


思う所があるのか、エイランは少しばかり嬉しそうに微笑んでから、カンザキの依頼ー



「このルーンを復活、ね。良いよ」


「にゃ、いいのにゃ?」


なぜか猫さんがびっくりしている

カンザキはそれが何故なのか、思いを巡らせてるも分からない


「ええとね、カンザキくん。このルーンにある知性を人の体に…似せたもの、だけれど入れることは出来るよ」


「本当か?!」


「ああ、本当。私を誰だと思ってるの、そのルーンの製作者だよ?正確にはその1人だけど。でもそれには必要な素体、体を手に入れなきゃね」


カンザキはその言葉に嫌な想像をする

素体、体…まさか死体だとかそういうモノかと

そしてカンザキが何が言いたくて言い淀んでいると察されたのかエイランが言った


「ああ、素体はね。昔私が作ったのがあるんだ。それを使おう」


作った、と聞いて少しばかり安堵する

それがどんなものが分からないが


「でだ、カンザキくん。それさ、取りに行くのに手伝って貰おうかな」


「あ、ああ。勿論だ、俺ができる事なら何でも構わない」


それを聞いたエイランはにこりと笑った


「じゃあいつ行く?」


「今から行こうか、カンザキくん。そこは遠くないからね」


カンザキは立ち上がり、先に出ていったエイランを追いかけて行った



「はぁ、まあ、いい頃にゃのかにゃ…」


「猫さん?それはどう言う」


話に入って無かったミタニは先程からの猫さんの態度には何かあると感じ取っていた


カンザキとエイランはそのまま意気投合するように出かけて行ってしまったのだが、ミタニはその場に残って猫さんにその意味を聞くのであった

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