第10話王女様の、初めて

白く輝く星達が空にあった

満天の夜空を眺めながら、歩き進むカンザキとシア


シアはまるでこの世界に、2人しか居ない様なそんな錯覚を覚えた


数刻ほど歩き続けてついたそこは、突如として大きなクレーターが地を穿ち空いている

その底は暗く、明かりはない


星の光さえ届かないそこは不気味な雰囲気を醸し出していた



ゾクリ



シアは何とも言えない悪寒に襲われる。


何がいるの・・・


カンザキを見ると、剣の鞘を抜いてすらりと剣を抜き放つ


そして、袋から魔石を取り出した


それはちいさな、氷の魔石


魔石は魔力を通す事により効果を発揮する


氷の魔石であれば、周りに氷を生み出す程度の力


魔法と違いその効果はかなり限定的で小さなものだ


冒険者ならば、魔法が使える者も多いので不要な代物だ

シアも当然使える。第一級までの強力な魔法だ


そう言えば、カンザキは魔法を使えるのだろうか?


「下がっていろ」


カンザキはそう言いながら、取り出した魔石を口に放り込むと


カリッ!


噛み砕いた


カンザキを中心にあたりがひんやりとしてくる。


シアは混乱する。カンザキが何をしたのか分からない


だが事象として、カンザキが魔石を食べたように見えた瞬間から冷気が迸る。



「さあて、やりますか。」


そう気合を入れるように言うとカンザキは剣を握っていない方の手を前に出して、


「アイスランス」


初級魔法を唱える


次々と巨大な氷の槍が生まれていく


おかしい、通常は一本生み出し投擲するだけの初級魔法のはずだ


今シアの目の前には数十本の巨大な氷の槍が浮かんでいる


カンザキが合図をするとその槍の群れは、一気にクレーターの中央へ、暗闇の中へと飛んでいく!



「ガアアアアアアアアア!」


耳を突き破る様な巨大な咆哮が振動と共にやってくる、これは…吠えている!?


ガガガガッ


巨大な何かが駆け上がってきた


それは体長が軽く10メートルを超えるような四足の獣


頭には捻れた角が2本


そして全身を黒い毛が覆っていた


星の光に照らされたそれは綺麗な体毛で、まるで闇を纏っているかのように美しい黒だった


だが、カンザキの魔法で全身に氷の槍を突き刺されている


「気をつけろよー、こいつ、雷使ってくるからな」


カンザキは慣れた様子で言った


その通り、獣の体は帯電し、そして弾けた


辺りを埋めていく白、白い雷。それは昼間よりもまだ明るく眩しい程の光だ


まるで・・・そう、数える事すら出来ない程の雷柱…これが神の雷…


かつて読んだおとぎ話。その物語の神々が操るとされた・・・そんな事をシアは思い出す


体が震え、恐怖に支配される。


そしてカンザキは盾を前にかざす


それだけなのに、その迸る落雷は2人には届かない

その盾はなんなのかと思うが、それどころではない程の轟音が響き渡っている


その光が収まる瞬間、カンザキが翔けた!


「次は、また俺のターンだ」


カンザキのもつ剣がら光が放たれる!いや、集まっていく!?


「そらよぉ!」


カンザキが叫んだ瞬間、その振り下ろした剣から一直線に光の衝撃波が獣を両断するように弾ける!


凄まじい轟音と共に獣に着弾!


しかし、吠え叫び狂いながら獣はカンザキに向かって動いた瞬間だった








やっぱつえーな、奥の手を使うかぁ…



そう、シアには聞こえてた気がした



カンザキは、また、魔石を取り出してカリカリと口に含んだ。




瞬間、周りを冷気が覆う


かつてダンジョンで見た、1層まるまるが氷の層があった


それをシアが思い出した時だった。


辺りの空気が先ほどと違い、今度は氷で真っ白になり、そして




「コキュートス」



カンザキが唱えた。











あたり一面は氷河


その中心に氷漬けとなった、2本角の獣


絶命のその瞬間を氷が留めている


カンザキはテントを組み立てると、焚き火を起こした


そして解体してくると言って氷漬けの獣をその剣で切り刻んで行く。


戦闘時間はわずか五分足らず。終わってみれば、一瞬に思える時間だった



その反面、その巨体の解体に、およそ10時間を要したソレはー



「カンザキさま、このモンスターはなんという名前で?」


シアは知りたい。このモンスターが何だったのか


「あー、デカい牛なあ。何だったかな・・・」


両腕を組み、考える


「ああ、そうだ。確か、ベヒモスだったかベヒーモスだったか、そんな名前だった」


ん?聞いたことあるような


「はい?」


シアは聞き返す


「だからベヒーモス?」


あっけらかんと、カンザキは言った


「ええええええええ!」


シアは生まれてきて始めてとも言える程の、

大きな声で叫んでいた。


天災と呼ばれる獣がいた、神獣ベヒモス

いにしえの文献にわずかばかり登場するかの獣は、

闇を引き連れ、万を超える落雷と共に現れると言う



かつてマグナシアと言う魔法大国があった。


進み過ぎた魔法を用いて、他の国々を支配下において非道の限りを尽くした


見かねた神が、神獣ベヒモスを遣わして、わずか一夜のうちにマグナシアは滅んだと言われる


その巨体は魔法が通じす、剣も槍も全て弾く黒き体毛に覆われていたと言う。


そんな伝承をもつ、幻の神獣ベヒモス?


もう、色々と驚く事しかありません


カンザキ様は、私などが、いえ、王族など比べものにならない程お強く、住んでいる世界、見ている世界は広い

やはりこの方しかいません。


シアの瞳は潤み、安堵なのか嬉しいのか分からない感動をしている。

やはり、カンザキ様が大好きです。



「おっと、焼けたぞ。一番旨い部位だ。食べてみろ」


焼かれた、ステーキが差し出される。


シアはそれをぱくりと食べてみると、良い歯ごたえ、なのに固くなく、溶けるように消えていく。

その匂いはまるでフルーツの様に芳醇。


夢中で全てを食べていた




「うまいだろ?」



「はいっ!」








いつの間にか解体したはずのベヒモスが消えていた。

聞くとカンザキのもつ魔法の袋とやらに全て収納したらしい


それにもシアは驚いた


魔法の袋は王宮の博物館にあり、ただ破れているために使用はできない伝説の遺物だ


それを当たり前の様に持っていて、さらに雑に扱うカンザキを見て


シアは怒った…常識とはって言われてもどうなんだろうと思うカンザキ


そして腕輪やピアスなど、確実に伝説級のマジックアイテムをほいほい渡す事にも怒られたりした。






良かれと思ってやったのになあ。





カンザキは既に尻に敷かれかけていたのだった。






わずか二日目にして








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