第135話苗木は幾つ?
カンザキは地面に落ちていた木の枝でざりざりと魔法陣を描いて、それに魔力を注ぎ、フッと消えた
それを見ていたエルフ二人は複雑な表情を見せて、嫌になりそうな程に面倒くさく呟いた
「あれで転移魔法陣とかふざけてるのかな?」
ルーンの専門家のアイから見ればあれは異様な光景らしい
「でも魔法として発動してるわよ?」
「だから、ふざけてるって言ってんの!どんな法則なのよあれ!」
それはカンザキが以前いた異世界から持ち込んだ技術である
ただし、この世界でもその昔は存在していたのだが一部地域だけのものであったから、知らないのも無理はない
「相変わらず上手いこと言うわね、アイ」
エイランは大して気にする様子はない
実の所、カンザキの猫さんの店に持ち込む素材で、散々驚いていたからである。もはや諦めているに等しい
「はぁ…まあ事象は起きてんだから間違ってはないんでしょうけどね。それにそこ迄の魔力を使用した様にも見えないし、あのカンザキって人族おかしくない?なにあれ」
それはアイの正直な感想である
あんな魔法陣も、魔法文字も知らない
カンザキの残していったお茶を飲みながら、呆れたように笑うと
「ま、私がどうこう言ってもしゃーないかな」
「そうだろうね。それに今回はカンザキくんから依頼があってこれは僥倖だったといえる」
本来であればこの国をここに降ろすつもりも無かったし、アイの素体となった物も封印したままだったろうから
それにしても、それにしてもである
世界樹の苗木を頼むと依頼して、それを手に入れてくるから少し待てと言われた時にはエイランも驚いた
というか、少し待つくらいで手に入る物なのだろうか?と。
「前に、今私のお世話になっている道具屋の店主が言っていたのだけれど」
「うん?」
「あのカンザキくんは、なんと言ったら良いのか、簡単に言えば全てがもう終わっているのだと言っていた」
終わっているとはどういう意味なのだろうかと、アイは考えてみるがその答えは出ない
カンザキを知るエイランが続ける
「彼の前に物語はなく、全てはもう終わっていると」
「はえ?どう言う意味なの?」
「そうだな、曰く、彼に何かを頼むと、その依頼達成率が10割なんだそうだ」
それがどれだけ凄いことなのか、アイは今ひとつ理解していない。
それと猫さんがどれほどの者なのかは会ったこともないので知りようもないのだが
「それってさ、簡単な依頼だけ受けてるってことでしょ?例えばだけど若手冒険者がドブ掃除だけしてる様な」
それにエイランは大きく目を見開いて笑って言った
「ああ、それはいい例えだよ。まさにその通りさ」
「なあんだ、じゃあ」
大したこと無いじゃないと、言おうとして気づいた
カンザキは世界樹の苗木を取りに行っているのだ
ウルグインのダンジョンの奥の奥に有るだろうと予測だけされている世界樹の苗木を
そしてそれを、若手冒険者がドブ掃除をするに等しいことなのだとエイランは言っているのだと気づいたのだ
「まさか、そんな…」
「ああ、わかるよ。信じられないだろう?ウルグインのダンジョンが何千階層あるのかは知らないが、カンザキくんにとってそれはドブ掃除くらい容易に潜れると言う事なのさ」
「有り得ないでしょ?!私たちの時代でもあそこを潜りきるなんて無かったわよ!」
実のところ、アイの知るウルグインのダンジョンとは100階層以降からの場所を指す
100階層までは勇者育成システムとしての機能がまだ十全に動いていて、余裕で潜れたからだ
魔王登場後、そこは魔境の様に難易度が上がったことはしらないが、それを差し引いてもさほど奥地となる階層には潜れて居なかったのだ
「猫さんはこうも言っていたね。もし世界を破滅に導かんとする者が現れ、それを打倒せんとする。その時にもしも、カンザキがそこにいたのであればその話はもう終わっていて、世界を破滅に導かんとする何者かは倒されるか懐柔されるかされた後だろうねと」
「何それ。意味わかんない」
「今回の事で例えようか。世界樹の苗木をカンザキくんに頼んだ、その結果カンザキくんは苗木を大した苦労もなく手に入れてくるだろう。その過程ですら、おそらくは苗木の方からカンザキくんに出向くのさ」
「それって、もうアレじゃん。カンザキくんが欲しいと動いた時点でどんな物であれ手に入る運命だったみたいな?」
「そう言う事だね。そこにはきっと、想いだとか願いだとかそういうモノが積み重なってるんだ、それを彼は知らず受け入れるんだろう。そもそもからしてアイの事もそうじゃない?」
「私?」
「ルーンを素体に入れるなんて、私一人だったとしたらありえない事だった。それが世界樹を手に入れたいがための事でない限り、私はここを、私が死ぬまで・・・死んでも誰にも見せない気だったよ。アイとの思い出を大切にしてたから」
そっか、とつぶやいたアイ
そしてエイランはそれでもまだ気づいていない
世界樹の育て手を育てたかったという願い。それをカンザキに託しているという事が、どういうことなのかを
◇
-世界樹-
世界を繋ぐ木
それは次元を超える宇宙樹を呼ばれるものの、苗木が世界樹である
その世界樹は常に繁殖を願っていた。宇宙樹とつながるために
だからカンザキがそこで天使から託されていたある実の中には種が入っている
カンザキはその実の中に種があり、植えるととんでもないことになると思っている
それはひとえに、宇宙樹のほんの一部ではあるが巨大な根を見ているからだ
そしてその実は残念ながら、カンザキはさほど美味いと思っていなかった
これについてはもう渡した天使とかではなく宇宙樹が悪い
ある特定の種族のみが、それを美味いと感じるのだから
あともう一つ、カンザキは結構ポンコツなのである
「お。あったあった。コレだ」
カンザキの自室はらしい、といえばらしい部屋である
ごちゃごちゃと物が散乱し、隅には木箱が積み重ねて崩れないようにロープで括ってある
慌ててそれをほどいて、箱を漁る
その中からリンゴの様な果実を取り出す
ただし、まるでミラーボールの様に虹色に輝いているが…
そしてこの実は腐らないというか、朽ちない不思議な実である
「相変わらず毒々しい色だなぁ…ええと、何個あったっけ?」
種も苗木も同じものだろ?なんて、考えているガンザキであった
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