第19話ダイダロス編1 オークション

ウルグインがダンジョン都市であるならば、その最も近隣にある、ダイダロスは工業都市と言える


魔石利用による近代化が進む近代国家でその首都である


元々は大きな魔石鉱山がそこにあったのだが、長年の採掘により、なんとほぼ平野となってしまっている。


現在は北の山脈にある鉱山が主な鉄と、魔石の産出地帯だ


魔石や鉄の採掘量は今でもウルグインのダンジョン以上である事からも分かるようにかなりの鉱脈がそこにはあるのが分かる




「まあ表向きはそうなってんだが最近の学者先生の研究じゃあここは、元は魔法都市マグナシアだかの後に出来た都市だって話だぜ」



俺は首都入口で貰ったこのダイダロスのパンフレットをみながらガルバに説明を聞いていた


「詳しいな。ガルバは良く来るのか?」


「まあな、若い頃は良く通ったもんだ。それに商売してると、同業からいろんな話が舞い込んで来るもんよ」


カンザキとガルバは2日かけてダイダロスに到着していた


カンザキ自身もがこの街に来るのは数年ぶりである


その頃の記憶からすれば、ずいぶんと発展しているなと感じる

以前は入口で観光パンフレットとかなかったしなあ


それに、この街中は5階建てくらいの高いビルが建ち並び、道はまるであのアスファルトで覆われているように見える。恐らくは違う物質なのだろうとは思うが

それにその道路には、まるで自動車そのものと言えるだろう魔導車と呼ばれる車両も運用されているようだった


そして今現在も、至る所で建設中の建物があるし、道路の整備もすすんでいるのが見て取れた



日本を思い出すな


しばらくぶりに来たダイダロス、カンザキの感想はそんな哀愁が漂った



「なんでもよ。新しい領主様が天才的な発明家らしいんだ。そんで新しい政策なんかもどんどん出していてしかもそれがドンピシャで当たると評判でなぁ」


ガルバの話によれば最近王政から領主を選ぶ方式に変わったとか


そしてその選ばれた新しい領主が進める政策は市民にも大変好評で支持率も高いらしい


先程の学者先生の研究なんかもその領主がさせているそうだ


ずいぶん優秀だな……それに民主制か。誰かこっちにきたのか?


しかしそれはカンザキにはあまり関係ない事である、興味はさほどそちらには向かなかった




それはともかくとして、彼らの目的はオークションである


「んでガルバは何の酒を狙ってきたんだ?オークションに出されるような逸品みたいなものがあるのか?」


まあ政治に興味は無くとも、近代化しつつある街並みには興味はあるのがカンザキだ

街中をキョロキョロしながら歩いていると、田舎から出てきたおのぼりさんみたいだなと自分で思った



「神酒(ソーマ)って知ってるか?伝説の神が造りし酒ってやつだ」


「知ってるよ」



神酒は有名だからなぁ!

ゲームなんかにも良く出てくる。HPとMPが回復したりするんだぞ……

この世界の神酒は知らないけどな



「そいつがダイダロス王家の蔵から出されるそうでなー」


ガルバは嬉しそうに笑みを作る


王家の蔵からか。それは信憑性が高い気がするな……しかし、それだと


「値段は相当張るんじゃないのか?」


「まぁ、今まで貯めた金を全部つぎ込んででも・・買えるもんなら買いたいんでな」


ガルバ曰く金で買えるものなら手に入る可能性はあるからということだ


前に娘の薬が必要だったときは金では買えない薬だった


それを手に入れた俺に金の代わりに持ってきた酒は高いが金で手に入るものだった


ガルバは趣味で酒を集めてるとか言ってたが、趣味にそんなにお金をかけれるとは、こいつ実は結構稼いでるんだな。


「嫁さんは止めないのか、そんな大金使うなんて」



ある日突然旦那が高額な買い物をして、それが奥様にバレて離婚の危機になるなんて話は良くある話だろうしな

だから旦那はこそこそとコレクションしたりする物である


「ああ、俺の趣味はそのまま仕事に直結してる様なところもあるからな。家に残す金に手をつけなければなんも言われねえよ」


もしかして……いや、もしかしなくてもガルバはデキる男なのだろうとカンザキは思った



「ほら、ここが今日の宿だぜ。併設されてるところがオークションの会場になる。そう言えば、さっき言ってた領主様もオークションには良く来るらしいぜ」


その宿は真新しくおよそ10階建ての……まさにホテルと言える


その横には、そうだな、体育館よりも大きなドーム型の建築物が並んでいた


「まあ、オークションは今夜開催されるからそれまでは部屋で待機していようぜ」


ガルバと俺はホテルの中で夜まで待つことにした


そのホテルの中はとても快適だった


最上階にはラウンジに、併設されているプール、そして風呂は各客室にあるのと大浴場がある。あと何処にでもあるような土産物屋がロビーの奥にはあった


やっぱり日本人だよなあ、この発想と言うかもうデジャブ感が凄い


さすがにこの高さの建物となると、全て階段で移動するのは大変だし、人気も上になるほどなくなりそうだなと思っていたら

なんと最新型と言われる魔導エレベーターがあった

…まあ、魔道とは名がついているもののカンザキから見れば普通のエレベーターが設置されていた。これを魔石を使うとは言え、再現するとはとんでもない事なんじゃないだろうか?



その同郷の者らしき人物が今夜オークションに来るらしい。会いたいような会いたくないような複雑な気持ちになった


カンザキはそんな気持ちを抱えたまま、夜のオークションを迎えた




オークション会場ー


買い手はおおよそ50人といったところか

カンザキも入場の際に、本日の目録が手渡される


それには冒険者ならば眉唾ものの魔剣や希少な魔石、おお、この間の炎の酒なんかもあるな!俺もガルバに頼んで入札してもらうか?


そんで今日の目玉はガルバも狙う神酒か


オークションに参加はしないが、ただその光景を見るだけの観客もいるんだな

宿泊客には入場券が配られていた

これもホテルからすれば催し物の一つと言ったところなんだろう


入札参加者の席の後ろには100名ほどの観客席が、並んでいた


その中にどう見ても一つだけ特別な豪華な席がある


今はだれも座っていないが、どうやらそこに領主が座る様だ

周りの客がそう話しているのが聞こえた


カンザキがキョロキョロとしていると、正面に設置されたステージに一人のスーツを着た男が上がってくる


そして壇上の男は言った


「皆様、ようこそいらっしゃいました。今宵もぜひ楽しんで行って下さい、本日の司会を努めさせて頂きますマッケンと申します、それでは早速ですがオークションを開催致します」


マッケンがそう言うと歓声と拍手が巻き起こった



とりあえずカンザキは暇である

だから見ながら楽しもうと決める


入札権はないのだが、目録にある

炎の酒関係は、またドワーフたちが来るかと思いガルバに落札を頼む

予算を伝えるとそれなら買えるとガルバは言った


やはりちょっと値段は張るみたいだな


こんなとこで買うなよとは言われたが、ガルバも在庫が無いらしくて、しぶしぶ落札してくれた


でも思ったよりはかなり安く落札できたようだ


どうやらみんな神酒が目的らしく温存しているなぁとガルバは言っていた


その後も、様々な魔道具や貴重な食材、絵や壺なども出品されて否応にも会場は盛り上がっていく



そしてついに神酒のオークションが始まろうとした時だった


後ろの特別席に領主が現れた

ザワザワと、周りが声を上げている

だが、どう見ても日本人じゃないんだよなあ…あの人


紹介でミタニとか言っている割には、この国の現地人にしか思えないその風貌にカンザキは気づく




替え玉か?





そう考えているうちに壇上ではこの日の目玉となるオークションが始まった



「神酒でございます。どうぞ皆様、ご覧下さい!」



置かれた酒瓶に歓声があがる


神々しくスポットライトが当てられた酒瓶に俺は見覚えがあった


俺の魔法の袋の中にも同じものがあるからだ



しかしそれは



ゾクリとした

もしアレが俺の物と同じであればかなりマズイ事になるからだ



だが競りは始まりどんどん値は釣りあがって行ったのだった














「くそう、領主様とか反則だぞ」


結果から言うと落札したのは領主様だった

しかも圧倒的な金額での落札


おそらくは客寄せの為に神酒を出品したか?

だがそれだとそれまでの出品物が高く売れなくなる可能性もあるから、最後に神酒とかはしないはずだ。


何か裏があるなぁ


それにもしも神酒がアレだったら

首は突っ込みたくないが、ガルバの落胆ぶりは半端ない


今もホテルのラウンジで高い酒をぐだぐだ言いながら飲みまくっている


「カンザキは良いよなあ、炎の酒安く買えていたしよ」


俺は一体いつまで付き合わなければいけないのかと辟易していた時


あの替え玉領主様がやってきた


取り巻きを数人引き連れて来た領主様は広いテーブル席に座る


「いやまさか領主様が神酒にご興味がおありでしたとは」


そんな会話が聞こえてくる


「いやなに、なんとなく飲んでみたかったのだ」


それを聞いたガルバが急にいきり立つ


「なんとなくで落札しやがったのかよ!」


おいおい声がでかいぞガルバ


「領主様はいいよなぁ!いくらでも金があってよぉ!」


いかん!このバカ

完全に喧嘩を売り始めやがった!


「おいよせ、ガルバ!あの神酒でいいなら俺が持っているヤツをやるから!」


思わず叫んでしまった


それに領主様は反応して、ニヤリと笑ったのが見えた


そして


「不敬罪だ!捉えよ!」


その領主の一言で


俺達は捕まってしまったのだった






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