第11話閑話休題 その1 とある4人組の冒険譚
ダンジョン第41層
「はあ、はあ、はあ、はあ」
洞窟型フロアのダンジョンの中に、息切れの声が響き渡る
薄暗い通路、床に寝転がる影が4つ
息は切れ、まともに動けないのだ
彼らは先程40層を抜けてきた、いや、逃げてきた。
「はあ、はあ、あの鳥、ヤバイ!」
額に出来た大粒の汗を垂らしながら、重い鎧に身を包んだ大男が言った。
「だ、誰もやられてないよな!?」
リーダーのカインが確認する
カインは赤髪のライトメイルを装備した剣士だ。さすがに、半身を持ち上げるだけの力は残っていたらしく、起き上がって言った。
「大丈夫よ、カイン、はあ、はあ」
うつぶせになりながら、魔法使いらしき女の子が声も切れ切れに言った
黒のローブに身を包み、大きな魔石をあしらったいかにもな木の杖を持っている。
「ふう、モコも大丈夫か。バジ、シオンは?」
魔法使いの女の子はモコと言うらしい
ああ、そうだあとシオンがいたはずだ。
バジと呼ばれた大男が答える。
「そこで伸びてるよ。」
「すまないカイン、しばらく動けそうにないぜ。」
弓使いらしい。折れてしまっている弓を大事に持っている。だが顔は青ざめ、ぐったりとしている
ダンジョンの40層には、神鳥とよばれ、恐れられているコカトリスがいる
ほとんど出会うことは少ない、レアな鳥のモンスター
だが1度出逢えば、逃げるしかないレベルの強敵である
その宝石の様な瞳に見入ってしまえば、石化してしまうから。
無事に逃げ延びた4人は、息を整えた後、ひとまず41層のセーフゾーンに退避する
そこには簡単な食事ができたり買い物が出きる店もあるし、転送屋と呼ばれる、ダンジョン外に一気に出れる魔法を使える店もある
通常は10層ごとにあるのだが、40層にだけはコカトリスが居たため作ることが出来なかった。
ので、仕方なく41層に作られたのだ
先人たちの苦労の結晶である
「それにしても、調子に乗りすぎちまったな」
カインは呟いた
調子に乗った、それは強くなったと感じ、どんどんと奥へ奥へと進んだ事に他ならない。
「仕方ないさ、カイン。俺らは間違いなく強くなってるんだ」
バジが言った。
そうさ、仕方ないさ。実際にここまでこれたのだし。
「そうね・・・あのドラゴンの焼肉が食べたいがために頑張ったんだものね」
モコはあの味を思い出しながら。あの味をまた、食べたいと思いながら進んだ事に後悔はない
「なあ・・・・俺達これで、SS級になれたな・・・・」
シオンが言った。
この言葉はつまり、あれだ。
焼肉ゴッドにいって、また、ご褒美をもらっちゃおうってことで・・・
あの時はまだ初心者だった。ようやく10層に行けたのだ。
それからわずかひと月、肉が目標だったとは言え40層をこえたのだ
4人は一度、街に戻ることにした
転送屋の値段は結構するのだが、採取できた物を売却すると十分に支払うことができた
そこでゴッドの店主、カンザキにSS級になれたことを告げる
すると、もうドラゴン肉は切れてしまった、その代わりもっと良い肉を食わせてやると、極上の飛び抜けて旨い肉を食べさせてもらった。
あまりの感動と旨さに我を忘れて、何の肉を食べたのかは聞く事を忘れてしまったが・・・
そして・・・・ダンジョンに潜り、異変に気づいた。
「なあ・・・カイン・・・みんな・・・」
バジが言った。
神妙な、うれしいようなむずかしいような、そんな顔で。
「うんー分かってる。おかしいことくらい。」
モコも、諦めた様な、そんな顔。
カイン達は今、50層にいる。しかも、苦労などした風ではない。
焼肉ゴッドに行ったのが一昨日で、翌日は一日休日とした。
そして装備を整え、そして今日、ダンジョンに入ったのだ。
だが今居るのはすでに50層
ダンジョンに入って、丸一日、進行しっぱなしだったのに気づいたのが先ほど。
あまり疲労をしていないどころか、まだ元気も余りある
何かがおかしい、そう思いながら進んでいたのが40層まで。
さらに強い違和感を感じながら進んだのが、48層まで
そして先ほど、49層にいたボスモンスターを倒したところで確信に変わった。
「俺達、こんなに強く、なかったよな」
そうなのだ、ボスも余裕で屠ってしまっていた
自分自身、カインは剣士として一皮どころか、二皮も三皮も剥けた。飛躍的に速度が上昇、結果、剣技は冴え渡った。
バジも膂力が一気に強化された。硬いと言われている、タートル系の甲羅やロック系ゴーレムを一撃で粉砕してきた。体も一回り大きくなっている気がする。
モコも顕著に変わった。つるぺたな胸はそのままだが、魔力が3倍以上に増えたし、さらに親和性の高い魔法が、今までは火属性のみだったのが何故か全属性を扱え、中級魔法までだったのが上級魔法、一部は一級魔法まで使える。
シオンは弓の腕前こそ変わらないが、弓の飛距離が倍に。さらに気配察知の範囲も驚異的な伸びを見せる。
4人共はそう、たとえるならもう別人になったんじゃないかという次元の強さになってしまっていた。
そして、4人には共通の心当たりが1つある
焼肉ゴッドで食べたあの、フルーツより芳醇な香り、歯ごたえはあるのに、溶けるかのように消えるあの美味な肉。
思い出すだけでおなかが空いてくるあの肉のこと
どう考えてもあの肉を食べたことにより、身体能力や魔力が劇的に向上したとしか思えなかった
そしてそれはもう、間違いなく確信している
「うまかった……よなぁ」
「ああ」
つい、思い出してしまうあの味
4人は同時にこう言ったのだった
「「「「「あれほんとに何の肉だったんだよーーーー!!!!」」」」
そして・・・その日からわずか1ヶ月後、新人だったはずの4人組はSSS級に名を連ね、到達階層を前人未到の70層に延ばした
最高の栄誉を手に入れたのである
だが4人はさすがにこの異様なパワーアップが怖くなり、しばらく焼肉ゴッドから足が遠のいたのだった…
でもさ、そんな美味い肉……もう一度食べたいと思うよね…
我慢なんて…できないよね。
モコは自然と…一人だけでこっそりと焼肉ゴッドに通うのであった
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