第78話飲食店主の・・・

ダイダロス産の新型魔導車がガタガタと揺れる

日本の道路のように綺麗にアスファルトで舗装などされていない道だからだ


人や馬などの住み分けも行われていないゆえに、道を走る車は思うようにスピードはでない


道の中央部分は馬車などの為に空いているので、そこを車も走っている


目的地に着くと、乗っていた人間は降りて車は運転手が駐車場へと移動させる

カンザキの店には当然駐車場などはないのですこし離れた場所の駐車場と言うか、馬車を置く広場へと車を移した


カンザキの店まで車ではおおよそ30分ほどがかかっている、徒歩だと4時間以上はかかるだろう距離だ


だからやはり車は便利なのである


しかも燃料は魔力のみという超エコ仕様

排気ガスや充電不要なことを考えれば素晴らしく環境に配慮した乗り物であると言える。



逆にガソリンも必要のない世界、と言うかそれを活用できない世界なので、魔導車とはいえ大した驚きもなく変わった移動用魔導具として普及しつつもある


値段が高価であるということがまだネックなのではあるが


「ショウヘイさん、あの店みたいだよ?お客さん少ないねーこんなとこに偵察とか要らないんじゃないのかな」


「うん、それはそうなんだけどなんか気になってたんだ」


仕事熱心なショウヘイは様々な飲食店を視察する


それがこのウルグインに10店舗を構えれた秘訣でもある

各地区には特色があった


それに合わせた料理というのも存在したからだ

人が多いところもあれば、獣人が集まっている地域もあったし

宗教上の理由により肉を食べない地域もあった

それらに合うような店を展開してきたつもりだ


このあたりは歓楽街に近い

それゆえに飲み屋が多く、食事だけをしにくるという人は少ないのだ


ショウヘイがこの国でお金を安定して稼げるようになるまでは大変だった

ダンジョンがあるせいで人が多いこともある、国民の収入も多いので物価が高いからだ


つまり供給がやや、間に合っていないのだ


その中にあって、安価に飯を食わせる焼肉ゴッドはその焼肉というジャンルも重なっておかしな店といえる


「ニッチなニーズに合っていると言えばそれまでだが…」


他になにか理由があるのでは無いだろうか?


本当の理由は簡単だ。


カンザキがダンジョンで全て仕入れるから酒以外は仕入れ値がほぼゼロ


それがやっていける理由であるのだが、それはつまり冒険者がダンジョンで稼ぎもせず飲食店をやっているというバカな理由のため想像もつかない


今ショウヘイの頭の中では、自分の知らない直営牧場があるのではと、思っている位だ


「まぁいい。それに・・焼肉ね・・」


懐かしい、日本の香りがしている


その香りは確かに日本の焼肉屋のものだ

そして、当時は別段好きではなかったはずなのにどうだろうか、今は無性に・・懐かしくて食べたくなっている


故郷の味ってわけじゃないんだけどな・・それでも、懐かしい


ショウヘイはなんとも言えない気分になり無言で歩を進める

本来口数は多いほうなのになんだか言葉がでない

そこは焼肉ゴッド・・・ウルグインで唯一の焼肉屋だ


引き戸の入り口をゆっくり開けると、予想通りの匂いが漂っている


ああ・・・覚えているものだ

そう、この雰囲気だ。湿気もどことなく、油分を含んだこの感じ



「いらっしゃいませー、三名様ですか?こちらへどうぞ」


黒髪のショートカットの元気な店員さんが席へ案内してくれる


「あ、ああ」


さほど広くない店内だが、雰囲気は良い

一瞬視察に来た事を忘れていた


「ご注文はなんにしますー?」


「ひとまず、適当に酒と・・そうだな」


ちらりとメニュー票を見る


ミノ肉・・オーク肉、バジリスク・・!?

なんだこれ・・・ひとまず、慌てない・・・冷静に。

盛り合わせ、それを見てこれだと確信する


「こ、この店長おすすめ盛り合わせってのを三人前もらおうか・・・」


「はーい、かしこまりー」


店員はそれで奥に入っていった


「なぁ二人ともこのメニューどうだ?」


「改善の余地しかありませんね・・酒は銘柄がありませんし、肉についても部位はともかく実質これおすすめで頼まないと何を頼んでいいのかわかりません」


ソシアは冷静に分析している。これでもショウヘイのそばに3年はいるのだ


「ねね、これ箸だよね?うちの店と同じやつ。この鉄板すごいよねぇ」


ナートは内装や備品を見てあちこち触っている


ショウヘイははっとして確かにそうだと思う


箸に、この焼肉用鉄板・・・


それにそもそもこの匂い!


「日本人・・・がいるな・・・」


ようやく冷静な判断に戻ったショウヘイは思いつく

なぜすぐに気づかなかったのか

書類上でも見たではないか「カンザキ」これは苗字だ


そこでハッとする


先ほど案内してくれた店員は黒髪黒目の黄色人種ではなかったか?

この店の雰囲気と香ばしい香りにどうかしていたとしか思えない


そう、ここは確かにショウヘイと同じ日本人が経営する店に間違いはないのだから

自分以外にもここに同郷がいる、それで緊張したのもあるかもしれない


「おまたせしましたー」


お酒と肉の盛り合わせが同時に来る


店員は丁寧に置くと、肉をよく焼き、こちらのタレにつけてお召し上がり下さいと言って下がった


「へえ、焼いた肉に後から味つけて食べるのかーショウヘイこれ、面白いね。うちだと煮るのが多かったけど」


ナートがウキウキしながら肉を焼き始める


「もう、いやだ。油が跳ねちゃう」


ソシアは肉を焼きつつも跳ねる油が嫌なようだ

確かに、衣服に気を遣う女性は来にくいか、冒険者向けというのも納得だな


ショウヘイは一口、酒を飲む


「!?・・これ美味い・・まさかガルバさんの酒か!?」


ナートとソシアもショウヘイにつられて酒を飲む


「ちょ!?これ!!!」


「おいしぃ~~」


ソシアは驚愕し、ナートはにやにやと笑っている

ソシアとショウヘイは視線を交わす

そうだ、今やウルグインで一番有名な酒造・・ガルバの酒

入手は困難、そして生産量も増えたとはいえまだ多くはない


ショウヘイの店でも取り扱いはあるのだが、その量ゆえに値段は高額でありお得意様限定の裏メニュー扱いである


「しかもこの値段か・・・・」


それは明らかに、安い・・・


「ふあぁ~よっちった。これ買って帰れないかなー」


「かなり上物ですね・・・」


「おっと、肉が焼けたか。ほら、食べてみてくれ」


そういってナートの皿に焼けた肉を置く


「ほいー。ん・・あ・・。」


「どうだ?」


「ショウヘイさんもっとーもっとください!」


モグモグと焼けた肉をかたっぱしから食べるナート

ショウヘイとソシアも一切れ、タレにつけて口へ運ぶ


「こ・・これは」


懐かしい、焼肉そのものだ。

肉は素晴らしいの一言。脂肪が少なめなのであっさりと食べやすい

ウーヴァとは段違いの歯ごたえにとろける感じもある


「旨味が・・すごいですね」


「ああ・・そりゃ・・ウーヴァなんて比べ物にならないよ・・」


そしてタレが、素晴らしいのだ


「これは凄いな・・・」


ショウヘイは思わず、涙を一筋流した

それは郷愁の念からきたものだと気づくのにしばらくかかったのだが


「ちょっと店員さんいいかな?」


「はーい、追加ですかー?」


「ああ、それもなんだが店長は居られますか?」


「店長?ああ、カンザキさんなら今は留守ですけど、ミナリさんならいますよ」


新しい名前がでた。

ミナリ・・この国で聞いたことがない名前だ

これも・・三成・・とかか?


「ちょっとお話をお伺いしたいのだが」


「はーい、ミナリさーん。ちょっといいですかー?」


大きな声で奥の厨房に声を掛けると


「なにー?ユキちゃん?」


「お客様がおよびですー」


ユキ・・ちゃんか・・雪ね・・・これも日本名・・か?

そしてこの子もやはり日本人で、不在という店長も日本人か

少なくとも3人、こっちにきた日本人がいることになる


自分以外の日本人には会ったことがなかったショウヘイはやや、慎重になっている

自らも、日本人ですと言えばユキとも違った会話ができるということが容易に想像はできるのだが

完全に日本を「見捨てた」ショウヘイはそれさえも言い出せなかった


「はい、なんでしょう?」


長い黒髪を後ろに結んだその女性は


輝くような美しい笑顔のその女性は


「き、綺麗だ…美しい…」



ショウヘイはまた、仕事以外の別のことに心を奪われたのだった











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