第77話飲食店の主
その店はウルグインで唯一の焼肉屋だ
ほかの店と違うところは、モンスター肉のみということだ
だからというわけじゃないが、当然こんな疑問も浮かんでくる
「なぜウーヴァじゃないんだろう」
ショウヘイは自らが作り上げた畜産農場の家畜に対し、絶対の自信を持っている
環境は文句なしだし、餌だって選別されたものを使って品質を上げている
味にも自信があるのだ
「ショウヘイさん、この店は新しくできたと言っても開店は一年前ですね。ずいぶんと臨時休業も多いみたいで、ここ最近ようやく安定して店を開けている様です」
「そうみたいだね」
パラパラと報告書をめくりながらそう言った
移動は魔導車である
ダイダロスから取り寄せたこの車は非常に乗り心地も良い
ショウヘイの店や事務所、農場は南区にあり、この西区までは距離がある
「それにしてもモンスター肉か・・・まさかアレが食べれるのか?」
ショウヘイはかつてダンジョンで倒していたモンスターを思い出す
明確な人型モンスターは確かにいなかった
だが倒すのに必死で食べようなどとは思わなかったし、中には毒々しいモンスターもいた
それにしても、店主の名前がカンザキ・・そして焼肉屋か・・・
先日の祭りを思い出す
あの時の最後の催しもの、その時にカンザキという名前を国民は知った
ただの催しものだ
だが、気にならないといえばウソだ
今確かにショウヘイは気になっているのだから
それに焼肉はこの世界ではメジャーではない
その理由は幾つかはあったのだけれど、日本人であれば当然の様に好きな焼肉だが
ショウヘイはあまり好きではなかったのでこの世界でそれをやろうとは思わなかった
この店は若い冒険者が多く見受けられるとは書いてあるのだが、そもそもここの食事代が安い、貧乏な冒険者向けらしくそもそもが安いとのことだった
国が経営に関与する店などあろうはずがないのだが、それでも可能性というものは残されている
その可能性で一番現実的なのが血縁というものだろう
特に、開けたり閉めたりとか気軽にしているあたりが趣味っぽい雰囲気で飲食業をナメているとしか言いようがないとショウヘイは思った
ガタガタと舗装されていない道を走る魔導車でショウヘイはカンザキの店に向かう
焼肉ゴッドへと
◇
実は、ここ最近ちゃんと開いている理由はあったりする
それはミナリとユキの存在だ
ふたりがカンザキが仕入れで不在でも店を開けているからだ
ただミナリもユキも5日働いて1日休みとキッチリ決めている
もちろん、シアとかキャサリンもいるのだが二人は近頃王族業務に追われてほとんどいない毎日が続いていた
まぁアレの騒ぎのツケである
特にキャサリンは素性がばれてしまって大騒ぎになったのだし
それとは別にキトラとシルメリアは近頃冒険者としてダンジョンに潜っている日数も増えた
むーたんは相変わらずゴロゴロしているだけなのだけれど、ダンジョンにいる二人に危機が及ぶと飛んで助けに行っている
カンザキはあれから特に変わったこともなく、強いて言えば国王に突如として、時折呼び出されるくらいだ
キャサリンとシアと同棲に似た生活をしていたというのもあるのだが、毎日寝に帰ってくるキャサリンは疲れておりすぐに寝てしまう特にあれからの進展はなにもない。
嵐の前の静けさ・・とはきっとこの事なのだろうけども
ちなみに肉の仕入れについては、現在過剰気味になっていて
朝の数時間、ダンジョンに狩りに行くだけで事足りている
カンザキの近頃のおすすめはバジリスクで、定番はミノタウロスとオークといった所だ
「ユキちゃんこれどうかしら?」
ミナリはカンザキの畑で取れた野菜で色々作っている
カンザキは料理人では無かった故に、作れるレシピは少ない。
ミナリも独身、一人暮らしの割にはコンビニ女子だったからあまり料理はしなかったのだが
異世界には日本にあったような娯楽も無いため暇を持て余し、料理が趣味となっていた
「おー!美味しいですねこれ!ほうれん草の胡麻あえっぽいです」
ユキは試食係として力を発揮している
元から怠惰な性格ゆえ、ちょうど良いポジションだ
もぐもぐと食べながら鼻がふんふんと大きく開く
これはユキが本当においしいと思ったときに本人は知らずに大きくなっているらしい
ミナリはそれを見ながらよし、っとちいさくガッツポーズする
結局の所、店の運営形態はキャサリンの飲み屋とカンザキの焼肉屋が一つになっている
以前は冒険者にお酌をしてくれるいわゆるホステスさんが数名いたのだが、冒険者とデキちゃったらしく居なくなったのを機に普通の居酒屋みたいになっていた
そこでキャサリンはカンザキの店とくっつけちゃったのだ
店の経営内容が似たようなものだったこともあり、酒を多めにおく焼肉屋となった
日本でもよくある形態だったのでカンザキは特に問題ないと判断していた
「へぇ、ミナリが作ったのか。俺だとこう、うまく作れないんだよな」
カンザキが関心したようにミナリの作ったほうれん草胡麻あえを食べる
「えへへ・・・・」
テレて真っ赤になるミナリを見ながらユキはため息をつき言った
「アホくさ・・」
カンザキをとりまくメンバーの中でカンザキを恋愛対象として見ていない唯一の、冷静な人間はユキだけである
その生い立ちは前世がこの世界の勇者だったということもあってか年齢以上に大人びている
だが年相応の若い女の子なのでそういって浮いた話がないわけでもなかった
日本にいるときは、それなりにモテていたし、彼氏もいた
それを見たカンザキはユキが悩んでいると思って心配してみれば
「どうしたユキ?」
「いやねてんちょー、なんていいますか・・・ウザイ?」
「ウザ!?」
「あとあつくるしいです」
「あついの!?」
「ええ、そりゃもう氷魔法で世界ごと温度下げたいレベルですよ」
「環境破壊だよ!?」
「ああそういえば最近シアさんもキャサリンさんも帰ってきませんね」
「あからさまに話そらしやがった!って、まぁ忙しいみたいだからなぁ・・・絶対なんかまた企んでいる気がするが」
カンザキはこれ以上ないくらいの不安がよぎった
その時である
「あのー」
お客が来た
まだ店を開けていなかったので表まで出迎える
だがその客は・・・深いフードをかぶっている
うっすらと見える口元の口角がすこしだけ笑っているのがわかる
「すみません、カンザキさんいますか?」
客・・・ではないのか?
「はいよー」
「ほんとにいた。いやだなぁ・・カンザキさん・・うちの国で店やるって言ってくれてたじゃないですか?」
「ん?」
思いも寄らないその言葉にカンザキは疑問符を付ける
その人物はばさりとフードを脱ぐとそこに現れたのは
真っ赤な髪の色はまるで炎か血の赤色
瞳の色までが真紅に染まっている
通りすがりの人々が急に現れたー怪しくそして美しい美女に眼をー意識を奪われる
「あれ?」
ユキは何かに思い当たるような、その見覚えがあるような感じでその人を見る
「カンザキさん、お迎えに上がりました」
その声色はとても甘美なー甘い声色。
「誰だっけ?どっかでそれ見た事あるんだけど?」
反応したのはユキだ。
印象的なはずの赤髪と瞳、だがそれが何だったのかー大事な事だった気がする
だがその女性はユキを無視をして続ける
「随分と息苦しい事になっている様ですね、貴方らしくない。だから一緒に・・・わが国へ来ませんか?」
その言葉から察するに・・この人物はおそらく他国の重要人物か?
後ろでうーんうーんとユキが腕を組んで唸っている
「とりあえず、店に入ってくれ。ここじゃあんた目立ちすぎる」
そういってカンザキは彼女を招き入れた
近くの椅子に腰かけると次いでミナリがお茶を出す
「ありがとうございます」
「いいえ、あなた何処から来たの?」
ミナリはその美しい、不思議な雰囲気のする女性に話しかける
「あら、あなたカンザキさんの身内の方?なんだか雰囲気がそっくりね」
「えへへ・・」
そういわれるとミナリは先ほど同様顔を赤くして悦に浸る
ずずず、と出されたお茶を飲んでいるその女性はカンザキの知り合いなのだろうが当の本人は未だ思い出せずにいる
「お久しぶりですカンザキさま、ご活躍お聞きしております」
「あ、ああ・・ありがとう」
一体誰なんだ?
本当に思い出せない・・・
だが答えは意外なところから返ってくる
「なんじゃ、魔王ではないか」
いつの間にかそこにいたむーたんがそう言った
「「は?」」
ユキとミナリが何言ってるんだという感じでむーたんを見る
だがカンザキは思い出す
「あれ、ああ!なんだクリムゾンか!」
唐突に思い出した
魔王クリムゾン・・・カンザキの、この世界で最初の頃にできた友人だ
「それにしてもお前、大きくなったなぁっていうか、女だったのか?」
にやり、とクリムゾンは笑うと喋り方も昔に戻る
「あはは!変わんないね!カンザキ!ちょーっと演技したらコレだもんな!鈍い鈍い!」
カンザキもニヤリと笑って魔王とイエーイとか言いながらハイタッチをする
魔王を、敵を見つけたような目で睨み付けるミナリと
そうだったっけと言うような感じで見るユキ
「なんじゃ魔王がこんなとこまで来て。魔族の反応なんぞあるから何事かと思うたわ‥‥まあええわ。わし、もうちょっと寝る」
むーたんは再び二階に帰って行った
魔王クリムゾンー
かつて200階層で出会った旧友にして親友だった
懐かしい
あの日はさほど昔ではないが、カンザキにとっては大切な人だ
「約束、果たしてきたぜ」
クリムゾンがそう言うとカンザキは軽くうなづいて
「なんか食ってけよ」
会話がかみ合ってない気がする
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