第113話隠し子じゃなければ何の子なのか

「たぁっだいまぁー!」


元気よく店の扉を開けて帰ってきたのはキャサリンだった

カンザキは身構える

それはシアの反応を経験しているからだ


その姉であるキャサリン、もしかしたらシアの様な反応をするかも知れない……そう考えてカンザキは備えたのだが……



「なあ、キャサリン……」


「ん?どしたカンザキ」


「おまえのその手に抱くのは誰の子だああああ!産んだのか!?キャサリンが産み落としたの?俺の事は遊びだったのか!?」


取り乱すカンザキ

何故ならばキャサリンはその手に、薄い赤色の髪の赤ん坊を抱いていたからだ


「うむ……ってか落ち着けカンザキ」


バギッ


「ぐほ」


「私の子な訳ないじゃん。なんか赤髪の女に頼むとか言われてさ、消えたと思ったらこの子がいたんだよ」


「みぞおちは痛えよ……」


「てゆーか、カンザキも子供抱いてるじゃない。預かったの?」


なんて落ち着いてるんだ…さすがキャサリン

それに慧眼だな、預かったことまで分かるとは


「あ、ああそうだ。俺の場合は黒髪の男だったけどな」


「ふぅん。これ、なんかあるよねぇ?私とカンザキの元に子供預けるとかさ」


それはそう、だな


「誰かが俺たちのこと知ってて預けてるってことか?」


「そう考えるのが普通じゃない?とりあえず、面倒見ておくしかないだろうけどね」


「目的はわからないか」


「あれだけじゃね…」


「そういえば、手紙は持ってなかったか?こっちはこんなのが服に挟まってたんだが」


そういって手紙をキャサリンに見せる

それを一瞥して


「ふぅん、ミナリにね…」


「ああ、俺でもなければキャサリンでもないってことはだ、ミナリの関係者だろ?」


「うーん。まぁそうか」


「とりあえずミナリの帰りを待ってるんだが…何かあったのか帰ってこないんだよな」



そのミナリはシアを一生懸命慰めていたことで遅くなっているとは夢にも思わない


ひとまずキャサリンは一度自室に戻って、赤ん坊用の服やおむつがあるからと取ってきた

それを裏で一枚一枚綺麗に洗っていく

しばらく仕舞い込んでいたからという事の様だ


「結構小さい子もさ、前は居たからね」


キャサリンの店ではお姉さんとお酒を飲む店だった

その時の託児所も二階にあったため、子供用の物が結構残っているのだそうだ


カンザキも寝ている赤ん坊をキャサリンが用意した布団が敷かれた籠にそっと置いて、手伝っている


「名前とかって、どうなんだろうな」


「この子達の?ミナリが帰ってきたらわかるんじゃないの?」


「ああ、そうだよな」


他愛の無い話をしながらいろいろと赤ん坊と共に暮らす環境を整えていく

キャサリンは手馴れたものでしまいこんでいただけのものを裏庭にどんどん出していくと、それを片っ端から綺麗に掃除してく


「子供の部屋も欲しいね…」


「そうだな」


そうカンザキが言うと


「えへへ」


「どうしたキャサリン」


「なんかさ、これ夫婦っていうか、家族みたいじゃない?」


それ、上目遣いでそんなの言われたらカンザキだって


「照れるだろ」


「はは、カンザキ耳真っ赤じゃん」


カンザキもふと、いいなと思ったのだ


「ちょっと鹿に頼んで裏庭に部屋つくっといてもらおうか」


「そうだね、カンザキの部屋とか危ないもの結構あるしね」


「そりゃキャサリンの部屋もだろ」


「ちがいない」


そんな穏やかな時間が流れていた時だった

店の方から声が聞こえてきた


「あれーシン兄ぃいないのー?」


どうやらミナリが帰ってきたようだった

キャサリンを裏庭に残して店に戻るとそこには



「なぁミナリ…なんでお前まで赤ん坊抱いてるんだ?」



という具合である


「あの、カンザキさま…」


「あ、シア!」


「その、すみませんでした!」


ばっと頭を下げる


「私、ひょっとして早とちりしてしまいましたか?」


下げたままそう言う


「あー。そうだな…なんか赤ん坊は預かったんだよ…知らない男から」


「そう、だったんですね……すみません、ほんと早とちりしまして」


「いや、いいよ。俺も慌ててなんか説明できなかったし」


「大声でカンザキさまのあほーとか、女たらしとか、隠し子とか叫んでしまいました……」


「おっと、それは聞いてねえな」


「ド変態とも……」


「それもう悪意しかないよね?」


「ちょっと、シン兄私のことも見てくれない?」


あ、忘れてた

そう言えばミナリも赤ん坊抱いてたな


「お前それ、どうしたんだよ」


ミナリの抱く子を見ながら言った


「あのねえ、この子店の前に置かれてたのよ。今帰ってきたらだけど」


「はぁ?店の前ってうちのか?」


「そーよ、誰が置いてったのかその辺にいた人に聞いたけど知らないって言うし、シアちゃんもシン兄が抱いてた子供と違うって言うし…何が起きてるの?」


それは俺が聞きたいよ、カンザキはそう思った


「しかし、これで3人目か……」


カンザキは裏庭にキャサリンが連れてきた子供も居ることを話す

それにミナリに心当たりはないかと聞くが知らないと答えられた


「うーん。ああそうだ、ミナリ、こんな手紙があったんだ」


そう言ってカンザキが差し出す手紙を

ミナリは抱いていた赤ん坊をシアに預けてから受け取ると封を切って読み始めた


そんなに長い手紙では無かったらしい

そして一言


「さすが異世界、魔法の世界か……」


「どう言う意味だ?」


「まあ、1週間ほどなんとか子守りしたら分かるよ」


「1週間?」


「そ、そしたら親がこの子を引き取るからって」


そういう事が書いてあったのか、ミナリは


「私が面倒見るよ。恩人の子供だし」


「いいのか?」


「うん。大丈夫、こう見えて私赤ちゃんの面倒とか見れるよ?弟が小さい時世話してたし」


「ああ、そういえばそうか」


「だから任せて」


「分かった。そういや、名前って分かるのか?」


ああー、名前……

そうミナリは呟いてから


「黒髪の男の子はグレン、赤髪の女の子はエリザ…そして、この子の名前はフィン、男の子だよ」


そう言った


そしてミナリの言う1週間と言う期間だが

その意味も翌日には既にわかることになった

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