第111話コカトリスの卵

ウルグインの街の中心には大きな穴がある。その先はダンジョンとなっており、様々な恵を与えてくれる


長年停滞していた下層への攻略が進んだ

原因は色々とあるのだが、今は割愛する


中で遭遇するモンスターにはさまざまな攻略法があったりして…





ざわざわと、少しばかり人出が増えてくる夕方


油を使用した街灯がその少しづつ点灯されていく

ダイダロスの街中では、電灯がすでに実用化されているがここウルグインではいまだ古い設備のままだ


商工会という、店主たちがお金を出し合いって街灯やゴミの収集など維持管理するこの飲食街はそれなりに活気がある


活気があるという事は人が集まっていることでもあるし、その分トラブルも多い

だからここには衛兵の駐屯所などもある


お行儀よくという程にはいかないが、それなりに抑止力はあるようで昔は飲んだ挙句に喧嘩で大けが、それならばまだいいが死ぬといったことも多かったらしい


今でもここはダンジョンを生活の糧とする冒険者がこの時間になれば食事にやってくる

綺麗な恰好をしている者は逆に目立つ、そんな場所に少しばかり似合わない恰好の女性冒険者が颯爽と歩いている


緋色の長い髪に、黒色のマントを羽織ってその中には汚れ一つない薄緑の軽鎧を纏っているその彼女は、このウルグインにあるカンザキの焼肉屋に入っていく



「こんにちはー」


店に入るなり少しばかり大きめの声であいさつする


「あ、いらっしゃいアリアさん」


「シアさんどーも、サラダと盛り合わせひとつ、あとビール下さい」


そういって店奥にある一人用のカウンターに座る

ほどなく、シアが食材が盛られた皿をもってくると、あらかじめ作られた火の付いた炭をテーブルに開けられたくぼみに入れて網を乗せる


網が熱せられるまでの間にアリアはサラダを食べて、くいっとビールを飲む


「んっあぁ、美味しい」


「お?来てたのか」


「あ、カンザキさん。どーも」


「今日もダンジョンに潜ってたのか?」


「そうですね、少しだけですけど。あ、そうだ」


そう言うとアリアは腰に付けた猫印の収納バッグをあける

巾着タイプのそれの口を大きく開けると一つの卵を取り出した


「お、そいつは」


カンザキも見覚えのあるその大きい卵は


「コカトリスの卵か」


「ええ、これもってきたら卵スープ作ってもらえるかなと思って」


「ああ、いいぞ。最近取りに行ってなくて作れなくなっていたところだ」


「へぇ。前は出してたんですか?」


「そうだな、一時は安定供給できるかとコカトリス牧場まで作ったんだがなぁ…あいつら飼いならされたと思ったら一斉に反乱起こしやがった。暴れてそれどころじゃねぇってなってな。さらにそれどころか卵も産まなくなっちまったんだぜ」


「へぇ…っていうか何してんですか…アレ飼おうとしたんですか!?」


「まぁ、でけぇニワトリみてぇなもんだろ?」


はぁ、とアリアはため息を漏らす

あれ一応元々は伝説上のモンスターなのになぁひどい言われようねと

まぁ仕方ないかと思いなおす


「ほら、出しな。作ってやるから」


アリアはカンザキに卵を渡すと、スープが来るまでの間に盛り合わせで出された肉を焼き始める


じっくり焼いて食べる派なので、ちりちりと色が変わっていくのを眺めながらビールを飲む


同時に焼くのは2枚までと決めている


そういえば、まだここで焼き肉は食べた事なかったなぁとアリアは思った


他店では食べたことがある

ウルグインでは数店ではあるが、焼肉屋が出来ているのだ


だがモンスター肉を出す焼肉屋はここ、焼肉GODだけだったりするのだがアリアはそれを知らない


焼きあがった肉を、タレ皿にたっぷりと浸してから口に放り込む


「あ、美味しい…」


ピリッと甘辛いそのタレはアリアの思い描く焼肉のたれそのものだった


思わず無言で何枚も焼いて食べていく


少しばかり落ち着くと、そのテーブルに一つの椀が置かれる


「ほら、出来たぞ」


「うわ、タイミングばっちり!」


その椀にはレンゲの様な恰好をしたスプーンがついてた


それを掬い、ごくりと飲む


「うわぁ…おいっしい。なにこれ」


「なにこれって、お前さんが取ってきた卵で作ったスープだよ」


「それは分かってるわよ。人は見かけによらないっていうけど、ほんとカンザキさんの事だと思うわ」


ぷっ、と笑いが起きる


見ればシアも笑っている

それがそんなに面白かったか?とカンザキは少しばかり不貞腐れて


「コカトリスの卵、取るの大変だったろ?」


そうアリアに言った。ちょっとだけ意趣返しのつもりだった

あれは視線を合わせれば石化してしまう

気を付けて相対しなければカンザキとて一瞬動きを止められてしまうほどの邪眼だ

まぁカンザキは視線を外しつつ戦うとか、それこそ速い動きで後ろに回り込むなどするのだがあの目はあまり好きではない


「ん?ああ、楽勝よ?あれほど楽に卵取れるなんてってくらいには楽」


「は?いやいや、石化の邪眼があるだろ?だから40層あたりに出るやつでもそれは再現されてて結構な難関だって前に来た冒険者も言ってたぞ」


「あー、前はね。40層の悪魔とか言われてたんだっけ」


「そうそう」


カンザキは腕を組んで頷く


「でもいまはねぇ‥雑魚よ、コカトリス」


ん?とカンザキは分からない顔をする


「ほらこれ」


そう言ってアリアは猫印の収納バックからひょいと取り出したそれを顔にかける


「あ・・・・」


カンザキはそれを見て気づいた


「サングラス、だと…」


サングラスをくいっと上げて


「そう、コレ。ちょっと前からすっごいはやってるの。今じゃダンジョン40層に行く人はみんな持ってるよ、まぁ私は120層行くんだけど」


カンザキはがくりと膝をつく


「そんなもので・・・防げたのか・・・あれ・・・」


カンザキの中の常識みたいなものが音を立てて崩れていく


それを見ておろおろとするシアを見ると


「もしかして、シアも知ってたのか?」


「ええっと‥‥その、はい。私はキトラちゃんから聞きました」


「そうか…あ、そういえばキャサリンもなんか急にサングラスして見せびらかしに来てたな…もしかして知らなかったのは俺だけか?」


「た、たぶん…」


がっくりと四つん這いになってうなだれるカンザキ


「あははははは、あー、おっかしい。カンザキさんでもそんなことあるのね」


アリアは上機嫌に笑う


「あのなぁ、俺だってそんなにモンスターに詳しいわけじゃねえんだ。それどころか逆だろうな、詳しくない!」


「なに自信満々に詳しくないって言ってるのよ。胸を張る事でもないでしょ?」


「はぁ、まぁお前さんがそれを簡単に取ってこれたのは分かったよ。」


それだけ言うとカンザキは厨房に引っ込んでしまった

きっと少し悔しかったのだろう

おっさんなのに、まるで少年の様なその行動にアリアは少しばかり可愛いと思ってしまった


「おっと、お肉お肉」


網に向き直して再び肉を焼きはじめる


「あ、アリアさんこれどうぞ」


そう言ってシアに出されたのは小さな壺だ。開けてみると中には白くすりおろされたものがある


匂いを嗅いでみると


あ、ニンニク


それをちいさな匙でひと掬いしてたれに入れた


そしてそれに肉を浸してぱくり


「あー、おいしー!」


アリア、今日一の笑顔である




モンスターには意外な攻略法、みたいなものがあることが在る

それが今回はコカトリスにサングラスだった

それは広く冒険者に知れ渡り必需品になっていく



ちなみにタダのサングラスではない。そのサングラスのはしっこには小さくあのマークがある


猫印のサングラスー

抗対邪眼。たとえ即死であっても防ぐそれは安くはないが元が十分取れると評判である



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