第112話カンザキの隠し子?

「ただいま……」


カンザキの声がしてシアは開店準備をしていた手を止めて、

なんとなく声が小さく、変だなと思いつつ返事をする


「あ、おかえりなさ……い」


「あぃー」


カンザキの両腕に抱かれた、1歳程度の赤ん坊が笑いながら手を振る


それを見て、一瞬でシアの表情が固まる


「ええっ、とだな、実はおっと、暴れるな」


「おとー、おとー!」


その赤ん坊はあろうことかカンザキにおとー、おとーと言ってニコニコと笑いまるで親子かの様に懐いている


「そんな、まさか……ガンザキさま、その子は、まさか」


シアは直感する


カンザキの抱く赤ん坊の髪色は黒くさらさらと柔らかそうで、目はほんの少しだけ赤いようだが、茶色に近いように見える

カンザキと同じ色だ

そしてまるで父親の様にカンザキに懐き、さらには「おとー、さん」とでも言っているのだろうか?

まだキチンとは喋れないのに必死になって言っているその様は……


「カンザキさま……の、子供……?そんな、まさか、うそ、お姉さまとの?いえそんなハズは…じゃあミナリさん……」


そんな慌てるシアを見て今度はカンザキを混乱させる


「いやいや、ちがうちがう」


「ちがう!?って誰との子供ですか!?ユキちゃん!?まさか、キトラちゃん!?シルちゃん!?どどどど、どういうことですかああああああ!」


「ええっ!?」


「いやぁぁー!!」


キチンと、満遍なく完璧な勘違いを完了させたシアは手に持つ雑巾を握り締めて店を飛び出して走り駆けた


「カンザキさまの!ばかーーーーー!」


そう叫びながら


「嘘だろ、おい……」


カンザキのそのつぶやきは抱いている子供にしか届かなかった


「ぱぱー」






その日カンザキはガルバに呼び出された帰りだった

ある一人の男に呼び止められる


「なぁ、あんた」


「ん?」


「頼みがあるんだ」


そう男は真剣な顔でカンザキにその頼みを言った


この子を頼む


それだけを言い残して、その男は薄くなり消えてしまった


「な、なんだぁ?」


男の立っていた場所に、まだ立てないほどちいさな赤ん坊を残して


「おいおい、冗談じゃねぇぞ…」


カンザキは残された子を抱き上げる


「お前の父ちゃんか?今の」


「あだーだー」


「ってわかんねぇよなぁ・・・」


とりあえず途方に暮れる

だが男はどこにも見当たらない

カンザキの感知能力をもってしても、近くにいないと言うことだけが分かる


「名前くらい…」


そう思って子供を見ると、腹の所に手紙が挟まっているのを見つけた

それを優しくかさりと取り出すとそこには「ミナリへ」そう書いてあった


なるほど、ミナリへか。

であればいったん店へ帰ってからミナリを待てばいい

手紙を読みたい衝動に駆られるが残念ながら人へ宛てられた手紙を勝手に見るなんてことはカンザキには到底出来ない事だった





そして帰ってきたのはいいのだがシアがとんでもない勢いで勘違いして飛び出していく


止める間もなくである


「はぁ…」


ため息は漏れる。だがため息で状況は改善するわけはない

ここは早くミナリが帰ってくるのを祈るだけだ


「しっかし、お前の親ぁどうなってるんだ?俺がミナリを知っていたのを、知っていたのか?」


「あだー」


無邪気に笑うその子を見ながらカンザキは話しかける


「お前はいい子だな…ぐずりもしない…つーか俺がぐずってても仕方ねぇな」


カンザキはそう言って二階に上がる

自室にはいろいろな物がある

その中からちょうどいい、布で出来た紐を見つけると


「おんぶ紐ってどうやんだっけ…見たことはあるんだが」


なんとなく構造を考えながら子供を背負おうと努力するが、そんなもので出来るわけもなく途方にくれる


何か思いついたように出かけると


「鹿さん、あんたんとこおんぶ紐とか、そんなの余ってない?」


そういうことで解決を図った


使い方を教わってと言うか、背負わせて貰って帰った

背負ったまま開店の仕込みを始めてみると、背中が暖かいなあと思う

コレが人間の体温か…


ていうか、暖かすぎない?

まるで背中で温水が流れてるような‥‥



「うおおおおお!マジか!マジでか!?どうすんだこれ!」



人間だもの、おしっこくらいするさ


そうして慌てたタイミングで神が来店する



「おーカンザキ、鹿に言われてウチのも持ってきたぞ。おむつと子供服」


「ガルバ…おまえ、最高だよ…」


カンザキは涙せざるを得なかった

これが神の助けと言わずなんなのだと


ひとまずそのまま店の裏の風呂に入って体を洗い、着替える

さすがに背中で粗相される度に風呂に入るわけにもいかないので、きちっとおむつはしておく



そしてガルバのとこの子供のおさがりの服を着せておく


「しかし、お前ほんと泣かないな…嫌な事とかねーのか?」


「あうー?」


「男の子なんだな、お前。顔だけだとまだよく分からんな」


にこりと笑うその赤ん坊を見ると、カンザキもまんざらではなさそうに


「まぁいいか、つーかミナリのやつおせぇな…いつもこれくらいの時間には顔出すのにな」


さすがに店をやりながら子供の世話は出来ないと気づいていったん店を閉めておく


だが身内はたいして気にせずに入ってくるだろうから問題はない


背中ではなく、だっこ紐に変えて前に抱く

さきほど店を開けないと決めて、おんぶ紐をやめたところこの子はかなりのハイハイ性能を見せた


椅子からテーブルへ登り、そして炭を掴もうと手を伸ばしたのを見てヤバいと思って抱き上げた


世の中の子供を世話をしている人は皆すごいとカンザキは思った

抱いていると、いつの間にかすやすやと寝始めている


暖かい赤ん坊の重みを感じながら、その小さな手、やわらかい赤みかかった頬を見るとミニチュアの人間のようで、すげぇなと感心する


「爪とかもあるんだな…当たり前か…細くて強く触ると折れてしまいそうなほどの指だ」


人間ってすげぇなあ


そんな感想しか出てこない。だが、今までにない感情が産まれたような気がした


キャサリンも、こんな気持ちでキトラとシルメリアを引き取って育てていたのだろうか

改めて、キャサリンのすごさの様な物を感じたカンザキだった







「うう…ミナリちゃん、ミナリちゃんじゃなかったんですね…」


「もう、シアさん落ち着いてくださいよ…何事かと思ったじゃないですか…」


ダンジョンから出てきたミナリをシアは見つけると泣きながら抱き着いていた

慌てたミナリが人目につくからと、近いカフェに連れ込んで話を聞いていたのだ



「だって、黒い髪だったし、それになんか親子の様だったんですよ」


「シン兄はキャサリンと婚約したでしょう?あの人が浮気するわけないですよ。それにその子を産んだとしたらどこで育ててたんですか」


ああ、そういえばとシアは気づいた

あの子は産まれたてではなかった。おそらくは1歳くらいか、だったらそれまで育てていたはずだし妊娠までさかのぼれば二年近く前になるその間大きくなるお腹を誰にも気づかれず出産し、さらには育てていたなんて不可能ではないかと


「あ…よく考えたらそんなわけがないと気づきました」


「はぁ…それはともかく、誰の子供なのかしら?誘拐するわけはないし…ショウヘイさんとこの子供はまだもっと小さいですしね」


「それなら気づきますよ、それにあの子達は髪の色が違います」


「そうねー」


ショウヘイはこちらに帰ってきた後に、すぐさま三人の妻と結婚した

そして、結構最近子供が産まれていたのだ


その時はカンザキ達も大いに喜んで盛り上がったのは結構最近のこと


「とりあえず、帰ってみましょうか、それでシン兄に聞いてみましょう。もう結構おそくなっちゃいましたし」


そう言って赤く目の腫れたシアの手を握ると、カンザキの店へと帰るのだった

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